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285話 月に叢雲花に女神(最終話)

章タイトル回収です。このお話が最終話となります。

ずっと読んでくださった方、たまたま数話読んでくださった方、チラッとでも見てくださった方々のおかげで、1話から285話まで1日も途絶えることなく毎日更新することができました。

すべての方に最大の感謝を!!ありがとうございます!


そして、お願いがあります!

最後まで読んですべての事を知ってからもう一度”神の視点”で最初から読んでいただければ、また違った印象になると思いますので、気が向いてお時間がございましたらぜひ!

イリアティナは目を伏せてシュンとなった。サカキがおいでおいで、と手招きをするとへにゃあ、と下がり眉になり、ささっと膝の上に横座して、サカキの胸に顔を寄せて白状した。


「そうなの……消してしまってごめんなさい……サカキは『姫』みたいなタイプが一番好みだったんじゃないかな、って思うと……その、なんか申し訳なくて言い出せなくて」


サカキが想像した通りの理由だった。やっぱり考え方は少女なのだな。

彼女にとっては全員自分でも、それぞれに考え方の違いがあるから気になっていたようだ。そのへんはサカキにはわからない感覚である。だが、そういう変なところに気を回すような人間らしさがサカキは好きだ。

サカキはゆっくりと首を振った。


「イリア。俺は、女王様モードのイリアは王としての凛々しさ、賢明さを尊敬申し上げている。お姫様モードの時は、はにかんだ仕草が可愛らしい、と思う。だが――」

「だが?」

「素の姫のときは『愛しい』と思う。その理由ならいくらでも言えるぞ。

大好きなお菓子を食べる時の幸せそうな笑顔は俺まで幸せになる。政務が苦手で隙あらば逃げ出そうとしているところは笑えるし、俺の気配を追って天井に張り付いていたのは……ある意味感動した。

それに、本当は俺に触れたいのに、人前では一生懸命我慢しているところも、俺に内緒で源泉かけ流しの露天風呂がある部屋を里に作ろうと企んでいるところも……」


恋人が忍者だとサプライズは無理なようだ。イリアティナは焦った。


「わわ、ちょっと待って、自分でやってるときはなんとも思わなかったけど、改めて面と向かって言われるとすごく恥ずかしい!!」

イリアティナは真っ赤になった。なんとも思ってなかったのか。

「ちっとも恥ずかしくない。……俺は俺の()()で人間の貴方が好きだ。愛している」

イリアティナの大きな青い瞳が波打つように揺れた。


その言葉こそが彼女が、神が一番聞きたかったことだ。

太古、光の神は泡に月の精の姿を与えた。神は彼を好ましく想い、彼もまた神を好ましいと思っている……はずだが、神はふと思った。それは創造主に対する強制的な忠誠心ではないだろうか。互いの心は通じ合っていたが、それが彼自身の意思であるかどうかは神には区別が付かなかったのだ。


だから、物質界に降り、互いが『個』となれば月の精の心もわかるのではないか。

光の神はそう思ったのである。


サカキの表情で、サカキの声で、思ったことを。たとえ神核を砕いても知りたかった答えを、イリアティナは手に入れたのだ。

「……その言葉を――ずっと待ってた」

イリアティナの瞳から涙があふれて来る。彼女のサカキに対する想いと、神であったときの月の精に対する想いが重なってひとつになった。


サカキは右手でそっとイリアティナの頬に触れ、指先で涙をぬぐった。

太古では2人の体は霊体であり互いに触れることはできなかった。だが今は、互いの温度を、鼓動を感じることができる。


「初めてイリアに会った時、昔の記憶が少しだけ蘇った。俺は海中にいて、何かに引き上げられた、その時に見えたのは夏の青空だと思ったが、実際は夜だったんだ。なぜ青空に見えたのか。それはイリア、あなたの瞳の青色に俺が目を離せなくなっていたからだった」

「……思い出してたの?」

イリアティナは目を丸くしている。


「ああ。思い出した……最初から俺は貴方に恋していたんだ」

光のない昏い海の底で生まれ、初めて見た色が、青、だった。その瞬間からサカキの心は囚われていたのだ。


「夢みたい……私も大、大、大好きー!!この世界ごと愛してる……」

イリアティナがサカキの切れ長の瞳をじっと見つめる。

サカキの手がイリアティナの髪を撫で、頭をそっと引き寄せる。イリアティアは目を閉じようとし、ふと、サカキの動きが止まった。

「少しお待ちを」

サカキは左手を上に伸ばしパチンと指を鳴らした。繋の忍者たちと騎士たちがこちらを伺っているのが見えた。秘め事に満月は明るすぎる。


昼間のように明るい光を射していた満月に雲がかかり、たちまちあたりが薄暗くなる。

忍者には最適な能力をサカキは手に入れていた。

イリアティナはそれを見てまたクスクス笑った。


「じゃあ、私も――」

サカキのマネをしてイリアティナも右手の指をパチン、と慣らす。

すると、バラがスルスル伸びて絡み合い、ガラスの壁を外から見えないように覆った。

神の力にサカキの眼が丸くなる。生物の成長を早めて自由に形を変えることもできるのか。


「このバラの名前はね、今まで単に『王家の白バラ』って呼んでたんだけど、私が『フィスターリア』って命名したの」

「フィスターリア。花に神の名前を?」

「そう。私ね、いつかまた激情に支配されて神の思考になって人に罰を与えそうになるといけないから、神力をこのバラの中にしまっちゃおうと思うの。名づけはそのためだよ」


「それは――いい考えだと思うが、貴方はだいじょうぶなのか??」

それは”人として生きる”ということだ。女皇を狙う輩はいくらでもいる。サカキは心配だ。


「うん。だいじょうぶ。これからは人として国を守っていくけど、本当に危ないなって思った時は呼び出すから……エヘ」

顔を真っ赤に染めて言い訳するイリア。

(神はいない。だが、()()()()()()()()()はいるというわけか)

サカキの口元がほころぶ。そういうところも可愛いと思う。結局、驚かされても、変なことをしても、何をしても、全部かわいいのだ。サカキはもうだめだった。この世のすべてよりもイリアが愛しい。もしも世界が敵に回るとしてもサカキはイリアティナを選ぶだろう。


それはイリアティナも同じで、サカキが目の前で瞬きをして、呼吸をして、動いている。黒髪が動きに合わせてサラサラと音が鳴るのも、冬の満天の星空のような切れ長の黒い瞳もなにもかもが好きでたまらない。


もう運命の神の邪魔は入らない。

2人は目を合わせ、無言になり、1000年の時を超え、初めての口づけを交わした。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


――エピローグ――


光の神は人間として生きて死ぬことを選んだ。

ローシェ帝国史上最も勢力を拡大し、国力を上げた偉大な女皇帝としてイリアティナ・デル・ローシェの名は歴史に記された。


一方、歴史には残らない、ささやかな出来事がひとつ――


ある日、イリアティナはにトーラとレクサナに特別な本を発注した。


『レクサナ、私のことを題材にした、私の名前が出てこない子供向けのお話を書いてほしいんだけど』

『承知いたしました。子供向けなんですね、初めてでワクワクします!』

『絵姿はいかがいたしましょう、姫様に似た感じでもよろしいですか?』


『うん。顔はトーラの好きな感じでいいんだけど、髪は金髪で瞳が青でお願い』

『『かしこまりました。』』


『でね、姫のお供に白い鹿のような、(たてがみ)が長くて一本角を生やした獣が守ってる感じで――あ、そうそうその姫には3人の人格が宿っていたことにしてほしいの』

『3人ですか?女皇様のことを書くのでしたら2人では――』

『いいの。おとぎ話だから。3人でお願い』

『わかりました。白い獣ステキですね、創作欲がすごく湧いてきました!』


かくしてひとつの物語が絵本となって市井に広まった。それは人々の間で小さな子供たちに最初に読み聞かせる童話となった。


その書き出しはこうである。

『昔々、ある国に、三色(みしき)の姫と呼ばれる美しい金髪と青い瞳の、とても恥ずかしがりやなお姫様がいました』



忍者は三色の姫と踊る ~忍者と騎士と白魔導士の国ローシェ物語~

――完――

イリアティナは、歴史には残らなくてもせめて物語の中に『姫』と『白澤』がいたことを残しておきたかったのです。絵本を読んだ子供たちの心の中で姫と白澤は生き続けることでしょう。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。伏線は全部回収した……はず?と思いましたが、回収しきれなかったのが少しありました、何らかの形で修正したいと思います(>_<)

この後のことはまだ考えていないのですが、決まり次第活動報告にアップしますのでよかったらご覧ください。長らくのご愛読、本当にありがとうございました(*- -)(*_ _)

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