12話 アサギリとヒシマル
桔梗の里の生き残りのアサギリとヒシマルは、秋津の国では珍しい多重間諜でとても希少価値の高い手練れたちです。
サカキにも名は知らされていなかったが、存在は知っていた。
桔梗の里に所属しながら山吹にも、さらには別の場所にも繋がりを持つ多重間諜である。
「ところが、武装していったのが仇となってそちらの斥候と戦闘になってしまいまして……」
「待て、と言っても待ってくれないんで逃げ回っていたらヒムロ様とヒカゲ様が来られて、やっと話を聞いてもらえたんです」
サカキは横目でヒムロを見た。
ヒムロはロルドと話を続けていたが、背をこちらに向けたまま右手ですばやく合図を送っていた。
『話に嘘はない』の意だ。
「なるほど、それでヒムロとヒカゲが助かったのか、礼を言う。よくぞ伝えに来てくれた」
「いえ、まさか山吹の里への襲撃だったとは……知っていればもっとなんとかできたかもしれない」
アサギリは悔し気に言った。
「それに、我らもヒムロ様のおかげで助かりました。オボロ殿が裏切ったことを知ると里に入るな、と止めてくださったので」
良い判断だった。もしそのまま里に助けに入れば彼らも死体になっていただろう。
山吹の襲撃のあと、桔梗の里は侍衆に占拠されたという。
「侍衆……だと?」
「はい、幹部の数名が般若面を付けていました」
「般若衆か……」
「人を斬るのが趣味の、侍衆の中でも最も残酷なやつらです」
アサギリは嫌悪感を隠さなかった。
戦国の世にある秋津において侍衆とは、特定の主に仕えず集団で移動しながら金で雇われる傭兵隊であった。
侍は、もとは貴族の護衛を主な仕事とする武士のこと。
しかし、貴族が支配していた時代から武士の時代に移り、侍の身分を持っているものが戦で主を失い、野武士となった者があたりをうろつく間に徒党を組み一つの集団となったもので、大概が荒っぽいものたちだった。
「彼らがなぜ桔梗の里を……」
「我らの調べでは般若衆を率いていたのは、面をかぶっていたので推測になりますが山吹の里の上忍壱・オボロかと。
彼の異能と侍衆によって50名を超える死者が出て、生き残りは一旦、白露の里へ連行されたそうです。ただ、その先はまだ判明しておりません」
「白露……桧垣藩か。そうか、だんだん話が見えて来たな。我らの松崎藩藩主脇坂泰時殿は忍者嫌いだ。
前々から里の税を重くしたり無茶な要求をしていた。そこを般若のものに目を付けられたのだろう」
「その通りだと思います。山吹と桔梗はフランツ公国と国境を接し、桧垣へと続く街道のある交通の要所。
ここを抑えて松崎藩は桧垣藩と手を結ぶようです」
「我が松崎藩は光川家を裏切るのだな……父君のご遺志をこうも簡単に破るとは」
泰時の父、幸保は戦国の世だからこそ藩の安定を志し、忍者を厚く保護して情報を得ることに重きを置いていた主君であった
サカキが20歳で上忍の六になったとき、たいそう喜んで褒美として名刀・月牙を下賜したほどである。
よき主君であったが去年の暮れに病死、そのあとを継いだ嫡男泰時は忍者よりも武士を重用したがっていた。
今の秋津国は東の光川氏、西の柴藤氏の二大勢力争いとなっている。
桧垣藩は西についており、泰時はそこと手を結ぶという決断を下した。
(それを唆したのは般若衆だろう。オボロは彼らと繋がっていたのか……いったいつから――)
「情報感謝する。半分はケサギとムクロからだろう?」
「ばれましたか。そうです、お二人と接触できまして交換させていただき、この場所も教えていただきました」
山吹の上忍・ケサギとムクロの情報網はかなり優秀で、離れた地にある藩の様子までも網羅している。
「わかった、ところで2人はこの先行く宛てはあるか?なかったら俺の下につかないか?」
2人は顔を見合わせた。
自分たちが諜のものである、と明かした時点でそのつもりだったはずだ。
「それは願ってもない……雇い主を失い、途方に暮れていたところでして。我ら桔梗のものですがよいのですか?」
「今はもう山吹も桔梗もない。アゲハ!」
「はい!」
ぴょこん、とアゲハがサカキの後ろから出てスカートをふわりと持ち上げてローシェ風のお辞儀をした。
「アゲハです、サカキ様の繋をしております」
アサギリとヒシマルがつぶやいた。
「「かわいい……」」
この時代、どこの国も女性の数は男性に比べて非常に少なく、その中でも若くて可愛いくノ一というのは稀と言える存在であった。
「このとおり、今の俺の繋は一人しかいなくてな。彼女の負担を減らしたいので二人が来てくれるとありがた……」
「「はい、喜んで!」」
と二人が同時に食い気味に叫ぶ。
「いい返事だ……」
乗り気になった忍者の返事は早いのである。
次話でサカキとアサギリ&ヒシマルの戦闘シーンが出てきます。
書いてて楽しかった。




