鑑定の神はおばあちゃん?(6)
「なんだと!」
先を行くヨークが、驚いたように馬を止めた。
――って、警護してる俺の前で!? なめてんのか、コラ!
市中で堂々と、しかも神民兵である自分の目の前で積み荷を強奪するなど、思いもよらなかった。
勢いよく振り返ったヨークの瞳に、ベッツの姿が映る。
そして――先ほど以上に、みるみる怒りの炎が燃え上がった。。
――貴さまぁぁぁ! 神民兵の俺を誰だと思っていやがる!
その目には、怒りの超新星が爆誕していた。
「てめぇ! 今朝、メルアにちょっかい出したクソガキだな!? ぶち殺す!」
……あれ? なんか怒りの方向、そっち?
どうやらヨークの怒りの根っこは、筆者の予想とは微妙にズレていたらしい。
その言葉の意味が分からず、ベッツはキョトンとしていた。
というのも、朝の鶏蜘蛛騒動のとき──ヨークは虎の魔装装甲をまとっていたのである。
全身がゴツい装甲で覆われていたため、顔なんて一切見えていなかったのだ。
つまり、ベッツにとってヨークとは“初対面”。
それなのに、その初対面のはずの守備兵が、血走った目で怒鳴りながらこちらへ突っ込んでくるではないか。
――俺、何かした?
タカトを、いつも通りどつこうとしただけだぞ?
なんで、こんな流れで守備兵が出てくるんだよ!?
しかも、「ぶち殺す!」とか……もう完全に殺意マシマシである。
しかもその守備兵、どうやらただの兵じゃない──
よりによって「神民兵」ですよ! し・ん・み・ん・へ・い!
神民兵といえば戦闘のプロフェッショナルですよ! プロ!
肉体改造と武器のエキスパート!
近づいたら負け確定! ガチでやばい奴らです!
――こりゃあかん……!
というかタカトの奴、いつの間にこんなヤバい奴と知り合いになったんだよ!?
聞いてないぞ! そんなフラグ!
そんな怒りに燃えたヨークが、怒涛の勢いで荷馬車へ突っ込んでくるではないか。
先ほどまでニコニコと手を振っていた人物とは思えない剣幕だ。
「てめぇ! さっきはさっさと逃げやがって! 今度という今度は、絶対に逃がさねぇからな!」
……って、それ、ベッツが逃げたんじゃないからね?
ヨークさん、あなたが単に気を失ってただけ。
ピンクのオッサンにぶちのめされて、道端でノックダウンしてたんだから。
残念ッ!
もう、ベッツはもう生きた心地がしない。
「なんで神民兵がいるんだよ! くそ!」
タカトを突き飛ばすと、急いで荷台から飛び降りた。
そして、さっき来た横道へと脱兎のごとく逃げ込んだ。
――あの剣幕、マジで殺される! 俺、死ぬのだけは嫌だ!
そんな無様な逃走劇を見て、タカトは御者台の上に勢いよく立ち上がり、勝利のこぶしを突き上げた。
「わははははは! 俺はアフォ! A.F.O! この世の究極悪にしてエロエロ大王になる男やぁぁぁぁぁ!」
……って、君……何もしてないからね……
一方、怒りが収まらないヨークは、馬の手綱を強く引き、ベッツの後を追おうとしていた。
「このガキめ! 俺から逃げられるとでも思っているのか!」
そんな様子に慌てたビン子がヨークを制止する。
いまここでヨークがいなくなれば、第一の門のフィールドに護衛なしで入らなければならない。
そう、門の外は戦場――魔物がいつ飛び出してきてもおかしくない場所だ。
そんな危険地帯に、頼りないタカトと二人だけで向かうなんて……絶対に無理だ。
「ヨークさん! 今日は早上がりで、どこかへ行くんじゃなかったんですかァ?」
機転を利かせたビン子の声に、ヨークの体がピタリと止まった。
振り返ったヨークの顔は、すでにだらしなくデレている。
「そうだったぁ~ 今日は早上がり! メルアとずっと一緒だもんね!」
もう、ベッツのことなど頭には無いようだった。
パシャ! パシャ! パシャ!
ベッツが逃げ込んだ横道から、チェキのシャッター音が連続して響く。
路地の横にある屋根の上から、イサクが次々と写真を撮っているのだ。
一方、通りの奥へ逃げていくベッツの背後で、七色のウェーブヘアを揺らす一人の少女が、わざとらしく大げさに倒れ込んだ。
「あ~れぇ~」
その演技は……見ている者の顔が赤くなるほどのヘタさ。
ほっそりとした美貌からは想像できない、まさに桜島大根役者級の大根っぷりである。
たとえるなら、人気アイドルがドラマの台本を棒読みしているような光景だ。
だが、彼女の熱狂的なファンにとっては、この光景は生唾ものかもしれない。
倒れた衝撃で、大きな胸の肉が衣装の間からぼたもちのように押し出されていたのだから。
胸の大きさは確実に桜島大根を超えている。圧倒的な巨乳である!
そんな少女の目には、演技とは思えないいやらしい笑みが浮かんでいたのだった。
ちょっと話が先へズレるが……作者が忘れないうちに書いておこう……
この日の夕方、ある夕刊が聖人世界を震撼させた。
そして、その夕刊のおかげで……ベッツ君は……
顔だけでなく全身を着ぐるみで隠さないと外を歩けなくなってしまったのだ。
――なんで俺が……こんな格好を……しなければいけないんだよ……
その姿はまさにロールキャベツの着ぐるみそのもの。
まるで誰かの視線から身を隠しているかのようだ。
もしかしてヨークから逃げているのか?
いやいや、ヨークなどまだマシな方だ。
一発殴られればアゴは砕けて血まみれになるだろうが、命までは取られはしない。
そう、今ベッツが本当に恐れているのはそんな生ぬるい存在ではなかった……
そうなのだ……今、ベッツが恐れているのは、そんな生易しい存在ではなかった……
いつの間にか、彼は聖人世界のほぼすべての人間を敵に回していたのだ!
え? 意味が分からない?
夕刊の一面には、宿場町で起きた鶏蜘蛛や人魔の騒動ではなく、まったく別の事件が大きく載っていた。
その見出しは……
『アイナ襲撃される!』




