表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/288

3話 血

少しですが流血表現があります。

苦手な方はご注意ください。

サカキは大男の険しい瞳をまっすぐに見たまま微動だにしなかった。

大剣がサカキの首筋の直前でピタリと止まっている。

首の布越しに剣の刃の冷たさが伝わる。しかし傷はついていない。


「……見事だ。本当に害意はないようだな」

と、剣をサカキの首筋に当てたまま大男がニヤリと笑った。


サカキは眉をひそめた。

重い大剣をピタリと止める腕力と技はただの衛士ではない。

騎士、それもかなり上級の騎士か。


「こやつは忍者で間違いないようだ。ワシの殺気が途中で消えるのも正確に読みおった。度胸もある。かなりの手練れだな」

「ですな……いやあ、実物の忍者、初めて見ました」

どこか興奮した口調で、大男の後ろに立っていた中年の男が言った。

サカキの記憶では衛士たちの一番最後に部屋に入ってきた、見た目が粉屋のおやじにしか見えない灰色の髪、灰緑の瞳の中年の男だ。


「あーっ!ユーグだめえええ!!」

首筋に剣をあてられたサカキを見て少女が駆け寄ってくる。すごい速さだ。

速すぎたのか床の出っ張りにつまずき回転しながら大男の膝裏にドン!と音を立ててぶつかった。


「きゃん!」

「うわっ」

「!!!!」


サカキは首筋に食い込む刃の感触に背筋を凍らせながら床に仰向けに体を倒し間一髪で剣の軌道から逃れた。

髪が数条、宙に舞った。

床に手を付き、ゆっくりと起き上がると、左の首筋にピリリと痛みが走った。

左手で押さえると、濡れた感触があった。

手の平にはべったりと血が付いていた。


「その人、殺しちゃらめええええええ」

少女は起き上がりながらサカキのほうを見た。

「あっ、血はダメ……」

と叫ぶと白目をむいて後ろに倒れかけた。


(今、あんたに殺されそうになったんだが)

心の中で愚痴りながら、サカキは立ち上がって少女の背に右手を伸ばして受け止めた。

同時に大男も左手を背に伸ばしていた。


「あっ、姫に触れてしまった。だが気絶しているならセーフか?」

「セーフ!」

粉屋のおやじが答えた。


どうやら、この少女に触れてはいけない決まり事でもあるようだ。

それが衛士たちの微妙な反応の理由らしい。


「今のうちに姫を別の寝室へお連れして。あと侍女たちは何やってるんですか、こんなに騒ぎになってるのに」

粉屋のおやじが指摘する。

「それが、いくらゆすっても起きないのです」

「ふーむ」


衛士たちは気を失った少女にシーツをかけてから抱き上げ、部屋を出る。

サカキは眠り香のことは黙っておいた。効き目はもう切れているはずである。


「すまなかった、傷つけてしまったな」

大男はサカキの首筋を見て謝った。意外だ。


「気にするな、このままでいい」

「そうはいかん、手当させよう……白魔……ゴホン、いやなんでもない。おい、アカネを呼んで来てくれ」

「隣で寝てますが」

「叩き起こせ!」


(アカネ……?)

嫌な予感がした。知っている名だ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


「おはようございま~す~、で、けが人はどこですかぁ?」

と寝起きの間抜けた声を出しながら仕切カーテンの下からもぞもぞと入って来たのは。


「あっ、サカキ様!サカキ様じゃないですか、お久しぶりです、アカネです!!

けが人ってサカキ様なんですか?まさか上忍の貴方様がケガするなんて!!クマにでも襲われたんですか?!」


前髪を眉毛の上でまっすぐ揃えた、丸い目と丸い口の侍女服の若い女が名前を連呼した。

彼女は元山吹の里のくノ一だった。

栗色の髪を左右2つにくくっている。


サカキは心の中で頭を抱えた。

まさか忍務中に個人情報をばらされるとは。


「ああ、狂暴なクマに襲われた」

「おい、今なんつった?」

本物のクマのように牙を剝きだして大男が怒ったが、サカキはそっぽを向いた。


アカネはサカキに会えたことがよほどうれしかったのだろう、何度も名前を呼んでは里の近況を尋ねたりした。

サカキは肩を落とした。

今日は厄日だ。


アカネは忍者としての運動能力は優秀だったが、忍者としての作法がまったく覚えられず、とうとう厄介払いとしてフランツ公国へ奉公に出されたのだった。

アカネの作法担当の中忍がよく「教えたはずなのに……」と頭を抱えてうずくまっていた光景を思い出す。


その様子を見て大男がニヤニヤ笑った。

「ほうほう、そうかサカキというのか良い名だな!」

「サカキさん、血の付いたその布はこちらで処分しますね」

粉屋のおやじのような男は変に顔を歪ませながら布を受け取った。笑いを我慢しているようだ。


(もう帰りたい)

アカネに首に包帯をぐるぐる巻かれながらサカキは深くため息をついた。

アカネちゃん登場しました。

性格が明るくてかなり好きなキャラなんですよ。

でも、いますよね、個人情報に無頓着な人。

身近にいると困りますね。


投降の頻度は書き溜めた分があるうちは多めです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ