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118話 2人の上忍見習い

白露忍軍から盲目の上忍・カイがやってきました。サカキにお願いがあるようです。

 ――夜香忍軍訓練所・三日後――


「忙しいところ、申し訳ない」

「いいえ、此の方もちょうど頼みごとがございましたので」


サカキは客間で白露忍軍の客を2人迎え入れていた。

8畳間に座布団と、木目の美しい重厚な机が置かれている。秋津風の部屋である。

床の間には「平常心是道」と達筆で書かれたヒムロ製掛け軸がかかっている。


カイは今日も白い布で目を隠すように頭に巻き付けている。だがその立ち振る舞いに迷いはなく優雅でとても盲とは思えない。


「結節点を空けていただいたおかげでこちらへ来る時間が大幅に短縮できます。まことにありがとうございます」

カイは丁寧にお辞儀をした。その隣にはアヤセがいる。

先日の訓練から2週間が経っている。


「……いい顔つきになったな」

サカキの口元がほころぶ。

初めて会ったときはどこか不安げで線の細い印象だったが、迷い事がふっきれたからか、涼やかな表情になっていた。

この分なら、きっと彼の友たちとも上手くいっているだろう。


「ありがとうございます。あれから上忍訓練をはじめまして、今は中忍の上の1番認定をいただきました」

「もう上忍認定はできる腕前にはなっています。しかし、まだ若いですからね、精神面と、教導面が追い付いていません。しばらくは上忍見習いとして訓練を続けていく予定です」

「では、そのへんをうちで担当すればよいか?」

「はい。下忍・中忍の上に立つものの心得を実践的に教えていただければ、ありがたく存じます。上忍の規範的行動は言葉では伝えきれませんので」

「承知した。いい具合にこちらも新しく上忍になるものがいる。その者と一緒に行動してもらうことになる」


「わかりました」

「……しかし、もう来る頃だと思うが……遅いな」


「失礼します」

襖をあけて入って来たのは、まとめた茶色のくせっ毛が猫のしっぽのように丸くなっている26歳の青年だ。

サカキと揃いの、夜香忍軍秋津式忍者服を着ている。

「リョウガ、遅いぞ」

サカキが咎めると、細い眉の片方だけを上げて首を傾げた。

「時間ぴったりだと思いますが?」

同時に午後2時を知らせる鐘が鳴った。


客人を待たせておきながらの物言いに、サカキは呆れる。

「……。こういう時は少し前に……まあいい、座れ。紹介する」

リョウガは、座布団の前に膝を付き、顔を横に向けて座布団をサカキの隣にまっすぐ並ぶように位置を修正してから正座した。

その様子に、アヤセもサカキも、カイも不穏な空気を感じ始めた。


「こちらはリョウガ。中忍の中位だったが、先日幻体目が発現したので上忍の訓練を始めることになった。リョウガ、こちらは……」

「お待ちください。そこの掛け軸、右に傾いています。直さないと――」

「リョウガ」

サカキの声に怒りが混じる。

リョウガは一瞬ひるんだが食い下がった。

「すみません、ですが真っすぐあるべきのものが傾いていると気になって気になって……」


「どうぞ、私はかまいませんよ、気が済むようにお直しください」

カイが気をまわして言う。

「客人に気を使わせてすまない。リョウガ、手早く済ませろ」

「はい」

リョウガは明らかにほっとして掛け軸に手を掛け、傾きを直し、ちょっと離れて首を傾け、もう一度直してやっと、うなずいた。


サカキとアヤセにはまったく違いがわからない。

カイは自重目を使ってわずかな傾きに気が付いたが、正直どうでもいいほど微細なものだった。


「お待たせしました」

「では、改めて紹介する。こちらは白露忍軍の上忍のカイ殿。俺の要請で来ていただいた。隣の若いのはアヤセ。その方と同じ上忍見習いの訓練を始めることになった」

「アヤセ……白露忍軍はたしか2文字の名前では」

アヤセがうなずいた。

「はい。ですがサカキ様がこの元名のほうが合うとおっしゃってくださって、自分でもしっくりきましたのでアヤセと名乗ることにしました」


カイもうなずいた。

「もともと2文字でなければならない、という決まりもありませんでしたし。アヤセがきっかけとなって、他の忍者たちも3文字を名乗るものが増えてきました」

「そうでしたか……でも長さが揃ってないのは美しくな……」

サカキは右手を伸ばしてリョウガを制した。


「そこまでだ。他の忍軍の内情に口出しは無用」

「……はい」

リョウガは不満そうだ。


(まためんどくさいやつが来たな……)

元桔梗忍軍の者は、サカキにとっては山吹の者たちほどの接触はなく、夜香忍軍になってからも別番の隊員とは個人的にかかわることはあまりない。

(もう少し桔梗とも親交を深めておけばよかったか。だが――)


山吹の里が落ちて3か月。

夜香忍軍が誕生してからは、サカキは騎士と白魔導士たちとの繋がりを持つために文字通り王城内を飛び回っていた。

最初はみな取り付く島もなく、忍者をうさん臭く思うものがほとんどで、例外は第3騎兵隊の連中だけだった。


騎士の中には荒っぽいものもいて、サカキが通るだけで露骨に睨んで来るものや、中には上忍のサカキに勝負を挑んで来る勇気のある者もいた。

(そういえば『勝負に勝ったらお前を一晩好きにさせろ』とまで言ってきたやつがいたな)

サカキは苦笑する。当然だがサカキはその騎士を一瞬で昏倒させた。だが、そのおかげで騎士たちには力を見せるのが一番という経験を得た。

サカキは毎日のように騎士たちの訓練所に通い、時には飛び入り参加をし、その力量を見せて徐々に忍者というものの存在を認めさせていった。


白魔導士たちは騎士たちほどではないがどこか余所余所しいことが多かった。だが、こちらはクラウスのおかげで騎士たちよりは早く信頼を勝ち取れた。

そういうこともあって、身内である桔梗忍軍は後回しにしていたのだった。


「では、早速だが見習い2人、手合わせするぞ」

「はい」

「……はい」


アヤセは即答し、リョウガはどこか含んだものがある返事をした。


「カイ殿、見学されますか?」

「ええ、ぜひ」


「わかりました。では訓練場へご案内いたす」

アヤセ君は上忍をやる気満々ですがリョウガは嫌々でした。彼は潔癖症であり、環境の変化を好まないタイプです。

次話 119話 上忍同士の手合わせ は明日更新予定です。

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