表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

69/288

68話 霊鷹と鷹目

上忍のケサギとムクロの異能は2人そろって最大限の能力を発揮できます。ドローン撮影みたいなイメージです。

――剣客用コテージ1号棟:深夜2時――


「サカキ、姫!無事か!?」

ケサギが駆けつけてきた。

彼は左肩にムクロを乗せ、右手はダラリと下がっている。

ムクロは両手で目を押さえていた。


サカキと女皇は、3つある女皇の寝室はどれも位置を知られていると考え、今日だけはサカキの剣客コテージで眠ることにしたのだった。

王城内でもトップクラスの安全地帯である。


サカキは2人の様子を見て、彼らが侵入者を追跡しているのを把握した。

「俺たちは無傷だ。ケサギ、ムクロ、追えているか?」


「ああ、有効距離ギリギリだがね。それにしても無傷か。上忍クラスが5人と聞いたが、よく無事で……」

ムクロをいつも彼が独占している長椅子にゆっくり下し、ケサギは動かない右肩を左手で押さえた。

「うう、『鷹目(ようもく)』中に動くと酔うんだよ……」

ムクロはぐったりしている。異能:鷹目(ようもく)は猛禽類の視線を己に映すことができる異能だが、身体的に負担が大きいのだった。

「緊急時だから仕方ないだろう、ほら、がんばれ」とムクロの頭を左手でぽんぽん叩く。

「ぐええええ」


「姫えええええ、ご無事でしたかあああああ!」

ばあん!と、ユーグが熊のごとき勢いで扉を開けて部屋に飛び込んで来る。

「しー、姫はご無事だ。お疲れなので2階の予備の部屋で寝ておられる。」

「おおっと」

「クラウスと数人のスタッフたちが控えている。とりあえずは安全だ」

「そ、そうか、ワシもおそばに控えて来る」といって2階へ上がって行った。


「本当にびっくりしました。まさか女皇様の寝室まで刺客が来るなんて……」

アゲハの顔も真っ青だ。彼女はコテージで繋ぎの連絡待ちのために留守番をしていた。

その隣にはアキミヤがいる。また捨てられた子犬のような不安げな顔をしているがひょっとしたらそれが標準なのかもしれない。


「アキミヤ、アサギリとヒシマルに連絡は?」

「まだ光川家におられるので白魔導士の連絡網をお借りして、こちらの状況は伝えております。

お2人は主様が重傷を負ってからたいそう気落ちなされて……」

「だろうな……」

サカキも危うく主を失うところだったのだ。共感できる。

アサギリとヒシマルは元武士で光川慶忠(よしただ)の忠臣だが、アキミヤは桔梗の里の忍者の生き残りなので元武士の2人ほどはダメージはなさそうだ。


「く……ここまでだ。これ以上は追えない。タマ子(霊鷹)を戻す」

ケサギが頭を振った。彼の異能:霊鷹(れいよう)は、右手の力を鷹に変えて自由に操ることができる。それをムクロの異能と組み合わせることで空からの追跡を可能にしているのだ。

霊鷹を解放し、ケサギの右手に力が戻ってくるが、すぐには元通りにはならず、しばらくは痺れている。


「ベルデンハーザス大草原、広すぎだよ……」

長椅子の上で伸びるムクロ。足がはみ出している。


ベルデンハーザス大草原は、大陸の中央に位置する広大な草原であり、乾いた大地に背の低い木々がまばらに生え、小さな湖も点在している。

その湖は季節によって大きさを変えるので、鹿や馬、狼、ハイエナやジャッカル、大型の四つ足動物である水牛たちも水を求めて移動を続けている。


「それで、やつらの行先は?」

「残念ながら途中までしか追えなかったよ。だが、行く先はおそらくバハールガルだ。途中から馬に乗ってたし」

「「バハールガル……」」

それは、草原の狼と称される勇猛な遊牧民族の名である。

ベルデンハーザスの厳しい環境の草原を、バハールガルの民たちは多くのヒツジと馬を率いて移動する。


ケサギが首をひねる。

「彼らって、定住することなく大草原を走り回ってるやつらだろう?なぜローシェの女皇を――」

サカキも浮かない顔だ。

「わからない……ロルド様はいまスパンダウ殿と円卓会議室で話し込んでおられる。あとでお聞きしよう」


バハールガルは大陸でもっとも捉えにくい国……というよりは部族群、と称したほうがいいかもしれない。

彼らの大部分が定住をしておらず、他国人の受け入れをほとんどしていないので、諜報のものを送り込むのがかなりむずかしい。


「あ、バハールガルのことなら少しわかります」

ルミルが眠そうに眼をこすりながら居間にやってきた。

足元までの長さの夜着を着て手元の袖をめくった姿で、右手に大きな枕をかかえている。


「ルミル、起きたのか?まだ寝てていいぞ」

ケサギが気を遣うが。


「いえ、今大変なことが起ったのでしょう?僕、協力します」

「そうか。じゃあお願いしようかな」

ムクロがルミルの頭をなでる。

「はい。実は僕、バハールガル出身なんです」


一同が驚く。

「そうだったのか……キミの髪、金髪でくるくるしてるからわからなかったよ」

「父親がアラストル人で、母がババールガルなんです。

生まれたのはバハールガルなんですが、父が認知してくれなかったそうで母は貧しさから僕を5歳の時にアラストルに奴隷として売りました」


「あー、ゴメン……」

ムクロが詫びた。


「だいじょうぶです、バハールガルではよくあるんですよ。

そこの女性は多産なので育てきれない男の子供はアラストルに売る、というのは日常の事で、中には売るのを目的として子供を産む女性もいます」


バハールガル人は髪も瞳も濃い茶色の直毛のものが多く、鼻は低く目も小さめで平坦である。

アラストル人は髪も瞳も色は様々で鼻が高く肌は浅黒く、彫りが深い傾向がある。

ルミルは金色の巻き毛で瞳は青く、鼻筋は通っていて肌の色は浅黒く父方の影響が大きいようだ。


ちなみに、ローシェ国民は北方特有の金髪か薄い茶色の髪で肌は白く、瞳も青か灰色のような薄い色が多めであるが、交易がさかんであるので国民は色の見本市のように色とりどりである。秋津は黒髪と黒い瞳、肌の色は黄白色がほとんどだ。


「秋津も貧しい村では似たようなものだな」

「そうだな……」

サカキもケサギも生みの親の顔は知らない。ムクロは両親がいたが戦で幼いうちに亡くしている。

ケサギは赤ん坊の時、寺に捨てられていた。そのとき坊主の袈裟(けさ)にくるまれていたことからケサギ、と名付けられた。

行き場のない子供が、忍者の里に連れられて来ることはよくあった。


「それで、バハールガルには全部で18の部族があって、それぞれが自分の縄張り内で牧草と水を求めて年に2度移動をします。

部族同士の衝突もよく起こります。なので、バハールガルは部族全員が戦士として普段から訓練をしています」


「18……多いな」

「その中で最大の部族がシャムツァール。首領の名はギルバット。

バハールガルでの強さは民の数で決まりますが、シャムツァールは5千人規模になっているとか。なので半分は定住しているそうです」

「詳しいね」

ムクロが感心している。

「宦官たちはおしゃべりなので。人目のある所でもそういう噂をよくしていました」


「2500人が移動するのか、すごいな」

「土地が瘦せているのでそれだけのヒツジ飼いの人数の定住はむずかしいですからね。

定住している人たちは農耕技術があって、アラストルともさかんに交易しています」


「侵入者たちを雇ったのはそいつらかな?」

「そのへんは僕にはちょっと……ただ、ローシェからまっすぐ東へ向かったとすると、最初に到達するのは一番人数が少ないカルムイク族の縄張りの可能性が大きいと思います」

「そのカルムイクとやらの特徴ってなにかある?」

ムクロが問う。


「カルムイクは呪術を信奉する部族です。なので彼らの縄張りには骸骨を棒に差したものが立てられています」

「あー、じゃあそれかも。タマ子が消える寸前、骸骨っぽいのが棒に刺さってるものが2本、まるで門のように立ってるのがちらっと見えたんだよね。その間を侵入者3人が入って行った」


「ええっ、見えるんですか?!ここからものすごく離れてますよ」

「ワタシの異能でね、でも目が超疲れる。どうやらカルムイクで決まりっぽいな」

「あーそれは……」

ルミルが顔をしかめた。


「なにか問題でも?」

「彼らは……異人を受け入れない部族で、それに失敗を絶対に許しません。侵入者たちは……殺されると思います」

「「なんだと――」」

ケサギとムクロが声を上げ、サカキは立ちあがった。

「よし、助けに行くぞ。国境にたしか結節点があったな。2階にいる白魔導士にそこまで送ってもらおう」

「「えええええ?!」」

ルミルはバハールガル(遊牧民)出身だったおかげで貴重な情報が得られました。

サカキは暗殺者たちを助ける判断をしました。

次話 69話 暗殺者たちの正体 は明日更新予定です。


ここまで読んでくださってありがとうございます!

よかったら いいね ブックマーク お願いします。励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ