いざ、門外へ!(3)
しばらくすると、ヨークは一人の男と共に宿舎から出てきた。
入り口前で男はヨークと別れると、そのまま第一の騎士の門を警護している守備兵たちのもとに赴き、なにやら話し始めた。
一方、ヨークは自分の馬を引きながら、タカトたちのもとに戻ってきた。
「さぁ、少年! 門外のフィールドに入るぞ!」
その掛け声とともに、自分の馬にまたがる。
馬が鼻を鳴らし、ひづめで地を打った。
両開きの騎士の門に守備兵が数人ずつ分かれて立つと、壁のような門を力強く押し開き始めた。
門の隙間から乾いた風が吹き抜け、空気が一変する。
辺りの気温がじわりと上がった。
それに呼応するように、守備兵たちの表情が引き締まり、武器を持つ手に力がこもる。
門の開閉を見守るヨークの瞳も鋭く光り、張り詰めた気配がその場を包んでいた。
重厚な門にもかかわらず、意外なほど静かに開いていく。
それはまるで、映画の幕が開いていくかのように──
門の枠内にだけ、こことは違う世界が写し出されていくようであった。
ゴーン
門が鈍い音を立てると、押し広げていた守備兵たちの動きが止まる。
第一の騎士の門が、完全に開ききったのだ。
突如として、一般街の中にぽっかりと大きな穴があいたかのように、
門の向こうには荒野と、澄みきった赤い空が、彼方まで続いていた。
門の向こうに広がっていたのは、第一の門外のフィールド。
タカトたちが暮らす融合国とはまったく異なる、荒野の世界だった。
草木もまばらで、荒れ果てた大地が広がっている。
門外には少し強めの風が吹いているのだろう。
見渡す限り平らな大地に、砂埃が舞い散る。
ところどころに枯れ果てた茂みがポツリポツリと点在し、
さらにその奥、赤茶けた空気の中に、石造りの建物がぼんやりと浮かんでいた。
赤い大地。どこまでも続く、火星のような風景――
それはまるで、希望も命も飲み込んでしまうような静寂だった。
それを見つめるタカトは思う。
――これが、門の外の世界……。
門前広場で馬を進めるヨークは、軽く手を上げて第一の門の守備兵たちに挨拶を交わした。
そして、意気揚々とタカトたちを引き連れ、門外の荒野のフィールドへと入っていった。
ヨークたちが目指すのは、門外フィールド内にある第一の駐屯地。
この騎士の門の外には、聖人国と魔人国との境界線が存在する。
そして、その境界線近くに設けられているのが、守備兵たちが守りを固める前線の駐屯地である。
つまり、そこは――聖人国と魔人国との争いの最前線。
ゆえに、毒消しや傷薬といった消耗品は常に不足しており、戦地の緊迫感が常に張りつめている場所なのだ。
ヨークは馬上から振り返り、タカトたちに声をかけた。
「門外はな、本物の戦場だ。魔物も普通に出るし、油断したら死ぬぞ。しっかり気を引き締めておけ」
「ええ~……そんな怖いこと言わないでよ……」
タカトは思わず弱音をこぼす。
だが、すぐに少しだけ希望を込めて尋ねた。
「でも……このあたりって、まだ聖人国のフィールドなんでしょ? だったら、そこまで危なくない……よね?」
そう、騎士の門外に広がるフィールドは、聖人国と魔人国、それぞれの勢力が支配する領域に二分されている。
その二つの領域が接する部分が、“境界”だ。
この境界は固定されたものではなく、日々揺れ動く。
聖人国側の騎士が従える神民の数と、魔人国の騎士が従える神民魔人の数。
――その戦力比によって、境界線はじわじわと押し引きされているのだ。
今、タカトたちが足を踏み入れた場所は、聖人国の騎士の門に近い位置にある。
当然、ここは聖人国側のフィールドだ。
聖人国のフィールド内では、神民は“神民スキル”を使うことができる。
たとえば、魔装騎兵が持つとされる「限界突破」や、騎士が使える絶対防壁「騎士の盾」などがそれだ。
だが、もし魔人国の神民魔人や魔人騎士がこの地に侵入してきたら……
ここは彼らの所属するフィールドではないため、彼らのスキル「魔獣回帰」や「騎士の盾」は発動しない。
つまり、自軍のフィールド外で戦うことはスキルを封じられた状態で戦うということ。
それは、あまりに不利で、危険な行為なのだ。
――だからこそ、タカトは願うように言ったのだ。
「ここは聖人国のフィールドだから、大丈夫だよね」と。
たとえそれが、希望的観測にすぎなかったとしても。
「大丈夫とは言い切れん」
馬を進めながら、ヨークは淡々と告げた。
「およそ三年前――魔人騎士ヨメル本人が、なぜか魔物を率いて聖人国のフィールド内に侵入し、輸送部隊を襲ったらしい」
「え……!?」
「そのとき輸送部隊は、甚大な被害を受けたそうだ」
ヨークの顔には、冗談めいた色は一切なかった。
「幸い、近くにエメラルダ様がいたおかげで、多くの神民は助かった。だが……」
空気が一瞬、重く沈んだ。
「……一般国民のほとんどは、命を落としたと聞いている」
顔を見合わせるタカトとビン子。
今さらながら、門外のフィールドに足を踏み入れたことを後悔し始めたようである。
……だから言っただろ、あれだけ権蔵が「門をくぐるな」って。
まったく、このバカチンが!
「いいか。神民でないお前たちが人魔症にでもかかったら、その場で殺処分になるからな。気をつけろよ」
「……せめて、人魔収容所とか……」
「バカか! ここは戦場だぞ! よほど暇でもない限り、いちいちそんなことに構ってられるか!」
タカトはビン子と顔を見合わせ、震えながら言った。
「きっと、大丈夫だって……ここは聖人国のフィールドなんだ。大丈夫……大丈夫だって……」
「だから、権蔵じいちゃんの言いつけを守らないから……」
すでに涙ぐんでいるビン子ちゃん。
その時、ヨークが前方を指差した。
「あれが駐屯地だ」
荒野の果てに見える四角い石造りの建物。
ビン子はほっとしたように目を細め、ぽつりとつぶやく。
「意外と小さいのね……」
「まだ、距離があるからな」




