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7話 上忍の壱・オボロと妖刀月牙

なにやらローシェ国には不穏な事情があるようで……。

整備された街道を避け、起伏のある山道を騎兵団は統率の取れた動きでサカキについて来る。

やがて、山々の合間から開けた土地が見えてくる。

山吹忍軍の根城、山吹の里だ。藁ぶき屋根の家が散在している。そのうちのいくつかは火の手が上がっていた。


一行は里の入り口で一旦停止した。

「ここから先は俺だけで行く。広場中央に人質が7人いる。その周りを桔梗忍者が15人で囲んでいる。それは俺が全部片づける」


ユーグが手を額にあてて見まわした。

「こんな遠くからよく見えるな」


「忍者は目が良い。安全が確保できたら人質になってる女子供をこちらへ走らせるので保護してくれ」

「承知した。道中で説明したが、我々は相手から手を出されない限り攻撃開始できない。それに長くはここにいられん」


ユーグとロルドの説明によると、白魔導士の国であるローシェには白の女神との厳しい誓約がいくつかある。

そのひとつに、王が崩御した場合、300日間の喪に服さねばならず、その間は他国への侵略行為を禁ずる、というものだった。

この誓約を破ると女神の加護が失われ、空間移動や治療など高位の白魔法が使えなくなるのだ。


「わかっている。これは人質を使った待ち伏せの罠だ。もし俺がやられたら、人質を頼む。

だが、もし俺も人質もいきなり動きが止まったらもう助からない。すぐに自国まで退却してくれ」

「了解だ」

「貴殿らの御厚意に感謝する」


オボロは強い。だが、それで退く選択はサカキにはない。

二度と生きて騎士たちに会えない可能性も否定できないので先に礼を言った。


「アゲハ、そなたはここで控えててくれ。人質たちの後を追うものがいたら始末せよ」

「はい!」


「では……参る!」

サカキは体を低く構えると、一瞬でユーグたちの目の前から消えた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


「えっ、もうあんな遠くに?」

「これは、……忍者がよく使う縮地(しゅくち)というやつですか、話には聞いていましたが予想よりもはるか遠くまで行けるんですな」

ロルドは興味津々でサカキの行った先を見た。


「この先はボクが映像を映しますね」

白魔導士のルゥという桃色の髪と紫色の瞳をした愛らしい少女が言った。

白魔法で遠くの出来事を魔力で作った鏡に映すのだ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


サカキは縮地で距離を詰めたあと、桔梗忍者たちに神速で駆け迫った。土煙が舞い上がる。

「来たぞ!」

桔梗忍者の一人が叫ぶ。

「こちらに手を出すな、人質がどうな……」


全部は言わせない。

サカキは背に負っていた大太刀を肩から抜き、渾身の力で横方向から何もない空間を斬る。

そのひと振りの速度によって衝撃波が生まれ、忍者たちに向かった。

10人の忍者が木の葉のように吹き飛ばされた。


「「うああああっ」」


残りの5人は跳躍してそれを避けた、が、着地したとたんに懐に飛び込んできたサカキの長い脚の回し蹴りで2人が吹っ飛ぶ。

吹っ飛んだ忍者の体はさらに2人に激突し、4人があっという間に地面に転がった。


人質となっていた女たちが叫ぶ。

「「サカキ様!」」

「マソホ!ヒスイ!入り口にローシェ王国軍がいる、子供を連れてそこまで走れ!保護してくれる」

「「はい!」」

マソホとヒスイは農民の娘の恰好はしていたがどちらもくノ一である。

泣きじゃくる子供たちをそれぞれ両脇に抱え、ヒスイは残った1人を肩車して走り出す。


すれ違いざまにヒスイが小声で言う。

「サカキ様、枯れ井戸の中にまだ生き残りが!」

「承知!」


「上忍だ!引け!!」

残った桔梗忍者が指示をだした。

地面で呻いていた4人が胸をや腕を抑えながら起き上がり逃げ出した。


サカキは指示を出した忍者に飛びかかり、仰向けに抑え込んだ。


「壱はどこにいる?」

「……」

答えはない。


そのとき、納刀していた大太刀がサカキの背でカタカタカタと震えだした。

サカキは鋭い目であたりの様子を窺う。何かが来る。


サカキの背にある大太刀は「月牙」という。

刃紋が月の光のように丸く浮かび上がることから月牙と称されていて、鞘鳴りの音で不穏なものの接近を知らせる妖刀であった。


背筋がぞくり、と冷える。

ふっと空気が重くなり、サカキは再び月牙を抜いた。

その瞬間、馬乗りになっていた忍者が体の動きを止めた。

恐怖に歪んだ顔がみるみるうちに土気色となりサカキの体の下であっけなく絶命した。


冬刹(とうさつ)!!)

跳躍し、後方へ宙返りして下がる。

右手前方、小高い崖の上に人影が見えた。紛れもない見知った姿。


「オボロ、貴様……」

月牙を正眼に構える。


上の壱オボロは10年以上の長きにわたって山吹の里の頂点にあった男であった。

40歳とは思えぬほど若々しく、端正な顔立ちと穏やかな気性で一度も声を荒げたことはない。

高い知能で戦国の世にあって松崎藩を陰から守り、他藩と渡り合う姿は幼い頃からサカキにとってあこがれの対象であった。


何かの間違いであってくれ、という小さな望みは潰えた。


(裏切者め……)

サカキの全身から殺気が立ち上る。

しかし――


オボロはこちらをチラリと見ただけで後ろを向き、崖の向こうへ消えた。

「抗戦する気はないか……」

サカキは息を吐いて月牙を背に収めた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


そのときローシェ王国軍側では。

「ひょっとして私たち、彼次第では全滅させられてた?」

サカキの人外の戦闘力を見てロルドが震えあがっている。


「そうだな。もしあやつが忍務に忠実だったら姫もワシも今頃仲良く天国かもな」

ユーグも同意した。

「彼が人らしい心根を持っていてくれたおかげで助かりましたな……。

これはもしや、我らが16年かけて埋められなかったパズルの最後の一片が、埋まるかもしれませんね」

「ああ。我ら終焉目前の王国の運命を変える一石になってくれる……いや、絶対になってもらわねば」


「人質7名、こちらに向かってきます!」

ゾルが告げる。

「よし、出番だ」

ユーグが騎兵隊を前に出した。

上忍サカキは、中忍・下忍が束になっても敵わないほど強い。強いうえにすごい能力をいろいろ持っている大太刀・月牙が相棒なのですから、敵側にとっては何よりも恐ろしい相手でした。

大将軍と宰相は、サカキと敵対しなくてよかった、と心から思っています。

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