緑髪の公女(12)
――アルテラ……
そして、静かに瞳を閉じると、意を決するかのように大きく息を吐き出した。
そんなネルのわずかな動きを見逃すわけがないアルダイン。
「お前は何だぁぁァァ! 言ってみろぉぉ!」
「私めはネル! アルダイン様の忠実なしもべでありますぅぅ!」
「違うだろうが! 貴様はただの豚だ! 豚は豚らしくワシの足でも舐めていろぉぉぉ!」
「御意!」
返事をしたネルは、顔を引きつらせたままアルダインの前に走り寄り、吐き気をこらえるように足元に膝まづいた。。
「場所が違う! この豚!」
そういうと、アルダインはネルの髪を強引につかみ取ると、むりやり自分の下腹部へと押し付けたのだ。
(挿絵:ちょっとアダルトすぎるのでXのチャレンジ垢に掲載しています。探すときには前段の文章で検索してください。)
おえっ!
とっさに嘔吐反射をおこすネルの喉。
すぐさま離れようともがくネルの頭を、アルダインがうれしそうな表情を浮かべながらぐりぐりと押し付ける。
しばらく後、再びアルダインによって掴み上げられたネルの顔には涙が浮かび、鼻水とよだれでビチョビチョになっていた。
ゲホっ……ゲホっ……ハァ……ハァ……ハァ……
「さぁ! 豚! お前はどうしたいんだwww」
「この豚に……ご主人様の……ご奉仕をさせてください……」
(挿絵:ちょっとアダルトすぎるのでXのチャレンジ垢に掲載しています。)
人気のない静かな謁見の間に涙と鼻水をすするかのような音が上下しはじめた。
――アルテラ……アルテラ……
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「おっと! 出るのか! 危ない危ない!」
スグルの声が、教室から廊下に飛び出したアルテラの体をひょいとかわした。
どうやら、うつむきながら荷物を抱えた彼女は、前方の状況などまるで見えていなかったらしい。だが、ぶつかりそうになったにもかかわらず、アルテラは立ち止まりもせず、そのままスグルに背を向けて歩き続ける。
「おーい! アルテラ! もう帰るのか!」
無駄に明るい声が、そんな彼女の背中を呼び止めた。
……その瞬間、アルテラの足が止まった。ゆっくりと振り返ると、冷めきった目でスグルを睨む。
「先生……そのタンクトップ、ダサいです」
ぼそりと呟き、タンクトップの胸元を指さす。
スグルは相変わらずの笑顔。
アルテラにとって彼は――誰よりもイカれてるくせに、緑女を差別しない“変な大人”。
人と距離を置いてきた彼女にとって、唯一の“例外”だった。
だからこそ――彼女なりの、精一杯の「反応」だったのかもしれない。
スグルは考える。無視ではなく、拒絶の言葉。これはつまり、ほんの少し心が開かれた証なのでは!?
──進歩したじゃないか!!
となればここで一押し! 俺の本気、見せてやろうじゃないか!
「やっぱり『尻魂』じゃ硬かったか〜!」
スグルはドヤ顔でタンクトップの文字を引っ張って見せる。
「いや、そうじゃなくて……」
アルテラはうんざりしたように顔を背けた。
──ヤバい! 今の目線、完全に冷笑だった!
ならば……奥の手!
スグルは腰に手を当て、突き出した尻を小刻みにフリフリしながら叫んだ。
「お尻ラブラブー! ラブビームっ!」
ぷっ……!
肩がピクリと震える。……吹き出すのを、必死でこらえたのだろう。
「……もういいです」
その一言を残して、彼女は踵を返し、スタスタと廊下の先へと歩いていった。
…………
……
ぽつん。
その場に取り残されたスグル先生の心に、冷たい風が吹く。
──渾身のギャグだったのに……
っていうか、女の子が眼前で尻を振って喜ぶと思ってたのか? その発想、小学一年生の男子以下である。
「先生、盛大にスベっていたようですが……大丈夫ですか?」
哀れに思ったのか、教室の中からコウスケが声をかけてきた。
「い……イテェぇぇっ!」
スグルは突然、目を押さえて悶絶。
「目にゴミがっ……ちょっとトイレ行って目洗ってくるわ!」
そのまま廊下を駆けていった。……おそらく、逃げたな。
スベった上に、優しい生徒に慰められるという屈辱プレイ。スグル先生……ブロークンハート!
向かった先は、誰もいないトイレの洗面台。
バシャバシャと顔を洗い、ため息ひとつ。
「ふぅぅぅぅ……」
ふと顔を上げると、鏡に映るのは――緑色の目。
そう、それはスグル自身の目だった。
「おっと、いけねぇ! 眼色改変コンタクト外したままだった!」
慌ててカラコンを装着し直す。
緑だった瞳が、黒へと切り替わる。……まるで、あのビン子と同じ“人間の色”。
「……よし、これでOK! クロト様との約束、忘れちゃいかんからな!」
安心したのか、スグルは背伸びをしながら呟く。
「さぁて、風呂でも行くかぁ〜」
ケツをボリボリ掻きながら歩き出す。
「そういえば、最近ケツの周り洗ってねぇな……今日は、念入りにノミ取りシャンプーでゴシゴシと洗ってもらうとするか! あれって、超・気持ちいいだよなぁ!」
嬉しそうな顔で妄想にふけるスグル。
「ついでに……オットセイも食っちまうか! 最近ご無沙汰だったし。女、食いたいよな~」
ヨダレを垂らすスグルの顔。
──あれ? なんか忘れてる気がする……
まぁ、いいか!
そんな様子で、スグルは完全に忘れていた。
そう、廊下で自分を待ち続けている、あの少年のことを。
「夕方まで銭湯にでも一緒に行くか?」
授業後、スグルはそう言ってウインクしてきた。
……その目は、なぜかキラキラしていた。
……のに。
「……先生、ニューヨーク行くんじゃなかったの?」
廊下にひとり取り残されたコウスケが、寂しげに呟いた。
「せっかく……童貞卒業できると思ったのに……」
って、お前、その“ホテル・ニューヨーク”のこと、知ってたんかい!!
もう、コウスケ君たら……ほんっと、オマセなんだから!!




