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109話 250年前の恨み

翁衆の目的の一つは花山院の血筋への復讐でした。妖には寿命がありませんので一度抱いた恨みは晴らされるまで永遠に続くようです。

サカキは語る。

「さる筋の情報だが、花山院はかつて翁面の元となった人間たちに恨みをかったようだ。内容はわからないが、何百年も続く怨念を持つ怨霊となるほどひどいものだったのだろう。これは翁面たちによる花山院への復讐……なのかもしれない。正清殿……いや、長内どの。あなたは当分の間ここにおられるがよい。翁衆の妖力も、こちらが受け入れない限り外国までは及ばないそうだ」


「翁面……まさか250年も前の恨みの根源が此の方に繋がるとは……あまりにも理不尽――」

数馬は真っ青だ。

「それにしてもそのような古い情報をよく捉えることができましたな」

「ああ。出所は教えるわけにはいかないが」

ヒルの存在は立花たちには知られてはならない。秋津でその名前が出れば『右』と『左』に気づかれる恐れがある。


「その、ここで匿っていただけるのは願ってもないですがあなたたちにも被害が及ぶのでは」

「はっきり言うが、長内殿が秋津に戻るほうがよほど混乱を招く。この国ならそなたらの政敵も手を出しにくいだろう。

ただ、長内殿の素性をローシェ側に伝えるのはもう少し後だ。この情報はしばしここだけに留める」

(姫に知られたら即刻行動に移す可能性があるからな)


サカキはお家騒動についても察する。

一条将軍直系の男子がいる、ということは、立花はそれを担いで統一の戦に参戦する、という疑いをもたれる可能性があり、立花に与するものたちにもそういう志を持ってしまうものが出てくることも、あるいは、光川派のものからも立花を疑う者たちが出てくるかもしれない。

(……血生臭いことになっていきそうだな……いや、これこそが正清を生かしておいた理由かもしれない。もしも立花家が再興を目指すときは人質を盾にその計画を阻止し、奪われたとしてもその存在が混乱を招く)

とても秋津に彼を返すわけにはいかない。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


「ひとついいかな?」

ムクロが初めて口を開いた。


「どうした?」

「長内殿は恐らく……躁鬱(そううつ)の気がございます。いわゆる心の病です。長期間、緊張を強いられた生活をしているものがこうなることがあります」

ムクロはがくがくと震える長内を支えてやりながら言った。


「躁鬱の気……」

「気持ちの上がり下がりが異常なほど激しい。これは、本来の彼の気ではないでしょう」


サカキはうなずく。

「そうか、それならあのちぐはぐな行動にも納得がいく。数馬殿、ムクロは医忍の資格も持っております。特にこういう心の病気には詳しい。彼の診たては信用してよいと思います」

「そうでしたか……おいたわしい……」

数馬の目の端に涙が浮かんだ。


長内はムクロに肩を抱かれているうちに落ち着いたのか、「……ごめんなさい……」と涙声で言った。

「……いえ、謝るべきは某のほうです。あなた様の心の傷に気が付けなかった。情けないことです」

数馬も涙声だ。


サカキは考えを一瞬で巡らせると矢継ぎ早に指示を出し始めた。

「事情はわかった。では、数馬殿、長内殿によく似た背格好の者を用意しますので、今夜のうちにそれといっしょに秋津へお帰りください。できるだけ目立たないふりをして。

おそばの方たちには『連絡係は無理だった』とでもお伝えください」


数馬は驚いたが。

「は、なるほど、把握いたしました」

サカキの言わんとする事態は飲み込めたらしい。

光川の根城・伊津河城で()()に将軍になる意思がないことを宣言させる。

ただ、長内本人は命を狙われている可能性があるため、影武者を立てるということだった。


ケサギがあとを続ける。

「うちの繋ぎに1人背格好がよく似たヤツがいる。彼を呼んで来よう」

「助かる」


ケサギが目で後ろの気配を消していた繋ぎの忍者に合図をする。

繋ぎの一人がひっそりと足音を立てずに出て行った。


「そこの繋2人、そなたらの大元(光川慶忠)に今決まった事を伝えるのは半日待ってほしいが、いいか?

そのあいだにこちら側の準備を整えたい」

気配を消したままアサギリとヒシマルは互いを見、そしてサカキにうなずいた。


「頼むぞ」

アサギリとヒシマルはサカキの優秀な繋ぎではあるが、本職は光川の(ちょう)である。

命令系統が2重になるので扱いはむずかしくなるがそれを補ってあまりある2人の情報収集能力の高さがあった。


「ケサギ、ムクロ。俺は長内殿の戸籍をロルド様に作ってもらう。半日あればなんとかなるだろう。

長内殿はこの国でもう一度ちゃんとした教育を受けていただこう。我らにできるのはそれくらいだ」


「そうだね。彼の治療はワタシが責任もってやるよ」

ムクロは長内の頭をゆっくり撫でてやりながら言った。

「ありがたい」


ケサギも立膝で長内の横に控えながら聞いた。

「ふむ。こういう事情なら一度秋津との関わりを切ってしまうほうがいいとオレも思う。

治療が完了すれば、後のことは立花殿たちの判断にお任せすることになるな?」

「ああ」


「……結局、またローシェの方々のお手を煩わせることになり申した。心よりお詫びと感謝を申し上げまする」

深々と数馬がお辞儀をする。


「ここまで来たらもう同じ船に乗り合わせた同士だ。それに、貴殿らのおかげで、我々も知りえなかった裏側が見えてきている。ひとまず、長内殿のローシェのでの扱いは任せてもらう。

そちらでの扱いは事情をよく知る数馬殿が判断なされるのがよい。身代わりの者は留めるも返すも自由にお使いくださってけっこうだ」


「ありがたく存じます。おそらく、しばらくは他所へ匿う、という名目で隠れ家を一軒借り、そこに数日滞在していただくことになろうかと。そのあとはお返しいたす」

「わかった。それと、長内殿には繋ぎを2人お付けする。アゲハ、キリヤとレスターを呼んで来てくれ。今は忍者宿舎にいるはずだ」


気配を消して控えていたアゲハが姿を現して

「承知いたしました」

と答え、また姿をふっ、と消す。


「アゲハ殿も裏の繋ぎになられましたか」

数馬が問う。

「ああ。中忍に上がったのでな。今修行中だ」


アゲハは今まで姿を現して傍に使える「表」の繋ぎだった。

しかし、中忍になり今までよりもむずかしい働きもできるようになったので「裏」と呼ばれる、姿を消して傍仕えをする役目になったのだった。

ただ、周囲から「あのかわいいメイド姿が見えなくなって寂しい」という声を(主にゾル)けっこう聞いたので、一通り修行が終わったらあとで表に戻すつもりのサカキだった。

長内は心の病気でした。サカキは長内の問題を解決するために影武者を用いて一計を案じます。

次話 110話 若い忍者ナキリとキリヤとレスター は今日更新です。

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