80話 風遁の新効果
サカキは無事でしたが、周りは身が縮む思いをしました。
まさか――
全員が息を飲む。
土煙の中からサカキがゆっくり歩いて来る。
首に巻いていた細長い布がひらひらと爆風になびく。布の半分くらいがパチパチと燃えていた。
サカキはフードを外し、首布をほどいて手に持った。
パシュテがほっとする。
「雷が当たる瞬間に縮地をすれば追尾されていても避けられた。縮地の衝撃で首布が解けたんだが、それに当たった」
全員がほっとする。
「お前、やっぱり肝が据わってるな」
「自分の体でテスト……よくやるな」
ケサギとムクロは呆れた。
「いやー、土煙の中からゆっくり歩いて来るロングコート!なびくスカーフ!
フードを取ると美形の青年!爆風に翻るコートの裾!やっぱり最高だわあ」
とダンが両手を合わせて夢見心地でオネエ言葉になっている。
上忍3人が呆れてダンを見つめる。
「「……」」
「シュクチ……ニンジャスゴイ!」
「スゴイスゴイ!」
キーリカとパシュテは盛り上がっていた。
「――ふと思ったんだけど、魔力の糸って切れないの?」
ムクロが問う。
「今まで切れたことはないですね」
「そうか。これって建物とか柱とかにも付けられる?」
「イイエ。この魔法の糸は生きている人や動物、もしくは魔力にしか付けられません」
「流れる血、が必要条件なのです……」
「そうなんだ、以前は城外の町だったが、建物に雷魔法が落とされたことがあったが……」
「建物に雷が落ちたとしたら、その中に人がいたからですね」
「なるほど……火や風や他の魔法は?」
「それは人でなくても問題ありません。魔力の糸は生き物か魔力にのみ有効なのです。
糸が結べないので火や風は建物や施設に使われることが多いです」
「……魔力にのみ反応する、ということは、ひょっとして忍術には無効だったりするかな?」
サカキが疑問を投げかけた。
「ニンジュツ……見たことありません、見せてもらっていいですか?」
キーリカが期待に満ちた眼差しで見る。
「そうだな、俺の体を風遁で覆ってみるので、先に俺の体に糸を結んでもらえるか?」
「はい、結びました」
サカキは右手の人差し指を顔の前で立てる。音は鳴らない。低位の風遁のようだ。
ひゅん!と音がした。
「「あっ」」
キーリカとパシュテが同時に声を上げた。
「どうした?」
「「糸が切れました!!」」
一瞬静まり返ったあと――
「「おおお!!」」
と全員から歓声が上がる。
「風遁で糸が切れるのか……」
「これはすごい発見だぞ……」
「他人に付いた糸も切れるかな?」
「やってみよう」
全員がワイワイと盛り上がる。
何度か条件を変えて実験を繰り返し――
糸は忍術を使えるものなら存在を感知できること。
白・黒魔導士では感知できないこと。
他人に付いた糸は感知できないが、風遁なら切ることができる。
土遁、火遁、水遁では切れなかった。
魔力の糸を付ける条件は『視認』。
自分の目で見て、それが人などの生きているものだとわかれば付けることができる。
糸の距離は最大で5km程度。これは魔力量によって前後する。
ゾルが見解を述べる。
「おそらくですが、黒魔法と白魔法は根っこが同じ魔力と思うんです。契約者と使う目的が違うだけ。
白魔導士は自分の体を常に魔力で覆っていますが、同質の魔力を持つ糸が付けられても判別できないのでしょう。
ですが、忍術は系統が違う。どちらかというと精霊魔法(自然界にいる精霊の力を借りて行使する魔法)に近いな、って感じました。系統が違うので違和感を感じているのだと思います」
「「なるほど……」」
さらにゾルが続ける
「今までは黒魔導士がこちらに攻撃を仕掛ける場合、姿を消していました。
だから、こちらから魔力の糸を付ける、という発想がありませんでした。
戴冠式の戦いで忍者さんたちがやってくれたように、黒魔導士の姿を現すことができたら僕たちも糸を付けるのはアリかと。黒魔導士の位置を常に把握しておけるのはとても有利ですね」
「そうか。糸は黒の風魔法では切れなかったしな。うーむ。おもしろい。
次の戦争ではこの情報をどこまで秘密にできるかで被害の結果が変わりそうだ」
スパンダウは怖い顔をしている。
「ちなみに、雷魔法を詠唱中に糸が切れたらどうなるんだろう?」
ケサギが疑問を投げかけた。
「タブン……、対象の側の背の高い木や建物に当たる思います。雷魔法は普通の雷と同じ性質を持っていますから。そういうものがない、広くて開けた場所でじっとしていたら、そのまま当たると思います。でも移動すれば別です」
キーリカが答えた。
「糸を伝って雷が当たるわけじゃない?」
「はい。魔力の糸はあくまでも指標です。だから、建物の中にいた場合はまず建物に当たります」
「ようし、一番厄介な雷魔法の対処はこれでいけそうだな。あとは炎と風だ。
ただ、土と水の攻撃魔法は見たことないが使えるのだろう?」
スパンダウが尋ねる。
「あー、土と水はなぜかあまり攻撃力のあるものがないのです。土魔法は地面をもろくして歩きにくくしたり、水魔法は大雨を局地的に降らせたりするので、アラストルではもっぱら耕して水を撒く目的で使っています。もちろん、無限に水を生み出せるわけではありません。魔力をかなり消耗しますので戦争では使っていません」
「砂漠に囲まれたアラストルの農業を黒魔導士が支えていたんだな」
「なるほど、ベルデンハーザス草原でも農耕をするのに黒魔法を使っている、というのは聞いたことがある」
「そのへんは有料の貸し出しになるので裕福な部族にしかできません」
「黒魔導士がアラストルからいなくなると大変なことになるな。他国の情報をシャットアウトし囲い込んで門外不出にするわけだ」
「よくぞダールアルパが許可したな」
「キーリカちゃんとパシュテちゃんの話によると、あのお方、いまいち黒魔導士のことをよく知らなかったようだ。だから、2人は死んだことにしてこの件を終わりにした。ローシェにとっては超ラッキーだったね」
「オウジキラーイ」
「キラーイ」
キーリカとパシュテが口をとがらせて嫌悪感を見せている。
「ずいぶん嫌われているな」
サカキが苦笑する。
「イヤラシイ目で見てくるし」
「あの方は女性を人間扱いしていないのです。思い通りに動く魔法人形、くらいにしか思っていない。今ならよくわかります。私たちに意志があるなど考えたこともないでしょう」
サカキは考え込む。
(姫は此の方に攻めて来たアラストル軍の巨額の遠征費を自分の資産で支払った。
国家単位の賄賂のようなものか。
その金のおかげで、アラストルは2人の黒魔導士を後から返せとは言えない。
この事態を見越しての判断だとするとロルド様も姫もさすがだ。
2人の存在は金には代えられない……姫は金の稼ぎ方も天才的だが、使い方も卓越しておられる)
サカキは改めてイリアの女皇たる資質に驚きと敬意を感じずにはいられなかった。
この世界では魔法は神によるものと自然精霊によるものの2種類あり、同じ火魔法であっても系統が違います。
次話 薪能 は明日更新予定です。




