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クラスのマドンナと買い物

「じゃあ、明日、少し遠いけどショッピングモールに行こうよ!」


 佐々木さんの提案に、俺は思わず固まった。


「お、俺なんかが、佐々木さんと……一緒に買い物なんか……な、なんか、いけない気がする」


 しどろもどろになりながら答えると、彼女はムッと頬を膨らませる。


「なにもいけないことなんてないよ。だって、私たち友達なんだから」


 その言葉に、胸がギュッと締め付けられる。


 友達――俺には久しく縁がなかった言葉だ。


「……あ、もしかして、女子と買い物するの初めて?」 


 彼女は俺の反応を見て、からかうようにニヤリと微笑む。


「う、う、うん。俺、小学校以来友達ができてなかったから……」


「なるほどねー。でも、心配無用! 私の趣味を探すために行くんだから、買い物に付き合わせるとかじゃないよ?」


「そ、そうですか……」


「あとさ、私も男子と遊びに行くのは初めてだし。何事も楽しめれば良いんだよ!」


 楽しむ。

 ――俺に、そんなことができるのか?


「それじゃ、私そろそろ仕事があるから、バイバイ!」


 そう言って彼女は去っていった。


 ……本当に、俺なんかが行ってもいいのか?



 次の日の準備をしようと、クローゼットを開ける。


 ――だが。


「うーん、どれもサイズが合わない……」


 普段、家からほとんど出ない俺は、そもそも服を新調する習慣がない。結果、ほとんどの服が身体に合わなくなっていた。


「やっぱり……痩せないといけないな……」


 しかし、今すぐにどうにかできるわけでもない。


 俺はクローゼットの奥に眠っていた唯一サイズの合う服を取り出す。


「……うん、これが唯一入る服だ。でも、なんか違和感がすごいけど……まぁ我慢するしかないか」



 翌日、俺はバス停へと向かっていた。


 ――が。


「ゼェゼェ……つ、疲れた……」


 ここまで歩くだけで息が上がる。やっぱり、執事に送ってもらえばよかったか……。


 そんなことを思いながらバス停に辿り着くと、そこには白いワンピースを身にまとった佐々木さんがいた。


「あ、こんにちは裕貴くん!」


 彼女は爽やかな笑顔で俺に手を振る。


 ……ヤバい。制服姿の時も可愛いと思ってたけど、私服はさらに破壊力が増している。


「こ、こんにちは……」


 心臓がバクバクと鳴る。こんなに緊張したのは久しぶりだ。


「あと少しでバスが来るから、話して待ってようよ!」


「わ、分かりました!」


 彼女の放つ柔らかい雰囲気に、俺の緊張は少しずつ解けていく。


 しかし――。


「それより、裕貴くん。その格好、なんか……すごいね?」


 彼女の目線が、俺の服に向けられる。


 ――そう、俺が着ているのは、結婚式とかに着ていくべきフォーマルなスーツ。そして、パツパツに張り詰めたサイズ違いの服。


「や、やっぱり変ですよね!? ちょっと、着替えてくるね!!」


「うん、ちょっと変かな」


 笑いを堪えるように微笑む彼女。しかし、その後に彼女は続けた。


「だからさ、裕貴くんの服を買いに行かない?」


「へ? う、うん、分かった……」


 そんな会話をしているうちに、バスが到着する。


「ほら、行こう!」


「う、うん」


 バスに乗り込むと、俺たちは隣同士に座った。



「ねぇ、裕貴くん」


「は、はい!」


 突然話しかけられ、俺は思わず背筋を伸ばす。


「裕貴くんはさ、何か欲しいものとかあるの?」


「ほ、欲しいもの……特にないです。ただ、モノじゃないなら……俺は友達がもっと欲しいです」


 俺は、思っていたことをそのまま口にしてしまった。


 佐々木さんは一瞬驚いたような顔をしたが――すぐにクスッと笑った。


「そうなんだ、友達ね。私も男友達とか、色んな人と友達になりたいな」


 そして、にこっと笑って――。


「それを考えると、私の最初の男友達は裕貴くんってことになるね!」


「っ……!?」


 可愛い子にそんなことを言われると……なんか、めちゃくちゃ照れるんだが。


「じゃあ、私手伝うよ。裕貴くんがもっと友達を作れるように!」


「あ、ありがとうございます……」



 ショッピングモールに到着し、俺たちはまず雑貨屋に向かった。


「佐々木さんは何を買うんですか?」


「うーん、まずおばあちゃんが言ってたメイドに必要なものと、あと裕貴くんの服!」


「……俺の服!?」


「うん! ほら、行くよ!」


 彼女は俺の手を引っ張り、店内へと走り出した。



「裕貴くんのサイズ、どれくらいかな?」


「LLかな……」


「OK、ちょっと店員さんに聞いてくるね!」


 佐々木さんはテキパキと店員とやり取りし、俺に合いそうな服を選んでくれた。


「これとかどう?」


「……おぉ」


 普段、服を選ぶ習慣のない俺にとって、それはとても新鮮な体験だった。


 最終的に、3着の服を選び、購入。


「合計で1万5000円になります」


「じゃあ、これでお願いします」


 俺は財布からクレジットカードを取り出し、店員に渡した。


「ありがとうございます、またのご来店をお待ちしております!」



 服を買い終え、新しい服に着替えた俺は、佐々木さんと並んで歩いていた。


 だけど――。


「あの子、超可愛い! 隣のぽっちゃりした子が彼氏!? なんか豚に真珠って感じだね」


 俺たちを見た人たちが、ヒソヒソと囁く声が聞こえてくる。


「佐々木さん」


「うん?」


「俺みたいな人間と歩いてて……なんとも思わないの?」


 俺は、つい本音を漏らしてしまった。


 しかし、彼女はキョトンとした顔で言った。


「私はなんとも思ってないよ。……あ、もしかして、私みたいな可愛い女の子と歩いてて、周りの視線が気になってきた?」


「い、いや別にそういう訳じゃ……」


 そんな俺を見て、彼女はニコッと笑い――。


「ほら、次はゲームセンター行こうよ!」


 手を伸ばし、俺を引っ張りながら――。


「私の趣味探しを手伝ってくれるんでしょ?」


 俺は、その言葉に温かさを感じた。



ここまで読んでくださりありがとうございます!

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しばらくの間、毎日投稿しますのでよろしくお願いします!

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