スコール!
城内の居住区画を抜けて、堅牢な石で積まれたアーチ型の城壁門を越えると、眼前の大きな十字路が見渡せた。道幅は広く作られているのは、関門での検閲を受けた業者や訪問者が、オプシディアン各地に行き来しやすいように設計されたものだ。それ以外にも、このクウェーカー大通りは、正面関門から城壁門までの直線、両脇の通り沿いが商店、宿泊となっており、左右に分岐する通りを進み奥まった位置に行けば、工房や薬草園がある配置になっていた。そして、すこし外れた場所に教会、そして目当てのカジノ:クロック・クウェーカーが、白と黒と金、そして季節色の紺色の光をまとって、視線の右奥で夜空に向かって光を放っていた。マルコはひとまず、正面通りを散策したかった。
城壁門から通りまでは、道幅に合わせた広く段差の小さい階段が敷き詰められており、駆け足でそれを降りるや否や、人が立ち並ぶ露店が目についた。オプシディアンに来ればこれ。くどくない程度に濃厚な黄金色の美酒。“スコール”を飲まないわけにはいかない。露店からつるされた魔導球のライトが周囲をほんのりとオレンジ色に照らし、周辺の木製テーブルでは大勢の人間が煌煌と照らされた通りの中で、麦の穂のような素揚げや、焼いた小魚ををつまみに食べながら談笑している。マルコの順番が回ってきた。
「おじさん、この容器に入れてくれ!」
「あいよ、3シリング」
本当は、露店の奥から上げたての香りのするあの穂のようなつまみも食べたかったが、今はカジノが待っている。唾をごくりと飲みながら、スコールを受け取り、露店を後にした。
マルコは、スコールをちびちび飲みながら他の露店を巡り回った。
煌びやかな石で縁取られた看板の雑貨屋では、たくさんのお守りやまじないの品、お土産になる食べ物が売ってあった。店頭に並ぶ、麻袋に入った穂のスナックはどうもお土産としても人気の品らしい。他にも、ここオプシディアンの特産の黒いガラスのような石でできた、ネックレスのようなものや、ペーパーナイフなんかも売っていた。よくある、露店のおばちゃんからの若干しつこいセールストークを申し訳なさと苦笑いの演技で切りぬけ、次に大きな水瓶から円形の容器に水を注ぎこむ女が描かれた看板にたどり着いた。ここは浴場兼宿泊施設のようだ。大理石でできた大きな入口にはグラディナルカーレと彫られていた。入口の奥ではカウンターがあって人が立ち並んでいる。旅の疲れがにじみ出るものや、はしゃぎ回る子供、自前の入浴セットを片手に浴場に併設されたスコール売り場にじっと目を凝らす者もいた。他にも、金と紫、黒の布で装飾されたまじないしの館の前を通り(苦笑いで切り抜けようとしたら、お前は今日勝負に負けると占い師に罵られた。僕がカジノをするってなぜわかる?)、ほかにもレンガ造りの建屋から、良質な肉と油の焼ける匂いが漂い、建屋の前にある肉の串焼きの立て看板のメニューにスコール片手にじっと見入ってしまった。いけない、これはいけない。マルコはそう思い始め、眼前に迫る十字路の交差を越えて、クロック・クウェーカーへと足を進めた。