鑑定の神はおばあちゃん?(5)
そんな様子を、少し離れた物陰から見ている二人組がいた。
可憐な少女と、紙袋をかぶった裸エプロンの男――そう、真音子とイサクである。
どうやら、第六の門からずっとタカトたちをつけてきたようだ。
「あのクソ野郎! またタカト様に暴力を振るう気か! いてこますぞ、コラ!」
咄嗟に飛び出そうとする真音子の肩を、イサクのごつい手が必死に抑えつける。
「お嬢! ダメですって! あの兄ちゃん、トップアイドルになってから顔を合わすんでしょ!」
……タカトがトップアイドル? 無い無い無い!
(いったいどの時間軸の話をしているんだよ、これwww)
「やかましい! イサク! 手を放さんかい、ボケ!」
「大体、あっちのモヒカンだって、あのアルダインの神民ですぜ!」
その言葉に、真音子の動きがピタリと止まった。
さすがにここでアルダインの神民に顔を見られるのはマズい。
下手に動けば、父・勤造がアルダインの身辺を調査していることに影響しかねないのだ。
「うぅぅ……でも、このままじゃ、またタカト様があいつにボコボコにされちゃいます……」
急にしおらしくなった真音子は、両手で顔を覆いながらオイオイと泣き出した。
本当にコロコロと感情が変わる、忙しい女である。
「はぁ……あの兄ちゃん、いつも殴られてますからね。きっと大丈夫なんじゃないですか。
しかも今日は、あのモヒカン一人だけですし、意外とたいしたことないかもしれませんぜ」
そう、ベッツの取り巻きたちは、今朝の鶏蜘蛛騒動で全員が殺されるか、人魔収容所に連行されるかのどちらかだった。
しかし、ベッツにとって一般国民の仲間など、いつでも補充が利く程度のものなので、特に気にしていなかった。
だが、先ほどまでモンガに叱られていたせいで、新たな仲間を集める時間もなく、当然のように一人でこの街をさまよい歩いていたのだ。
――一人!
泣いていた真音子の声がピタリと止まった。
――チャンスや!
いつもは取り巻きに囲まれ、常に誰かの目が光っていた。
そんなモヒカンに姿を見せられず、簡単には近づけなかった真音子。
だが、奴は今、一人だ。
顔を上げた真音子の目が、いやらしい笑みを浮かべていた。
――私のタカト様に対する無礼! きっちり落とし前つけてもらうよ!
「イサク! 私の着替えとチェキを用意しな!」
「着替え?」
「あぁ! ステージ衣装だよ!」
「あっ! はい! 分かりやした! お嬢! 直ちに!」
イサクは頭にかぶった紙袋の中から、次々と何かを取り出し始めた。
おいおい、なんでそんなところに衣装やチェキが入ってるんだよ?
……紙袋の中はまるでドラえもんの四次元ポケットかよ!
物陰で何か企んでいる二人のことなど、荷馬車の上のビン子はまったく知らずに、身を乗り出してベッツを制止しようとしていた。
「ベッツ! やめなよ!」
ベッツの動きが一瞬止まる。
「ビン子、こんな奴と一緒にいて楽しいのか? 俺と来いよ!」
「いやよ! なんであんたなんかと!」
――チッ! そんなにタカトがいいのかよ!
ベッツは舌打ちをした。
ついに荷台に登ったベッツの手が、タカトの襟首をつかみ上げる。
――こんな奴のどこがいいんだ! 俺の方が何倍もましだ!
力任せにシャツをつかまれ、タカトの首はグイグイと絞めあげられる。
どぎまぎしていたタカトの目が、くるくると泳ぎはじめていた。
だが、その時──タカトの目に、何かよく分からない“やる気の炎”がふつふつと湧き上がった。
「うぉぉぉぉっお!」
俺はここで負けるわけにはいかんのだ!
今日の俺は、いつもの俺じゃない!
そう、アイナちゃんのくい込み写真集が俺の帰りを待っているんだ!
ベッツごときに、俺の硬いイチモツ──違った、固い志は砕かせん!
俺は退かぬ! 媚びぬ! 省みぬ!
覚悟しろ、ベッツ!
ということで、タカトが大きく腕を振り上げた!
その姿はまさに! 聖帝サウザー!
しかも!
南斗!
そこからの……
「ヨークのに――――ちゃ――――ん! 積荷強盗だ!」
目の前を行くヨークに向かって、大声で助けを求めたのだ。
……え? まさかの人任せ?
その姿は──
聖帝サウザー……じゃなくて……
最低クソウザー。
堂々と叫ぶその姿は、民衆を恐怖で支配するどころか、恥も外聞もかなぐり捨てて、ヨークに全力依存する“チキンオブチキン”。
……さっきの名乗りは何だったんだ、お前。
――アホか! 俺がベッツに勝てるわけないだろうが! 頭を使え! 頭を!
まさに虎の威を借る狐。いや、神民兵の威を借るタカトである。
――上等じゃい!




