謙遜
注意事項1
起承転結はありません。
短編詐欺に思われたら申し訳御座いません。
少し無茶なお題を出したつもりだった。少しばかり苦戦して、満身創痍で帰って来るかと思っていた。けれども彼女は頬に一つだけ擦り傷を付けて帰って来た。
此処に来た時と同じ黒いスーツを着て、長髪を一つ結びにして、背筋を伸ばしたまま報告を上る。そこに迷いは無かった。あるのは淡々と業務を熟す仕事人の姿があった。
私はそれを見て、僅かに微笑んで拍手をした。椅子から立ち上がって彼女の前に立つ。
「凄いじゃないか。予想以上の成果だ」
心から出た賞賛の言葉。しかしその途端、無機質な双眸が僅かに揺れた。年相応の少女の弱さが垣間見えて、自信の無さが浮き彫りになる。持っていた紙の束を胸に抱き込んで、僅かに猫背になる。先程までの凛々しい姿はとうに消え、あるのはか弱い少女の姿。
「あの……あまり私の事を買い被らないで下さい……」
肩は震えていた。振りかざされる暴力に屈した様に縮こまり、中々目が合わない。前からそうだ。褒めても自分を卑下する癖がある。『大した事じゃありません』、『同業はもっと上手くやります』等々。謙遜するのは美徳ではあるけどね。
「何故?」
思わず声が出た。今までの甘さを含んだものではなく、冷酷な声だった。怒られていると感じたのだろう。彼女の肩が僅かにピクリと震えた。
「君は私の言葉でも、そうやって無下にしてしまうのかい? 謙遜するのは美徳だろうけれど、私の言葉をそうやって無下にされるのはあまり良い気分では無いね」
「申し訳御座いません……」
持っていた書類に皺が寄る。そんなに私の事が恐ろしいかな? 君が討伐した厄介な獣達の方がずっと恐ろしいと思うけども。
溜息を一つ吐くと、黙って頭の上に手を乗せる。ふわふわの毛が指を通ってとても撫で心地が良い。
「これから先も、貴方が失望しないとは限りません。ですが……やれるだけの事はこれからもしていくつもりです」
そう言うと、深深と頭を下げて、持っていた書類を渡した。相手が見やすい様に、分野別に流れに沿って出来た報告書。見やすい。
やれるだけの事はやった。と言うのは、手抜き言葉じゃない。文字通り、命をすり減らしてでもやってくると思う。そんな君に失望なんかする訳無いだろうに。
「期待してるよ。これからも」
「添えるかどうかは……。いいえ、精進致します」
「宜しい」
謙遜するのは美徳ですけども、相手の賞賛の気持ちまで否定しないで欲しい。
という意味を込めて。
社会に出たら誰も褒めてくれないので、些細な事でも自分で褒めるんですよ。
朝起きて偉いとか、会社行って偉いとか、定時まで頑張ったとか。
日本人って皆様謙遜なさりますけど、それで国が回っているんですから誇って良いんですよ。
貴方の少しの頑張りでも、救われてる人間が此処にいます。何時も有難い御座います。
追伸
チェーン店に立ち寄ったことがあって。
そこでプラスチックカップにニコちゃんマークを描いて頂いた事があります。
お忙しいなか有難う御座います。
あれ、義務なんですかね? 無理しないでくださいね。
小さな事なのですけど、それで喜んでる人間がいます。
何時か書きたいです。
寒かったのですけど、心はぬくぬくです。
今度はちゃんとお礼を言いたいです。
(偉く親切にされると、挙動不審になる面倒くさい人)