表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

94/288

93話 闇のものたち

光が苦手な妖たちは占領した松崎城の地下室に潜んでいました。

――松崎城地下――


『……ヨルが消えた』

『消えた』

『消えたな』

『月牙め……』

『不死の我らを唯一消せる光……』


『ヨルは我らの中でも新参ではあったが』

『女にうつつを抜かすとは』

『あれだけの美女を前にしては若輩者は我慢できなんだか』

『あれにくらぶればローシェの女皇帝など目ばかり大きいタヌキ面よ』


暗闇の中で面たちがひそひそと話し合っている。

そこに人影は2人だけ。

だが声はもっと多い。

2人以外の翁の面には体がなく、宙に浮いていた。


サヤの顔は彼らにとっては非常に美しく見えた。

彼らの時代、250年前、彼女のような細目、鉤鼻、小さな口元、広い額こそが美女の条件であった。


『海の底に……』

『千尋の谷の底に……』

『流砂の渦に……』

『生きたまま沈めねばならぬ。次の主が現れる前に』

『ウツロは……屍四季舞をしくじっておるな』

『安定しておらぬな』

『はよう移ってもらわねば』


『あやつの弟は?』

『ローシェの中枢におる』

『……風向きがおかしい。裏切るつもりか?』

『己の命がかかっておるのに?』


『人間は、時に己の命を捨てても事を成そうとするものよ』

『双子でありながら性格も、異能もまったく違うのはおもしろい』

『弟の方が器にはよかったか?』


『いや、弟の中にはなにか嫌なものがいる。我らには感知できない何かが』

『……稀有な兄弟よ』

『20年前、雪山で行き倒れておった双子の子供らが……』

『あのような異能をもっていたのは偶然かそれとも必然か』


『我らは月牙には恐ろしくて近づけぬ。弟の力を借りねばならないな』

『だが早まるな。そばにあの頭の切れる宰相がいる』

『あの宰相も……恐るべき何かを持っているな』

『やっかいな』


『あの女皇帝。光が増して来ているな』

『あれに闇が引き寄せられる、あれは光の――』

『生かしてはおけぬ』

『生かしてはおけぬ』

『生かしては……』


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


「む?何か今、すごい失礼なことを言われた気がする……」

深夜。イリアティナははムクリと寝台の上で半身を起こした。

「なーんだ、夢かあ……」

小首をかしげたあと、すとん、と再び眠った。

瞼を閉じる直前、イリアティナの瞳が薄く金色に輝いていたが、本人は気づいていない。


――ローシェ王城:円卓会議室――


「立花殿、予想よりもかなり早く目的を達せましたな」

ロルド・ヴァインツェルがにこやかに来客を迎えた。今日は金糸の飾りが多い、ちょっとおしゃれな宰相服である。


「すべてはローシェの皆様のおかげでござる。我らの疑いも晴れ申した」

立花春城は髪と髭を整え、羽織と袴という武士の正装で、浅野三郎、三鷹数馬、そして羽角老とともに報告にやって来た。手土産に秋津の名刀が3振りときらびやかな絹織物を持参していた。


羽角は痩せてはいたが、服装を整えているとかつての眼光鋭い、有能な家老であったことを思わせる顔付を取り戻していた。


立花と三郎はすでに剣客コテージを出ており、数馬はローシェ残りとなったが1人でコテージを使うのはしのびない、とコテージ職員棟の1室に引っ越ししていた。

その数馬も本日付で秋津に戻ることになっていて、3号棟は空き室になる。

立花が女皇寝所へ侵入してからわずか一か月のことである。


短期間で事が成った理由の一つに、真相を知る当事者が生存していたこと、立花の手の者たちがその居場所を突き止めたこと、金をエサに(嘘の)証言することを求めたら応じたこと。当事者を光川の大広間に呼びつけ、証言をさせ、白魔導士がその嘘をすべて暴いたことだった。


「光川慶忠様が、ケガをおして動いてくださったおかげでござる。

曰く『期に乗らねば達せず』と。ちょうど時代の波が変わる時であり、性急ではあるがこの期を逃すと次は数年後になるだろうと」


「光川殿は時代を視る力に秀でておられましたな」

「はい。お傍にお仕え申して感服いたしました」


ロルドも秋津の事情はかなり把握できている。立花が過去の濡れ衣を暴けたのはかなり大きな一石となった。柴藤派は数を減らし、今は光川の勢力が5割、柴藤が4割、残りは様子見といったところか。


「詳しい報告は姫が到着してからお聞きしましょう。――しかし、遅いな」

とロルドが言うと。


いきなり会議室の戸がバアン!と開く。


「いえーい、立花さん、久しぶりー!元気ぃ?」

と、片手を上げにこやかに声をかけながら入ってきたのは素のイリアティナである。

今日のドレスは若葉色の地に花々の刺繍が華やかなドレスである。

「キャアア、姫!なんで!?」

ロルドが両の頬に手をあてて悲鳴を上げる。


「「???」」

立花一行が事態に理解できず固まる。

「姫!城内で縮地を使ってはいけないと言ったでしょう!ほら、錫杖を!!」

続いて飛び込んできたのはサカキ。背中に夜香忍軍の紋・月に桔梗と山吹があしらわれたものが入ったバージョンのロングコートを着ている。


最近出来上がったばかりの新作で、裾や袖には銀糸の縫い取りや飾りボタンなどが付いていて華やかである。城内の公務のときはこれを着用することになっている。ますます忍者という存在に疑問がわく隊服であった。

「んもおお、この頃ますます追いつけなくなっちゃってええ!」

アカネがドレスを両手で捲し上げながら続いて入ってくる。息が切れている。


「じょ、女皇陛下、ご、とうちゃくぅうう」

さらにそのあとを()()()役の侍従がへとへとになりながら入ってくる。

サカキがすばやく錫杖を姫に手渡す。本当はアカネの役目だが、サカキのほうが足が早いのでアカネに頼まれた。


「久しぶりだな、立花殿。息災か?」

威厳のある女皇の声で、先ほどのことはまるで何もなかったかのように声をかける。

アカネが女皇の結い上げた髪のおくれ毛や、抜けかけた真珠の髪飾りとドレスの裾の乱れをシュバババババと直す。一応忍者なので早い。


立花たちは頭を下げるのも忘れてしばらく女皇の姿を見ていたが、はっ、と我に返り、慌てて正座をし、両手と頭を床に付ける。

「ははっ、おかげさまでみな恙なく。女皇陛下におかれましてはご機嫌麗しゅう」

とローシェ風の礼を述べた。


「面を上げてよいぞ、立花殿。三鷹殿と浅野殿もずいぶんと立派になられた」

女皇がほほ笑みながらねぎらう。

「「ありがとうございます」」


(そうだったのか――やはりアレは女皇ご本人であられた)

立花はようやく謎が解けた。先ほどの元気のいい?ときの女皇は運動神経が上忍並みで、今はまったくない。その違いは錫杖。そういう絡繰りだったとは。


三鷹数馬、浅野三郎も目を丸くしていたが理解はしたようだ。

家老の羽角だけがさっぱりわけがわからなかった。


女皇から香るほのかな薔薇の匂いはひと月ぶりだったが記憶の通りの甘やかさだ。

誠に……不思議なお方よ――


『今見たことは忘れてくれ』

とサカキから困った風な矢羽音が飛んできた。


『承知』

立花は笑みをこらえてうなずいた。

上忍の技術を得たイリアティナはおもしろがって縮地を使うようになり、お付きの人たちは大変な思いをしています。

次話 94話 立花郎党の現在と女皇の思案 は明日更新予定です。


ここまで読んでくださってありがとうございます<(__)>

励みになりますのでよかったらブックマーク、いいねよろしくおねがいします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ