推薦者
王立アイオライト魔術大学に在学するマルコは、医療術式の研究、とりわけ血に関するものの研究のため、プトレマイオスの元で助手として、務めることになっていた。
マルコは、東のはずれにあるアイオライトは大陸から運河を隔てた島のため、運河を横断しながら南下し、運河の交易の要であるパライバトル港へ、そして街道沿いに進み王立図書館のある都市アベンチュリンを越え、数々の十字路や宿屋町を経て、ここ4大中央都市の1つ、王都オプシディアンの城塞門に夕暮れ前にはたどり着くことができた。
ここに来るまでに、運河を渡るのに3日、港から都市、宿屋町を経由して1週間。延べ10日も馬を走らせ続けて来ていた。クリスタルでかたどられた淡い緑色の魔導馬のエネルギーは尽き欠けて、動きが鈍く、ぎこちない走り歩きをしていた。それはマルコも同じであった。マルコの訪れたオプシディアン城は、その名の通り、堅牢な石造りの土台、要所にちりばめられた黒曜石の装飾と、金のアクセントが目をひくアーチ型の天井の美しい城であった。だが、マルコにはどうでもよかった。魔導馬を預け、入城の手続きを済ませ、城内の来客用寝室に着くや否や、パンパンに膨れたバッグをベッドの脇に放り投げ、眠りこけてしまった。彼が目を覚ましたころにはあたりは暗くなっていたが、夜であっても窓の外、城壁の下に位置する繁華街の喧騒が衰えるどころか、むしろ増しているような印象を受けた。大学都市であったアイオライトでも一部の街では、夜でも人で賑わってはいたが、この国全体というような規模ではなかった。眠らぬ王都オプシディアン。好奇心を満たす発見があるに違いない。見たこともないもの。絶品の料理。新しい友人。新たな発見!考えたらきりがないのだ。プトレマイオスへの挨拶を一瞬考えた。会って話す気力は無いがせめて着いたことだけでも知らせなくては。長方形の水晶板のようなトルマリンと呼ばれる端末装置を取り出した。簡単な呪文を唱え、音声メッセージを送る。
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拝啓
オプシディアン/ソーサラー:プトレマイオス・オルフェーヴル殿
レイナード教授からの推薦で参りました、王立アイオライト魔術大学術式部のマルコ・キャラハンです。ご挨拶に伺いたいところですが、夜も更けているため、明日の朝挨拶させて頂きたい次第です。何卒ご容赦ください。良い夜を。
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マルコがここまで丁寧に連絡したのは、理由があった。これで今夜何をしても、今すぐ来いと言われなければ自由時間である。彼は夜の街に遊びに行きたかったのだ。
「さて、賭博場はどこだ?有り金全部、倍にして、豪遊といこうか。ヒヒヒ。」
彼は来客者に限り、この城には門限があるということを、忘れていた。