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鍛える!!

「今日はグループ学習だ。みんなグループを作れ」


 体育教師の声が響く。


 俺はこれまで体育の授業は仮病を使って見学していた。だが、今日は違う。高校生活で初めて、俺は体育の授業に参加していた。


「裕貴、こっちだ」


 俺の手をぐいっと引いたのは神木蘭だった。


「裕貴くん、頑張ろう!」


 佐々木さんも、いつもの明るい笑顔を向けてくる。


 そんな中、俺たちがグループを組もうとしていた時――


「俺も入っていいかな」


 低く、軽やかな声がした。


 振り返ると、春樹が立っていた。


「春樹か、私は別にいいけど、二人はどうする?」


「うん、私もいいよ! 人は多いほうが楽しいし!」


「う、うん」


 こうして俺たちは四人グループとなった。チーム分けは自然とこうなった。


春樹&佐々木さんペア

俺&神木さんペア


 ――見事に佐々木さんと分かれてしまった。


「これからグループ内でバドミントンの試合をしてもらう。みんな、水分補給と休憩だけはしっかり行うように」


 教師の言葉が響く。


 うぅ、なんかお腹痛くなってきた……。


 これまで逃げ続けていた体育の授業に、突然飛び込むことになった俺は、極度の緊張に襲われていた。


「裕貴、頼りにしてる」


 神木さんが俺の肩をぽんと叩く。


 その表情には自信が満ちていた。


「う、うん!」


 こんな俺を頼りにするなんて――。少しでも応えなきゃ。


「よし! 行くよ、神木ちゃん!」


「来い!」


 佐々木さんがシャトルを勢いよく打つ。


 高速で飛んでくるシャトルに向かい、神木さんは素早く反応し、強烈なスマッシュを返した。


 バシッ――!


「す、すごい……!」


「まぁこう見えて私、運動系は全部得意だから!」


 そう言ってこちらを振り向いた神木さんの横顔は、まるで戦士のようにカッコよかった。


「カッコイイ……」


 思わず口に出してしまった。


「えっ……!?!?」


 俺の言葉を聞いた神木さんが、一瞬動きを止めた。


 ポトッ――


「あっ――」


「はい! 1点入ったー!」


 俺たちのコートに、佐々木さんが打ったシャトルが落ちる。


「ちょっと! 裕貴! 今はそういうこと言ってる場合じゃない!」


 神木さんは怒るような顔をしたが、頬がほんのり赤く染まっていた。


 その後――


 俺たちの試合は、ほぼ神木さんの独壇場だった。


 バドミントン経験ゼロの俺に対し、神木さんは恐ろしいほどの運動神経を発揮し、相手コートを翻弄する。


「いやー、凄いね神木さん」


 汗を拭いながら春樹が言った。


 一方の俺は、コートの中央で息も絶え絶えになり、今にも倒れそうだった。


 ――やっぱり俺はまだまだだな。


 それでも、以前の自分とは違う。



  その日の授業が終わった後、俺はいつも通りジムへ向かおうとしていた。


「おい、裕貴!」


 後ろから、春樹の声がした。


 最近、俺は春樹と一緒に帰ることが増えていた。


 ――いや、"帰る" というより "鍛える" か。


「今日も鍛えるんだろ? 行こうぜ、相棒!」


「お、おう!」


 俺と春樹はジムへ向かい、その日もトレーニングに励んだ。


 そこからの二ヶ月間――。


 俺は毎日春樹と共に筋トレを続けた。


 最初は苦しくて仕方なかった。


 だけど、少しずつ筋肉がつき、身体が軽くなっていくのを感じるようになった。


 気がつけば、体型も以前とは大きく変わっていた。



 その日もトレーニングを終え、汗だくのまま帰宅した。


「ただいまー」


 玄関の扉をそっと開け、できるだけ目立たないように自分の部屋へ向かう。


 ――よし、今日はバレずに帰れる!


 そう思い、部屋のドアを開けた瞬間――


「あら、今日も遅かったのですね。お坊ちゃん」


「さ、佐々木さん!?」


 そこには、腕を組んで俺を見下ろす佐々木さんの姿があった。


「最初は19時に帰ってきてたのに、今日は21時ですか」


「い、いやー、それが筋トレに夢中になって……」


「そうですかそうですか。それで? 言い訳は終わりですか? お坊ちゃん?」


「ヒィィィィ! ごめんなさい!」


 俺は思わず、土下座した。


 こ、怖すぎる! メイドなのに!?


 しかし――


「はぁ、それにしても……痩せましたね」


 佐々木さんは、不満そうにため息をついた。


「う、うん! 大体79kgから58kgまで落とせたよ!」


 ――昔は服が入らなくて困っていたのに、今はどんな服でも着られる。


 鏡を見るたびに驚く。


「これが……痩せるってことか!」


「まぁ、私は昔の裕貴くんを見慣れてるから、違和感がすごいんですけど」


「そ、そうですよね……」


「まぁ、今の裕貴くんはカッコイイからいっか」


「え……?」


「……な、なんでもない!」


 そう言い残し、彼女はそっぽを向いて部屋を出ていった。


 俺は呆然としながら、自分の手を見つめる。


 ――見事に、新学期開始から二ヶ月でダイエットに成功した。


 "俺は変わった。"


 そう、心の中で確信した。

ここまで読んでくださりありがとうございます!

面白い!と思ってくださった方はブクマ、☆、評価の方をよろしくお願いします!

しばらくの間、毎日投稿しますのでよろしくお願いします!

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