鑑定の神はおばあちゃん?(1)
第一の門へ向かうタカトたち。
荷馬車は、城壁から少し離れた、小汚い一般街をガタゴトと進んでいた。
「ヨークの兄ちゃん、なんでこんな遠回りすんだよ!」
不満げにタカトが声をかける。軍馬の上を鼻歌まじりで先導するヨークに向かって。
融合国の街並みは、中央の神民街を核にして構成されていた。
神民街をぐるりと取り囲む城壁が、その外側に広がる一般街との境界線。
城壁には八つの出入り口があり、それぞれに“騎士の門”が設けられている。まるで時計の文字盤のように。
タカトたちが出てきたのは、第六の門。向かうのは反対側の第一の門。
時計にたとえるなら、7時から12時への移動にあたる。
本来なら、最短距離は神民街を突き抜けるルートだが──
当然、通行手形のない一般国民のタカトとビン子に、それは許されない。
ただし、エメラルダ神民であるヨークが引率すれば可能なはずだ。
なのに、彼はそれをせず、なぜか街の外れの遠回りルートを進んでいた。
一般街は中心の神民街から外れるほどにガラが悪くなる。
無論、その町並みも離れるに従いどんどんと怪しくなっていく。
いまタカトたちが進む道は、石畳がほとんどはげ落ちたボロボロの道。
周りの家々も壁が崩れていたり、屋根がはがれていたりとさんざんなのである。
そのため、普通の神民は一般街の外れなど嫌悪して近づかない。
いや、すでに人の住むところとして認識すらしていないのだ。
だが、ヨークは違った。
ヨークは鼻歌交じりに馬を走らせながら、行き交う人々に手を振る。
貧乏そうに鼻水を垂らす子供たちも、気さくに話しかけてくる。
「兄ちゃん! 今日もメルアのところか!」
馬を止め、ヨークは照れくさそうに頭を掻いた。
「ああ、今日はメッチャ楽な仕事だから、早く終わるかもな!」
「兄ちゃんも好きだな!」
「あたぼうよ!」
「よっ! このエロ兄貴!」
顔を真っ赤にしてヨークが大声で叫ぶ。
「バカか! 好きなのはメルアだ、メルア!」
子供たちは腰を前後に揺らしながらからかい、
「兄ちゃんが好きなのはメルアのケツだろwwwケーツwww」
「こらぁ! ガキども! そういうのは大人になってから言え!」
馬上で拳を振り上げるヨークに、子供たちは笑いながら走り去った。
「やべぇwwwエロエロ大王が怒ったぁwww逃げろおwww」
どうやら、ヨークはこの小汚い街に、よほど顔なじみが多いのだろう。
というか、ココにもいたよエロエロ大王!
ふと、荷馬車の少し前を歩く、親子とおぼしき犬たちの姿。
母犬と思われる大きな犬は、片足を引きずるように歩いていた。
どうやら、昔に折れた足が治らないままくっついてしまったらしい。
痩せ細った体に浮き出た肋骨。何日も食べていないのだろう。
それでも、小さな子犬は元気そうに母犬の周りを跳ね回る。
その元気さが、かえって空々しいほどに──
やがて母犬が立ち止まると、子犬が心配そうに見上げる。
母犬は鼻先で子犬をペロリと舐めると、また、ぎこちなく歩き出した。
その時、犬たちの歩く道と垂直に交わる細い路地から、少年のぼやき声が聞こえた。
「なんで俺が怒られなきゃなんねーんだよ……」
ポケットに手を突っ込み、うつむいたまま歩いてくる。視線は定まらない。
「あの半魔女がギャーギャー騒いだから、鶏蜘蛛とか人魔が来たんだろ……」
──その声と姿は、あのベッツ。
その姿は、今朝ゴミ箱をかぶって逃げ回っていたベッツ。
父親のモンガに救出され、こってり絞られた後、ようやく解放されたばかりだった。




