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友達としての想い

 俺は彼女の手を振りほどき、涙を流しながら屋上へ走った。


 後ろから、俺の名を呼ぶ声が響く。


 それでも、俺は振り返らなかった。


 息が切れ、視界が滲んでいく。それでも足を止めることはできない。


 屋上の扉を勢いよく押し開けた瞬間、ひんやりとした風が頬を撫でた。


 静寂の空間。

 誰もいない、ただ俺だけの場所。


 俺は扉に寄りかかるように座り込み、膝を抱えた。


「クソ……どうして……どうして俺は、やっぱり俺は1人なんだ……」


 声が震えた。


 誰も助けてくれない。

 誰も、俺のことなんて気にしちゃいない。


「俺は……甘えていたんだ……佐々木さんの優しさに……」


 脳裏に彼女の笑顔が浮かぶ。


 暖かくて、優しくて、俺に手を差し伸べてくれた人。


「でも……これでいいんだ」


 俺は呟く。

 涙をこらえ、震える手を握りしめる。


 ――彼女には、俺なんかよりもっとふさわしい人がいる。

 俺がそばにいることで、彼女の評価が下がるなんて耐えられない。


 そうだ、これで――


 そのとき、階段を駆け上がる足音が聞こえた。


 そして――


「裕貴くん!」


 扉が勢いよく開いた。


 寄りかかっていた俺の体が、ふらりと前に倒れる。


「あっ、ご、ごめん! 裕貴くん!」


 慌てて俺を支えようとする声。


 俺は顔を上げる。


「佐々木……さん……」


 彼女は、息を切らしながら俺を見つめていた。


「裕貴くん……教えて? 何があったのかを」


 彼女は怒るでもなく、軽蔑するでもなく、ただ親身に俺の答えを待っていた。


 俺は唇を噛みしめる。

 でも、彼女の真っ直ぐな視線に、もう嘘をつくことはできなかった。


「……ある女子が言ってたんだ」


 俺は震える声で、今日起こったことを話した。


「俺なんかが、佐々木さんと一緒にいるのはおかしいって……だから……迷惑をかけたくなかったんだ」


 胸の奥に押し込んでいた本音が、ぽつりぽつりと零れ落ちる。


「ごめん……本当にごめんなさい……」


 また、涙が溢れそうになる。


 だけど――


「なぁんだ、そんなことか」


 彼女はくすっと笑った。


 え……?


 俺が驚いていると、佐々木さんはゆっくりと俺の手を握りしめた。


「裕貴くん、安心して。私は別になんとも思ってないよ」


「……え?」


「それに、周りがどう思っていようと、私たちの友情は断ち切れないよ。だからさ!」


 彼女は俺を立たせると、眩しいほどの笑顔で言った。


「笑おうよ!」


 その言葉に、俺の胸が熱くなった。


 心の奥に渦巻いていた悲しみや苦しみが、少しずつ溶けていくような感覚。


「……ッ! うん!」


 俺は涙を拭い、彼女と同じように笑った。


 俺の気持ちが落ち着いた頃、佐々木さんはぽつりと呟いた。


「多分、神木ちゃんが私を思って言ったんだろうね」


「神木……?」


「うん、神木蘭かみき らん。ちょっと気が強いけど、友達思いが強すぎるんだ。でも、悪い子じゃないよ」


「そ、そうなの?」


「だから、許してあげてくれる?」


 彼女は俺を真っ直ぐに見つめる。


 俺は少し考えてから、ゆっくりと頷いた。


「……わかった」


 すると、佐々木さんはホッとしたように笑う。


「よかった! それにしても、私、裕貴くんが避けるから、てっきり私が何かしたのかと思っちゃった!」


「い、いや! 佐々木さんは、なにも悪くない!」


「それならよかった! あ、そうだ! これを渡さないと!」


 彼女はバッグからお弁当を取り出す。


「今日も私が作ってきました!」


「え……」


「そのパンだけじゃ、栄養が足りないでしょ? ほら、食べて!」


 俺はお弁当を受け取り、そっと蓋を開ける。


 中には、ダイエットにぴったりな食材が詰め込まれていた。


「お、美味しい!」


 卵焼きを口に入れると、ほんのり甘くて優しい味が広がる。


「でしょ? 私、頑張ったからさ!」


 彼女は胸を張る。


「一応、自分の分も作ってきたから、一緒に食べない?」


 そう言って、彼女も弁当を取り出す。


「うん! さすが私! 美味しい美味しい!」


 明るい彼女の笑顔に、俺も自然と笑みがこぼれた。



  翌朝――


「裕貴、ごめん! 昨日の朝あんなこと言って!」


 神木さんが頭を下げてきた。


「い、いや、俺も不甲斐ないところがあるから……その、なんというか……ごめんなさい」


 俺も頭を下げる。


「裕貴が謝るのは違うよ。私が今回は悪かった。本当にごめん」


 彼女の言葉から、本気の謝罪が伝わってくる。


 佐々木さんの言った通り、彼女は悪い人ではなかった。

 ただ、友達のことを思って、余計な心配をしただけだったんだ。


「はい! これでお互いのいざこざは終わり!」


 佐々木さんが、元気よく言う。


「そうだ! 仲直りの印として、今日の午後の体育、この3人で組もうよ!」


「「え!?」」


 俺と神木さんは、同時に驚きの声を上げた。


 そして、この日の午後に行われる体育は、グループ学習の 「バドミントン」 だった――。



ここまで読んでくださりありがとうございます!

面白い!と思ってくださった方はブクマ、☆、評価の方をよろしくお願いします!

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