第一駐屯地(11)
やばいよ!
やばいよ!
かなりやばいよ! これ!
ジャック隊長、語尾がめっちゃ伸びちゃてるよぉ~
もう、モンガにいたっては、我かんせずの現実逃避。先ほどから、何をとちくるったのか口笛拭きながら、カバンの中から取り出したジャックのステージ衣装に着替えはじめております。
って、デブのお前には、その服は小さすぎ! 絶対にサイズ合わないから!
ビリビリビリ……
ギリギリギリ……
だが、腹の虫がおさまらないタカトは奥歯を強く噛みしめていた。
今までの人生の中でコレだけ大量のカマキガルの素材を目にしたことなどないのだ。
今さら簡単に引き下がるわけにはいかない。
しかも、大体こんなガンモみたいな奴に渡さにゃならんのだ!
いやいや、100歩ゆずって、これがアイナチャンにというのなら、「うん! どうじょう~♥」と快諾するのは間違いないのだが……大体、タダっていうのが納得イカン!
同情するなら金をくれ!
いや、最悪……
同乗するならMr○オクレ!
そうか、さっきから、あのガンモドキ野郎、何をやっているのかと思えば、Mr○オクレさんの真似をしていたのか! 「小さいなぁ~」って、小さいものに無理やり体を押し込むのは、エスパ○伊東さんや! イカン……俺……なんか……ごっちゃになっとるな……
すでに、頭に血がのぼって、何を考えているのかさっぱり分からないタカトであった。
そんなタカトをビン子があわてて制止した。
そして、すぐさま、ジャックの前で膝まづいたのだ。
「それは神民様であるジャック様です。私たち一般国民は神民様のご意思に従います……」
タカトたちを見ていると、この世界の身分制度は緩いと思うかもしれないが、実はその逆。
上位の身分の者は、下位の身分の者を自由にできるのだ。
だからと言って、無差別に大量虐殺やレイプなどできる訳ではない。
やはり、理不尽なことが続けば下々の我慢にも限界がおのずとやって来る。
そんな、一般国民たちが怒りに任せて蜂起し神民たちを虐殺すれば、騎士もまた無力になるのだ。
そう、この微妙なバランスの上に、この聖人世界は成り立っているのである。
かしこまるビン子の態度を見てジャックは嬉しそうに一息ついた。
「そうだろう。それが普通の反応だ。しかし、俺も鬼ではない。この鎌を持って行け。これだけでも十分だろ」
そういい終わったジャックは地面の上に転がっているカマキガルの鎌をつまみあげると、こうべを垂れるビン子の頭の上にピタリと置いた。
「ちょんまげ!」
よほどそのおやじギャグがツボにはまったのか、ものすごい変な顔をしながら爆笑し始めたではないか。
しかも、その横でその様子を見ていたモンガもプッと噴き出す始末。
「ジャック様、それだとまるでちょんまげじゃなくてウルトラ●ンですよ!」
「ウルトラ●ンってなんだよwww」
「アイスラッガーって知らないですか?」
「知らねぇよwww ここは聖人世界だぞwww」
それを見ていたタカトは拳を震わせていた。
自分がバカにされるのは耐えられる。だが、ビン子がバカにされるのは耐えられないのだ。
そんなどうしようもない怒りに震えるタカトの眼がジャックを睨み上げていた。
「なんだ小僧! その目は!」
当然に、ジャックはその目が妙にムカついた
魔装騎兵である自分にたてついているのである。
ココは第一の門内、アルダイン様の領域である。
そんな第一の魔装騎兵にたてつく命知らずなど普通に考えたらいないのだ。
歯向かえば即、死!
だからこそ、モンガは平身低頭ジャックの機嫌を取っているのである。
――それがどうだ……この小僧!
そんなジャックにタカトが声を絞り出す
「てめぇら……」
と、タカトが言いかけたその時である。
膝まづくビン子の背中が腕を伸ばしタカトを制止したのである。
その何も言わぬ腕は、まるで、黙っててと言わんばかり。
そう、このままタカトが言葉をつづけていたとしたら……おそらく間違いなく、この場で切り殺されていたであろう。
ビン子はそれを止めたのだ。
一瞬ひるんだタカトの動きが止まったことを感じ取ったビン子は、ジャック達を見上げてにっこりと微笑んだ。
そして……
「シュワッちぃ」
と、勢いよく頭のカマキガルの鎌に手を添えたのだ。
その一発芸に、ジャックとモンガは大爆笑!
「なんて醜い顔なんだよwwwお前、女だろwww」
「オマエハイッタイwwwナンダwwwハッハッハwwwプレデターか!」
そう、ビン子はめちゃくちゃしかめっ面をしながらウルトラマンセブンのアイスラッガーを投げるしぐさを懸命にしていたのだ。
だが、そんな変顔のビン子にも飽きたのかジャックは何かひらめいたようである。
「そういえば、お前らゴミを集めるって言ったよなwwww」
ジャックの口角がいやらしくゆがんでいる。
「いいか! ここは神聖なる第一騎士の門! そのフィールド内に汚い魔物の肉の一片も残っていたら、どうなるか分かるよな!」と、にやにやと笑う口がくぎを刺すのだ。
まあ確かに、死肉が残っていれば、大変なことになる。
というのも、虫の死体であったとしても、他の魔物にとってはごちそうなのだ。
そんな肉が少しでも残っていたら、夜な夜な魔物どもがその死肉を漁りに聖人フィールドの奥にまで侵入してくるのである。
「当然、一つでも残っていたらペナルティだからな~」
しかし、どうやらジャックの思惑は別の所にあるようだった。
――あの小僧のあの態度、マジで気に食わん!
そんな理由だけでペナルティを課すと言っているのである。
もう、ブラック企業の課長かと思うぐらいに最悪な奴である。
いや、ブラック企業の方がましである……だって、殺されることはないのだから。
そう、ジャックが狙うはタカトの首。斬首である。
だが、タカトは奴隷ではなく一般国民。駐屯地に関係ない一般国民を理由もなく斬首すれば、さすがにアルダインに呼び出しを食らいかねない。
――ならば理由を作ればいいだけよwww
で、モンガもモンガでジャックの思惑に気づいたようで、「ジャック様、女の方はいかがなさるつもりで?」
このモンガ、図体はずっぐりむっくりのくせに、空気を読むのは得意のようである。ジャックの狙いが少年にあると気づくと、残り物の少女に狙いをつけたのだ。
「もし、ジャック様がよろしければ、わたくしめにいただけないでしょうか? わたくしが経営する奴隷宿できっちりと芸を仕込んで見せますよwww」
「おっwwwアイスラッガーを進化させるってのかwww」
「はいwwwジャック様が来られるまでには『愛素股ぁー』に進化させておきますのでwww」
「俺があんな小汚い奴隷宿なんかに行くと思ってんのかよwwwまぁいいやwww女の方が好きにしろwww」
「じゃぁ~、よろしく~頼んだよぉ~」
ジャックとモンガはそう言い残すと、軽やかなステップで離れていった。
――さぁて、斬首は~ ゆっくりゴシゴシ? それとも一瞬でスパッと?
「ビン子……」
いまだ膝まづき頭の鎌に手を添え続けているビン子にタカトが歩み寄っていく。
「お前……シュワちゃんファンだったのか……」
「そんな訳ないでしょ!」
ビン子はうつむきながら声を震わせた。
うつむき顔を見せないように丸まるビン子の肩にタカトがそっと手を添えた。
「……さっきは……ありがとうな……ビン子……俺のために……」
「……うん」
タカトの握り締めた拳が押し殺した怒りのためか小刻みに震えていた。
――アイツら……絶対に許さねえからな!
目をゴシゴシと腕で拭くとビン子は気を取り直したかのようにスッと立ち上がるとタカトに耳打ちした。
「タカト! 集めるって言っても、どうするのよ! コレ! 絶対に無理だよ……」
涙は泣くともビン子の声はいまだに涙声。
いや、先ほどとは別の意味で泣きたいのだ。
というのも辺り一面に散らばるカマキガルの体。
近接戦型のヨークだけであれば、少々大きなビニールプールぐらいの範囲内に死体が集まっているのだが……やたらめったらに剣を振りまくって斬撃を飛ばしまくっていたジャックの場合、それはもう、小学校の運動場二つ分ぐらいの広範囲に肉片が飛び散っていたのである。
この広い範囲からどうやって集めろと言うのだろうか……
しかも、タカト一人、いや、ビン子を含めてたった二人だけで……
あのジャックのいやらしい笑み。おそらく、タカトたちはカマキガルの残骸を全て集めることができないと確信しているに違いなかった。
だが、タカトは高らかに笑う。
「心配するな! ビン子! 俺を誰だと思っている!」
「アホのタカト……」
10分後……
早々に、先ほど離れていったはずのジャックとモンガがスキップを踏みながら戻ってきたではないか。
これだけ広範囲に飛び散ったカマキガルの肉片を、あのガキどもだけで集めることは不可能なことは分かっていたのだ。
ならばどうせ、「許してください。ジャック様」と、泣きを入れてくるのは間違いないのである。
ならば、さっさと土下座でもさせて、お仕置きタイムとした方が楽しいじゃないか。
――ということで、お仕置きは、ギロチンぐらいにしておいてやるかぁ~。あっ!あの女にギロチンの縄を咥えさせるってのはどうだ?
そう、奴隷兵たちが全ての肉片を集めてくるまでの間、耐えさせる。
だが、当然に四方八方に散らばった肉片を集めるには相当な時間を要する。
耐え切れなくなりとんだ頭をみて、奴隷兵たちは再度、自分に対する忠誠を誓うことだろう。コレこそ一石二鳥!
――俺って、超頭いい!
もう、ジャックの顔は、その楽しさを隠しきれずにウキウキした笑顔をこぼしていたのだ。
だが、そんなジャックとモンガが……
スッテんコロリン!
足を滑らせてひっくり返ったのだ。




