タカトの心(6)
先ほどから、タカトと権蔵は道具談議にすっかり夢中になっていた。
ビン子を含めた常識的な人間には、正直、何を言っているのかさっぱり分からない。
その内容たるや、鉄道オタクが改札パンチで切り抜いた切符の切れ端を並べながら、
「これは○○駅の“鋏こん”だな」などと、得意げに語り合っているようなもの。
もう、頼まれたって、そんな世界に踏み込みたいとは思わない!
だが、いいかげん頭に来たのだろう。
ビン子は肩を怒らせながら、ズカズカと二人の間に割って入った。
「ちょっと! 二人とも、ちゃんと仕事してよ!」
「なんで私ばっかり荷物運ばなきゃいけないのよ!」
腰に手を当てて、明らかに怒り心頭といった様子だ。
無理もない。防具や大型の武具こそ権蔵がいくらか運んでいたが、
ほとんどの荷物は、ビン子一人でせっせと運んできたのだから。
「すまん、すまん」
笑いながら、権蔵は慌てて立ち上がり、足でタバコの火を踏み消した。
間髪入れず、ビン子の指がズバッと権蔵の足元を差す。
「そこ! 吸い殻は灰皿に!」
「ハイィィィ!」
背筋をピンと伸ばした権蔵、顔が一瞬だけ真面目に引き締まったかと思うと、すぐさま地面の吸い殻を拾い上げ、バツの悪そうな顔で店の中へと駆け込んでいった。
だが、タカトはまだ袋を覗きこんだままだった。
そして、ふとした調子でビン子に問いかける。
「たしか……お前って、神だろ?」
金色に輝くビン子の瞳を見れば、それは疑いようのない事実だった。
「なぁ、お前って、命の石とか……食わないのか?」
神もまた、生きるためには“生気”を必要とする存在だった。
しかしその生気は、自ら生み出すことができない――外の世界から、他の命ある者たちから、少しずつ分け与えてもらうしかないのだ。
けれど、いつかそれすらも尽きる時が来る。
そんな時、命の石が神の命をつなぐ希望となる。
そう……神だけが、命の石から直接、生気を吸収することができるのだ。
しかし、怒りの静まらないビン子は、腕を組み、足をトントンと鳴らしている。
「何でそんな硬いもの食べなきゃいけないのよ!」
タカトはようやく顔を上げると、袋の口をしっかりと閉じ、荷馬車の奥へと大切そうにしまった。
そして小さく息を吐いて、真顔で言った。
「……だって神って、生気が切れると『荒神』になるっていうじゃん」
『荒神』とは……生気切れを起こした神のことである。
死を目前にした神は、理性を失い、暴走しはじめる。
そして最期には、世界を滅ぼしかねないほどの大爆発を起こして、消滅するのだ。
……なにそれ。
超! 危ないんですけど!?
とはいえ、人間たちもそんな厄介な神々と、もう何世紀もつき合っている。
当然、荒神化への対処法というのも、いくつか心得ているわけで……
たとえば、荒ぶる気を先に削ぎ落すとか……
爆発しても大丈夫なように狭い洞窟……そう、『小門』なんかに閉じ込めておくとかwwwwもう、そうなると、何人爆発しても大丈夫!って、小門はイ○バ物置か!
ビン子は、タカトが荷馬車から降りてくるのを見届けると、くるりと背を向けて仕事に戻ろうとした。
「ご心配なく。ちゃんとご飯は食べてます」
そんな言葉にタカトはにやりと笑いながら、両手の人差し指でビン子の体の輪郭を測るような仕草をする。
「だよなー。最近、ちょっと太ったもんなwwww」
ビシッ!
次の瞬間、ハリセンを手に走り込んできたビン子の一撃が、バドミントンのスマッシュさながらタカトの額に炸裂した。
「ただの発育途中です!」
だが、すでに目から時速400キロ超の星が打ち出されていたタカト君には、全く聞こえていない様子だった。




