いってきま~す(7)
タカトは気づくと、冷たい金属の台の上に寝かされていた。
四肢は太いベルトのようなもので固定され、身動きひとつ取れない。
部屋は暗い。鉄と薬品の匂いが鼻をつく。
ぼやけた視界の向こうから──白衣とナース帽をかぶった幼い少女が、無表情でこちらを見下ろしていた。
「……こ、ここは……どこだ……!」
タカトがうめくように声を発した、その瞬間だった。
低く、反響する声が部屋中に響き渡る。
「フハハハハ……目覚めたか、天塚タカト!」
「誰だ!? ここは……!」
「ようこそ、我が秘密結社ツョッカーのアジトへ!」
「ツョッカーだと……!? ふざけるな、俺はそんなものに……」
「おそいのだ天塚タカト! 君が意識を失っている間、我がツョッカーは、その16才とは思えぬ小さなウィンナーに改造手術を施した。そう、今や君はアダム因子を覚醒せし改造人間となったのだ!」
「改造人間⁉ そんなもの信じるものか!」
だが、その体にはすでに異変が起きていた。
心臓の鼓動は高鳴り、股間が熱を帯びる。
──体の奥で、何かが目覚めようとしていた。
そこで──はっと目が覚めた。
タカトは、馬車の下で逆さまに転がっていた。
しかも、フルちんで。
身体は痛い。頭も重い。何より、風通しが良すぎる。
そんなタカトの隣で、あの腰の曲がったおばあちゃんが何かをしていた。
……両手を、丁寧に、何度もこすり合わせている。
「ありがたや……ありがたや……」
目線の先にあるのは──むき出しのタカトのウィンナーである。
もしかして、おばあちゃん……若き日の記憶がフラッシュバックしてる?
いや、違う。これはどう見ても──
神を拝むような眼差しだった。
――何だこれ?
状況がまるで分からない。
タカトの頭は、まだぼんやりしていた。
御者台の上で、ホーリーウォーターをぶっ放そうとした……そこまでは覚えている。
だが、その先の記憶がぽっかりと抜けていた。
──まさか……漏らすまいと、ギュッと力を入れすぎたせい?
思い返せば、いや〜な夢を見ていた気もする。
どこかの地下室で、改造手術をされているような……やたら小馬鹿にされた記憶もある。
まぁ、内容のほとんどはムフフな青年漫画にありがちな、フィクションみたいなものだ。
ただ──
「アダム」
その言葉だけは、なぜか脳裏にこびりついて離れなかった。
そんなタカトは、すぐさまズボンを上げた。
「あぁ……神様がお隠れになられた……この世は終わる! 終わってしまう……世紀末じゃぁ! エウア様お助けをぉ! ヒャァハァァァァァァ!」
おばあちゃんが突如、半狂乱で土手の道を駆け出していく。
その頭上では、三羽の黒いカラスが不気味にカァカァと旋回していた。
呆然と見送るタカト。
その背筋を、悪寒ともザワザワともつかない気味の悪さが這い上がってくる。
――うぅ……おしっこ漏れそう……
タカトは咄嗟に、土手下に向かって仁王立ち!
ジョボジョボジョボ……
空に向かって放たれる、輝けるホーリーウォーター!
その瞬間、魂が天に召されていくような恍惚感が彼を包んだ。
――き……きもちぃぃ!
だが、確か土手の下には──
幼女たちがいたような……いなかったような……
……まぁ、いいや!
このままでは、なんだかホラー小説になってしまいそうだ!
そう、これはギャグ小説! コメディなのだ!
えっ? バトル物のハイファンタジーだろって?
まぁ、そうとも言う!
オホン! 一つ咳払い。
ホーリーウォーターを打ち尽くしたタカトは、ゴキブリのようにそそくさと御者台へ戻っていった。
……って、コイツ……手を洗ってないよね……
タカトは肩越しに親指で荷台を指しながら、コウスケを睨みつけた。
「大体いま、配送の途中だぞ。見りゃ分かるだろ。なら──お前が代わりに運んでくれるのかよ」
作者のやつ、無理やり話を戻しやがったwww
「ビン子さんのためなら、いくらでも運んでやるぞ!」
そう言って、ずぶ濡れだったコスチュームから制服に着替え終えたコウスケが胸を張る。
タカトはてっきり、「お前の言うことなんか聞くか!」などと怒鳴り返されると思っていた。だから、真顔の返答に一瞬ぽかん。
けれど、御者台の上で顔を見合わせたタカトとビン子は──
ニヤァッ……と、まるで示し合わせたかのように笑みを浮かべた。
「ラッキー! じゃぁ、お願いしやーす」
「コウスケ! ありがとう♥」
この二人、よほど配達が面倒だったのだろう。
なにしろ今日の荷は、防具やら盾やら重いもんばっか。
当然、これから先の荷下ろしはタカトたちの仕事である。
積み込みの時と異なり権蔵の手助けなんて、ナッシング!
──やりたくねぇ……タカトはそう全身で叫んでいた。
──どうせ逃げる気なんでしょ? ビン子は最初からそう睨んでいた。
思いは違えど、願いは一つ。
自分だけは逃げたい……!
というわけで、コウスケの気が変わらぬうちに、二人はそそくさと荷物をまとめ始めた。




