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39話 宰相の推理

ローシェ王国ナンバーワンの重鎮ロルド・ヴァインツェル宰相の推理回です。

――宰相執務室・夜――

「じゃあ、今までわかってる時点で報告しましょうか」

ロルドとサカキは豪華な机の対面に座っている。

サカキは定時報告のため、剣客姿である。


「あ、今日の内容はね、君で止めておいてほしい」

サカキはうなずいて、親指・人差し指・中指を立て、窓へ向かって軽く振った。


3名の繋の気配が消えた。

ロルドには繋の気配はわからないだろうが、サカキのことは信用してくれている。


「たぶんだけど、転魂の条件は3つあります。そのうちの2つ迄はわかったかも」

サカキの切れ長の瞳が丸くなる

「本当ですか?こんなに早く?」


「推測の域だけどね、たぶん合ってると思う。一つは『血』だね」

「血……ミヤビのあの行動がそうだったと?」


「はい。あの男、ウツロの行動は一見気まぐれに思えるけどそれらが実は計算された通りだと仮定するね。なぜわざわざ危険を冒して敵の本拠地までやってきたのか。

それが、転魂の条件を満たすためだったとしよう。狙いは君。


だが、血を君に浴びせても体は奪えなかったどころか、わざわざ泰時の体を運んで来てそちらへ移った。

おそらく、一度血を浴びせてもある程度の日数が経たないと奪えないのでしょう。その日数はおそらく3日以上」


「ちょっと待ってください、なぜそんなことまで……」

「逆算してみました。まず最初のウツロ、その元の姿は不明だけどオボロさんの体を奪ったのは君にオボロさんが暗殺依頼をした直後です。

君が最後に会ったのは本物のオボロさんでした。偽物だったら君なら必ず気が付いたはず」


「そうでしたか……」

サカキの記憶にオボロの最後の姿が鮮明に浮かび上がる。

やはりあれは本物の彼だった。『すまないね』と言ったあの表情は彼のものだった。


「となると、指輪の依頼をつけ足したのは?まさかオボロ本人が?」

サカキは嫌な予感がした。


「そうだね、残念ながら本物のオボロさんだろうね。彼は……君を助けたかったのでしょうか」

「それはいったいどういう――」

頭が混乱しそうだ。


「これは想像でしかないけど、オボロさんから悪意はどうしても感じられないんです。

君を外国へ送ることで助けたかった?それだと彼が事前にウツロの計画を知っていたことになるけど……それならなぜ君にそう言わなかった?

残念ながら情報が足りない。保留にしておきましょう」


悪意が感じられない、というロルドの言葉はサカキにも響いた。

そうだ、彼からは悪意など微塵もなく、むしろあれは慈しみの表情だった――


「話を戻すけど、山吹の里襲撃が10月4日。転魂は体も、おそらく記憶も奪えるけれど、その人物の細かな日常のクセや笑い方までは写し取れていなかった。君たちが偽のミヤビを笑い方で見破っていたように。


ウツロはオボロさんの体を奪ったあと、その血をミヤビさんに浴びせ、3日後にミヤビさんの体に移った。

10月7日ですね。

ミヤビさんが病室に運ばれたのが10月10日。ミヤビさんが君に血を浴びせて今はもう3日以上経っている。

気を付けてください……と言っても気を付ける方法が相手に会わない、くらいしかないのがなんとも」


「そうまでして俺の体を奪いたいのか……」

サカキは嫌悪感で吐きそうになる。

「恐るべき執念だね。そして、2つ目の条件は、これは7割くらいの精度だと思うけど、おそらく『信頼関係』」


「信頼……」

「今のところそう考えると無理がないんですよねえ。もし信頼が条件でないのなら、もっと簡単に乗り移れそうな人選になるはずです。オボロはミヤビさんと信頼関係があった。ミヤビさんと君も。

泰時がオボロさんと信頼関係があった、とは言い難いから間にだれかはさんでいたのかな?そうすると、ウツロとオボロさんの間にも信頼関係がないと成立しないから、おそらくウツロは最初はオボロさんが信頼するだれかの姿になっていたはず」


「そうか、俺がフランツ公国へ出立したあと、ウツロはオボロが信頼するだれかの姿で体を奪った、ということはその3日前にオボロは……あっ」


「心当たりある?」

「10月1日に、オボロは返り血で染まっていたことがあった。

彼は『侵入者を斬った』と言っていた。ただ、死体は誰も見ていない。

夜中だったので(かくし)(死体の処理係)が秘密裏に始末した、ということで特には気にも留めていなかった」


「どうやら当たりみたいだねえ」

「謎は残りますが。信頼していたものを斬って、なぜ公表しなかったか。里の者は数が減っていないので松崎城の関係者の可能性もあります」

「たぶん、すごい大物だったのかな、公表すれば里が揺らぐような」

「なるほど……」

しかし、そのような大物が死んだ、という一報は周りにはなかった。

そこに謎を解くカギがありそうだが、今はまだわからない。


「それで、オボロの死体はどこに?」

「先日ケサギさんとムクロさんにその調査を依頼しましてね、現在、山吹の里では死体はすべて穴の中に放り込まれ、焼却されていた、とのことです。おそらくその中のひとつに……」


「無体なことを……」

そしてサカキは一つの疑問にたどり着く。


「ロルド様、一番最初に魂を乗り移らせたとき、3日間ウツロはどうしていたのだろう?」

「それそれ!初めての転魂では、死体が自分のもの1つしかない。そして3日間は相手に乗り移れない。となると答えは――」


「……乗り移れる体がなくても、いや、死体でもいい……?」

「当たり!おそらく、魂だけの状態になってそのへんふわふわ飛んでるか、もしくは自分の死体にもどって何食わぬ顔でいられるか……」


サカキとロルドはお互いの顔を見た。

どちらも真っ青だった。

((もはや妖怪の域だ……))

信じがたいが、脇坂泰時の死体が目の前で起き上がり走り出したのを見ているサカキには疑う余地がない。


「さて、3つめの条件ですが、すみませんがこれは今は事情があって言えません。我が国の機密中の機密でしてね。でも、おそらく君の体はウツロと対峙したとしてもまだ乗っ取られない」


「乗っ取られない……わかりました、ロルド様がおっしゃられるなら俺もそのつもりでいます」

サカキも心の底からロルドを信頼している。

ロルドの読みの深さ、広さは驚くべきものだ。


それと、(かくし)の存在を、サカキは里襲撃の時にてっきり殺されていたと思ったが、ひょっとしたら逃げおおせている可能性に気がついた。

隠れることに関しては上忍をも上回る技術のある彼らを探すのは一苦労だが、やっておく利点はある。

(アサギリたちに頼んでみるか……)


「時が来れば必ず3つめの条件は教えます。……時間はかかりそうですが。それに、それは悪いことではないからね」

イスから立ち上がり、ぽんぽん、とロルドがサカキの肩を叩く。

サカキの背が高いのでロルドは背伸びをしていた。


「……はい」

重苦しい心の中にほんのりと温かいものが灯る。

よくぞこの時にロルドに、ユーグに、そして王女に出会えたものだとサカキは思う。

彼らに出会わなければ大きな時代の波に飲み込まれ何も残せず知ることもできずに死体となっていただろう。だが――


運命か天の意思かはわからないがサカキはまだ生かされている。

ならば自分にはやるべきことがあるのだろう。

いつかそれがわかるときが来るだろうか。

願わくはそのやるべきことと、己が望むことが同じであらんことを――


「すっかり遅くなりましたね。このワインあげるから今日はもう飲んで寝てください」

「ありがとうございます……」

サカキはありがたく酒瓶を受け取り、腰をかがめて

「おやすみなさいませ」

とロルドの耳元にささやいて、ドアを開けて出て行った。


ロルドはまた顔が真っ赤になる。

「んもー、素でそういうことするのやめなさいってばあ」

忍者は、人の心にも忍び込む、とは聞いていたが本当にやばいな、とロルドはつぶやいた。


後日、ロルドの推測すべて当たっていた上に、ウツロ本人も気が付いていなかった3番目の条件の失敗すら当てていたことが判明することになる。

サカキとロルドの間に信頼の気持ちが育っています。

次話は某国からお忍びでお偉いさんが来てしまいました。

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