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97話 第一階梯の黒魔法実演

以前から白魔導士が忍者の訓練をして、かなり上達する者たちがいましたが、この演習で正式に『白忍』が軍隊として認められました。

ケサギ視点です。

立花一行が去ったあと。

女皇は悪い笑みを浮かべている。

「私はローシェ軍は出せぬ、と言った。一兵たりとも。ローシェ軍はな」


その顔と声音でロルドとサカキは察した。

「……なるほど。白露に――彼らに恩を売っておいてよかったな」

ロルドが笑いながら頭を抱えた。

「あーやっぱりぃ」

また忙しくなりそうだ。


「サカキ、人選は任せる。まだ1年は先になるだろうが、城攻めに白露忍軍として極秘に行動せよ」

「御意!」

サカキの瞳に刃のような光が宿った。


――ローシェ軍郊外演習場:数日後――


ついに第1階梯の黒魔法が見れる――

ケサギとムクロ、そして騎士や白魔導士たちは期待に満ちていた。


ローシェでも最も広い演習場に夜香忍軍一・二・三番隊、それにユーグ率いる第1・2・3騎兵大隊、第8・9歩兵大隊、白魔導士軍団(はやぶさ)隊、白鷲(しろわし)隊が参加している。

総勢5000人を超える大規模演習である。


夜香忍軍が誕生してから、ローシェ軍は大きく変化していた。

騎士や白魔導士の中に、訓練によって忍者の動きができるものが登場し、特に白魔導士のゾル、ベネゼルが白忍と呼ばれるほどの上達を見せ、それぞれ隼隊、白鷲隊の隊長として50人規模の小隊を率いている。その隊員たちもみな忍者と白魔導士の両方の動きができる。


さらには、忍者の中にも騎士として振舞えるものが増え、今回の演習では四番隊と五番隊は騎士の格好をして騎兵隊と歩兵隊に紛れ込んでいる。


広い演習場の中に央は15ハロン(m)×15ハロンの四角の形で縄が張ってあり、立ち入り禁止となっている。軍団はその四角を取り囲むようにして待機している。これからその中央に第1階梯の魔法を撃ち込むのである。

「「おお、黒魔導士様だ!」」

キーリカとパシュテの登場に兵たちの歓声が沸いた。

今日は2人とも黒いベールで全身を覆っていた。彼女たちが亡命時に着ていたベールだが、高位の魔法を撃つときは外界の影響を受けにくいこのスタイルがいいらしい。


キーリカが中央の空き地を見て、2人のそばにいるケサギに声をかける。

「ケサギ様、この大きさですと火があふれて危険です。もう少し、そうですね、あと10ハロン四方は広げてください」


今日の忍軍は隊長は背中に紋入りの黒の戦闘用ロングコート、隊員は短めの黒い上着とズボンの太ももに革ベルトを2本巻き、上着の下にも肩から腰、胸の周りに革ベルトを巻いて暗器を装着している。


騎士たちや兵士たちの鎧は見かけはあまり変わっていないが、今までよりも軽量化されていて防雷、防火、防水に優れた素材が使われている。

特筆すべきは白忍たちで、ゾルとベネゼルは濃い灰色のロングコートで、デザインは忍軍とお揃い、内部構造は白魔導士に合わせて軽量化されている。それ以外の白忍たちは同じく灰色の上着とズボンという忍軍と同じデザインの色違いである。


「了解!あと、『様』は付けなくていいよ」

ぱちん、とケサギがウィンクする。


「……はい、えと、ケサギ……さん」

キーリカの頬が赤くなっている。

ケサギはキーリカに向かってほほ笑むと、控えの伝令白魔導士にその旨を伝える。


ムクロはキーリカの様子を見てだいじょうぶかな?と思ったが。

「だいじょうぶです。私たち2人で手を繋ぐと気持ちが安定するんです……」

パシュテがムクロに向かって言った。

「それはよかった」

ムクロが穏やかな笑みを見せるとパシュテも真っ赤になる。


((かわいいなあ……))

ムクロとケサギが同時に思った。

最近はこういった混合の演習が多く、黒魔導士たちと上忍たちがともに行動することが増えた。

キーリカはケサギが、パシュテはムクロがお気に入りのようで、ケサギとムクロも満更ではなかった。


それを後方から見ていたサカキは微笑ましく思った。

(兄妹ができた感じかな?)

サカキはまだ細かな恋愛感情は読めなかった。


「よし、では始めるぞ。黒魔導士さんたち、準備はいいかな?」

ユーグが宣言する。


「「はい!」」


「これより4軍(騎兵隊・歩兵隊・忍軍・白魔導士軍)合同演習を行う!」

ユーグのよく通る声の開会宣言が全軍に響き渡る。

「では、まずは障壁なしの黒魔法の威力を見せてもらう!」

次にスパンダウが声高々に宣言する。その声は軍勢の隅々にまで白魔導士によって拡声されている。


キーリカがドキドキしながらも説明を始める。

だいぶ慣れたとはいえ、大勢の男性の前に立ち、言葉を出す、というのは緊張する。

「これから撃つのは火の第1階梯魔法・煉炎柱パドムゾーラです。炎の柱を15秒間その場で燃え上がらせます。熱がすごいのでこの距離でも装備や前髪が燃えるかもしれませんのでお気をつけて」


可憐な少女の声で恐ろしい内容を言われても参加者は実感が沸かなかった。

ローシェ帝国の歴戦の騎士たちもまだ第1階梯の魔法を見たものはいない。

そもそも第1階梯の魔法を撃てる黒魔導士が公式記録的に国外にいることが歴史上初めてのことだった。


キーリカとパシュテはお互いの目を合わせ、軽くうなずいてからキーリカは右手、パシュテは左手を繋いだ。少女たちの繋いでいない方の手が空に向かって上げられる。


「煉獄の炎よ(パドム・ゾーラ)深淵より出でて(マニマス・ラ・ゼグレ) 」

「踊り狂え(ファル・ファザス)!」


ぽっ、とささやかな音を立て、ロープの真ん中の空中に小さな火が灯る。

その炎は数秒後。


ごぉおおおおおおおお!!!!


耳を覆いたくなるような轟音と共に巨大な炎の柱が下から上に向かって出現した。

目の前が強烈な『赤色』に染まる。

歴戦の戦士である忍者も騎士も白魔導士も全員が声を失って炎の柱を見つめる。

最前列にいたものはあまりの熱さに数歩下がった。


((巨大な炎の竜だ……))

巨大な炎の柱は空に向かって渦を巻きながら荒れ狂う。まさに火炎地獄――。

四方に貼られていたロープはすべて燃え、焦げて落ちた。


紅蓮色の炎は見るものの顔も赤く染め、あたりの空気の温度をぐんぐん上げる。

恐ろしくも美しい光景だった。だれもかれも声を失って立ち尽くす。兵士たちは魔法を見ても歓声を上げないよう事前に申し渡されていたが、そうでなくても、とても声を出せるような光景ではなかった。


15秒後、炎の柱が細くなり、徐々に小さくなっていく。


「……これほど高位の魔法なのに、事前の集中時間、必要ないのかい?」

炎で横顔を赤く染めながらケサギが尋ねる。

彼の記憶では、戴冠式の時に攻めてきたアラストル軍の黒魔導士たちはまず胡坐をかいて手を合わせ、精神を集中させていた。


柱が完全に消えると、キーリカとパシュテが手を下ろして振り向いた。

「あれは大人数で撃ちますので精神を同調させる必要がありまして、発動準備に3分ほどかかります」

「でも、私たちは普段から同調しているので必要ないんです……」

「なるほど……それにしてもすごい威力だ。これをまともに受けたら大抵の軍隊は一瞬で壊滅するな」

「はい。威力が強すぎて味方も無事ではいられません。なので第一階梯の黒魔導士たちは国外に出ません。彼女たちは万が一、皇宮に敵が攻め込んできたときの最終防衛線だけに出陣することになっています」


「私たちは出ちゃいましたが……」

キーリカとパシュテはあどけなく笑った。

ケサギとムクロが互いに顔を見あわせた。

彼女たちの幼さを改めて認識したのだ。


もしもあと1年くらい後だったら、高位の黒魔導士としての政治的な立場や国を守る重責を認識して、亡命など思っても行動に移すことはできなかっただろう。

自分たちが国の存在すらも脅かす、など14歳の、世間から隔絶されていた少女たちにはとても推し量れるものではない。彼女たちの名は、否応なく歴史に残るだろう。


ましてや、この恐ろしい魔法が人間に当たった場合、どうなるかも想像できない……、いや、できても人間の皮膚が焼けこげ、すさまじい悲鳴を上げながら転げまわる場面までは思い至らないのだろう。


今更アラストルの考えに同調できる部分ができるとは、ケサギは思ってもみなかった。

第1階梯の黒魔導士を国内で厳重に管理し守るのは、国のためもあるが黒魔導士たちのためでもあったのだ。


精神的な傷は絶対に負わせない――

それが、彼女たちをこの国に迎え入れたケサギにできるせめてもの償いだった。

黒魔導士たちが亡命してきたのは、その幼さに起因していたようです。

次話 98話 第3階梯雷魔法実践訓練 は明日更新予定です。

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