26話 上忍の弐 ミヤビ
少しですが流血表現があります。苦手な方はご注意ください。
中忍のサギリが重傷から回復し、上の弐・ミヤビが三・ケサギと四・ムクロによって助け出されたという報が入り、サカキはヒムロ、ヒカゲといっしょにミヤビのいる病室へ急いで向かった。
――白魔導士大学付属病院の一室――
「サカキ、ヒムロ、ヒカゲ、無事でしたか」
寝台に上半身だけを起こしたミヤビがにこやかに出迎えた。
大きく波打つ黒髪にはところどころに赤色の筋が入り、赤い瞳は強い力を放っている。浅黒い肌と厚めの唇の情熱的な南方系の美女である。
その見た目に反して、優し気な表情と声で話す。
しかし、ひとたび戦場に立てば炎の竜と言われるほどすさまじい戦いっぷりになる。
弐の階級の通り、サカキですら彼女には戦闘ではかなわない。
「ミヤビ様!ご無事で……」
サカキは無事な姿を見て安堵した。
ずっと心に引っかかっていたのだ。
ヒムロとヒカゲも彼女の無事を喜んだ。
部屋にはケサギとムクロはいなかった。
「彼らは、私をここまで送り届けたあと、またすぐ出て行ってしまいました。
まだ里の生き残りがいる、と言って。彼らは相変わらずせわしいですね」
ミヤビはくすくすと笑った。
歳は30になったばかりだが、笑うと少女のような幼さがのぞく。
ヒムロとヒカゲは神妙な顔でお互いを見た。
サカキはそれを目で確認した。
ミヤビの担当の看護魔導士が
「体が衰弱してらっしゃいます。完全に回復するにはあと1週間くらいかかりますのでその間はご安静に」
と注意した。
「そうですか、では込み入った話はミヤビ様が回復なされてからに……」
サカキが辞そうとするとミヤビが止める。
「いいえ、すぐに話したいことがあります。壱のことですが――」
ミヤビは眉をひそめた。
「彼の魂が別のものに変わった、としか思えません。体はあの人なのに、中身が別人になったのです。
あんな男……絶対にオボロではありません」
「それは……別人が体を乗っ取ったと?」
「にわかには信じられないことです。壱の体を乗っ取り、我らの里を襲わせたのは般若衆のものではないでしょうか。オボロ、いえ別人の彼は般若の面を被ったものたちに指示を出していましたから」
サカキは考え込んだ。
では、俺が最後に会ったあれは?すでにオボロではない別のだれかだったのか?
あの表情も声音も、俺が知っているオボロのものだった。それならあのあとか?
「どうしてこんなことが……」
ミヤビは疲れた顔で頭を振った。顔色がまっさおだ。
「ミヤビ様、今日はこのへんで、どうかお休みください。お体を横に倒しましょう」
とミヤビの後頭部に右手をあててゆっくりと彼女の体をベッドに横たえようとした瞬間。
ドスドスッ
サカキの目が見開いた。彼の視線の先には自分の腹に刺さった苦無が2本――
「ちっ」
ミヤビは舌打ちした。本当の彼女であれば絶対にしないことだ。
「代わり身の術か」
ミヤビがつぶやく。
サカキがいた場所には丸太が一本。苦無はそれに刺さっていた。
サカキはヒムロとヒカゲの前に移動していた。
全員苦無を構えている。
「お前はだれだ?」
「やれやれ、女のフリとはむずかしいものだ。すぐに見破られるとは」
ミヤビの顔で、ミヤビの声で、ミヤビではないなにかが下卑た笑みを浮かべる姿をサカキは耐えられなかった。
「ミヤビ様はあのような状況で声をたてて笑うような方ではない!」
「ミヤビ様を返せっ!」
ヒムロとヒカゲも叫ぶ。
「返すよ。ただし――」
言うと同時にミヤビは窓の枠を蹴って外に飛び出た。病室は3階にあった。
「死体でな」
その手には苦無が握られており、それを両手で喉にあて、サカキに向かって、にっ、と笑った。
「やめろ!!!!!!」
サカキもミヤビに向かって飛ぶが、伸ばした手が届く前に彼女は己の喉を自分で切り裂いた。
シュバッ!!
と血しぶきが舞い、サカキにも降りかかる。
サカキは血に塗れながらミヤビの体を抱き、ふわりと病棟の中庭に着地した。
彼の腕の中でミヤビは薄く笑い、目を閉じた。
「サカキ、前だ!!」
ヒムロが叫ぶ。ヒカゲは先にくせ者3人を追い始めていた。
サカキの前方30ハロルほど先に忍者の姿をしたものが3人、装束は山吹忍者のものだが――
「くそっ、雑な化け方しやがって!!」
吐き捨ててヒムロもヒカゲの後を追う。
「あの走り方は……忍者ではない、武士だ!近くに仲間がいるかもしれん、気を付けろ!」
サカキも叫ぶ。
忍者は潜入は基本単独だが侍衆のような武士集団は常に5人以上の組で活動する。
それだけの人数がこんな城内の奥にまで武士が入り込んでくるとは。
それよりも今は――
「ミヤビ様!!」
ぐったりと動かなくなったミヤビの体を抱いてサカキが叫ぶ。
「早く!白魔導士を!!!」
ローシェにまで敵が乗り込んで来るとは、サカキにも、他のだれにも予想できないことでした。
次話で事件のあらましが判明します。




