黒の魔装騎兵と赤の魔装騎兵(12)
ピンクのオッサンと静かに見つめ合うセレスティーノは、完全にフリーズしていた。
頭脳明晰(※自称)であるがゆえに、このカオスを打開する最適解が導き出せないのである。
――なんなんだ、この状況……!
女の子に囲まれながら、ピンクのオッサンと目を合わせ続ける騎士……
しかも、そのオッサン、頬に紅まで差してうっすら微笑んどる。
なにこの「トキメキ☆地獄絵図」!!
セレスティーノの脳内には、さっきから同じ思考がぐるぐるループしていた。
なぐる?
なぐらない?
なぐる!
なぐらない!
なめる?
舐めるかあああああ!!(怒)
そんな目をぐるぐると回しながらフリーズしているセレスティーノの表情を、守備兵たちがぞろぞろと近づいてきては――のぞき込んでいた。
プププwww
いつもは鼻につくほどキメ顔全開で、鏡があれば自分に投げキッスすらしかねないあのセレスティーノの笑顔が……
ぴくぴくと引きつって、まるで“すっぱい梅干し食べた後”みたいになっていた。
これは珍しい。いや、貴重すぎる。
守備兵たちはもはや人魔なんて二の次、三の次、完全スルー。
セレスティーノの情けない顔を見ては、
「うわっ、眉間にシワ寄っとるww」
「今! 今、瞬き忘れてたぞアイツ!」
「クッソ……誰か! 誰かこの顔、スケッチしてくれ!!」
と、小学生の遠足テンションでゲラゲラと笑い転げていた。
というかね、たとえイケメンぶってて、ナルシスト全開で、歩くだけで自分にスポットライト当たってると思ってるような男だったとしても――
目の前で絶賛フリーズ中の人間を、足蹴にするように笑うのってどうなのよ!?
もしここにキリストがいたら、きっとこう言ったはずである。
キリスト:「なぜ、あなたたちはこの者をあざ笑うのですか?」
守備兵たち:「この男、自称“イケメンアイドル”などと名乗り、女たちと手をつなぎ、ナンパし、時に口説き、調子に乗るのです!」
キリスト:「この者もまた人間……あなたたちの中で、これまで一度も女と手もつながなかった清らかなる者だけが、笑いなさい」
というわけで、その場にいた守備兵全員がそろって盛大にセレスティーノを笑っていたのである。
何その正直者選手権……!
全員、すがすがしいほどの恋愛敗北者なのか!?
「おいおいおい! あの騎士様、マジで面白いことになっとるぞ!」
「腹いてぇ、マジおもろすぎんだろ!」
「超! 気持ちいいんですけどぉ~www」
「ブッサ! 最高ぉぉぉぉ!」
……いやいや、最高って何?
というか、お前ら守備兵だよな!?
この状況でよくそんなにゲラゲラ笑っていられるな!
だって、覚えてるか?
さっき誰か言ってたよな――「人魔は人魔を呼ぶ」って!
つまり放っときゃゾンビ無限増殖モード突入ってことだろ?
……で、案の定。
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ハイ出た――!!
抑えが外れた人魔たちが、すぐさま住民たちに牙をむいた!
「ぎゃあああああああ!」
「やめてぇぇぇぇ!」
「たすけてええええええええ!」
絶叫、逃走、惨劇!
人々は悲鳴を上げながら四方八方へと逃げ散る。
それを追いかけるのは、まるで犬が餌に群がるかのようなモンスターども!
街の通りはたちまち血まみれ、
そこらじゅうに転がる千切れた腕、破れた服、あと生ゴミ。
いや誰だよゴミ出したの、収集日じゃねぇぞ。
いや誰だよゴミ出したの、収集日じゃねぇぞ。
……と思ったら、ゴミ箱がカタカタと震えていた。
まるで中に子犬でも入っているかのように。
「パパァ……タスけてぇぇぇ……!」
中から漏れる泣き声。
そう、これは……ベッツである。
中で体育座りをしながら、しっかりとゴミ箱を頭からすっぽりとかぶって、全身を縮こまらせていた。
膝のあたりはすでに濡れていて、独特のアンモニア臭がツンと鼻を刺す。
そう、ベッツは恐怖のあまりおしっこをちびっていたのだ。
――見つかるな……見つかったら死ぬ……。
外では悲鳴、咆哮、破壊音が響き渡っている。
けれど、ゴミと尿と希望にまみれたこの小さな密室だけは、彼にとっての最後の聖域だった。
というのも、鶏蜘蛛を前にセレスティーノが魔装騎兵に変身しようとしていたその時――
ベッツはというと、なぜかどこぞのピンクオッサンのミニスカートの中に頭を突っ込んで身を隠していたのだった。
――ここにパパが来るまで……ボクは……動かない……!
ベッツは本気でそう思っていた。
が、問題なのはその目立つとんがり頭である。どう見てもスカートの中から突き出していて、完全に丸見えだった。
当然、スカートはめくられた。
「てめぇか! メルアに暴力を振るおうとしたガキはぁああッ!」
ギャアアアア!
目の前には、トラの魔装装甲をまとった戦士――そう、魔装騎兵ヨークが立っていた。
「ひぃぃぃ!」
ベッツは声を裏返し、尻もちをついてズリズリと後ずさる。
しかし、ヨークはガシガシと間を詰め、ベッツを見下ろしながら鬼の形相で叫んだ。
「てめぇ! 100回殺す! 覚悟しとけやぁああああ!」
拳を高く振り上げ、狙いはベッツのとんがり頭。
その拳に迷いはない。手加減ゼロ。全力フルスイングである。
――マジで殺す気ィィィィ⁉
そう、ヨークは自称「セレスティーノより強い」男。
そんなヨークが、メルアを傷つけられた怒りに燃えていた。
ベッツはもうダメかもしれない――。
ばきぃっ!
だが――なぜか吹き飛んだのはヨークの方だった。
「なにずんのよ! この変態野郎ォォ!」
スカートをまくられたピンクのオッサンが、金切り声と共に、ヨークに渾身のビンタをかましたのだ。。
「いくらあなたがワダジを求めても……もうワタジの心は……ゼレズディーノさまのモノなのよっ!」
だが、その熱く燃える乙女心は――地面に転がって白目をむいているヨークには、まったく届いていなかった。
どうやら、不意打ちのビンタで軽く気を失っているらしい。
騎士団きっての肉体派、あっさりKOである。
「ヨーク! ヨーク! 大丈夫!?」
駆け寄ったメルアが、地面に転がるヨークの体を必死に揺さぶる。
「ああ……メルアか……一瞬、天使が迎えに来たのかと思ったよ……」
何とかノロケを言う余裕はあるものの、ヨークの頭はぐらんぐらんに揺れていた。
魔装装甲がなければ、本気であの一撃で逝っていた――。
――恐るべし……ピンクのオッサン……
「もうっ! ヨークったら! アタイが天使なわけないでしょ!」
バシンッ!
照れ隠しの平手打ちが、ヨークのトラの仮面を真芯でとらえた。
「わりとマジで……仮面割れたかも……」
意識が再び、遠のいていく。
……最後に聞いたのは、あのナルシスト騎士の楽しげな声だった。
「お待たせ~♪」
現時刻をもって、ヨーク鶏蜘蛛戦線から完全脱落……
※復帰の目処、未定です。




