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短編集

根無し草のボクは今日も幼女に振り回される

作者: メグル

 異様な光景に町を歩く人たちは、なにごとかと足を止める。


 いかつい男たちが膝をついてボロボロと大粒の涙を流していれば誰だってそうだろう。道を塞ぐほどの人数だ。


 ましてや、その中央にいるのが幼女ともなると、関わりたくないよりも好奇心が勝ってしまうものなのだろうか。誰もが足を止めて男たちを眺めている。


 ええ、老女ではなく幼女です。聞き間違えなきよう。


 ボクだって当事者の1人でなければ遠くから様子を見ていると思う。

 いや、いっそ近づきたくないと早足でこの場から離れただろう。


 あぁもう本当に――泣きたいのはこっちだ!


 心の中で力の限り叫んだ直後、誰かが声を上げる。


「すいませーん。通してくださーい」


 やる気のなさそうな声と態度、とは裏腹に隙のない――。


「軍人通りまーす」


 軍人である。


 人混みが割れて出来た道を軍人は進んで騒ぎの中心地、いかつい男たちの前までたどり着く。


「うわー、異様な光景。事情を知ってそうなのはっと」


 ぐるりと見渡さなくても当然、この騒ぎの中央で突っ立ているボクに白羽の矢が立つのは当たり前のことである。

 幼女と膝をついたいかつい男たちはほぼ同じ高さで、立ち尽くすボクは悪目立ち、なおかつ今会話のキャッチボールが出来そうなのはボクだけである。


 そんなわけでやる気のなさそうな軍人と目が合う。ので、そっとその目を逸らしてみる。


 逃げることは出来なさそうなので当事者ではないふりをしてみる。厄介なことは全力回避したいんですけど、ダメですかね。


 そうこうしているうちに軍人さんに肩をポンと叩かれた。

 そして、まるで初対面だとでも言うように声をかけてくる。


「お兄さん、お話ちょっといいですか?」

「お断りしたいのが本音ですが、仕方ありません」


 ボクは腕組んで堂々している幼女を連れて軍人と軍人の詰所に向かった。この場で話すには少々人目に晒されすぎるから。


 たどり着けば、駐在軍人たち三人にまた来たのかと半ば飽きられながらも大笑いをされる。

 もはや取り調べの個室で話を聞く必要もないと、詰所の休憩室での聴き取りだ。


「面倒だけど……」


 記録用に白紙の紙を取り出したやる気のない軍人を前に、同じようにやる気をなくしたボクは話をする。

 わざわざ記録するほどでもないのだが、彼も職業上やらざるを得ないので、経緯を知るボクも喋らざるを得ない。早く帰りたいし、幼女からも解放されたいのだ。


「いつも通りだよ、レスター。騒ぎはフィオナのせい」


 このあたしにお茶の一つも出さないなんて、とかぶつくさと喋っている幼女ことフィオナが()()()原因なのだ。


「今度は何をしたんだ?フィオナ嬢ちゃん」


 軍人その一こと、年配の軍人が愉快そうにフィオナに声をかければ、フィオナは不機嫌そうに喋る。


「何もしてないわよ」

「どういうことだ、ルーク」


 フィオナの解答にご満足いただけないようで、軍人その二の眼鏡がボクに尋ねてきた。


「船が出来たから見て欲しいって言われたんだけど、まぁ――」

「ボロクソに言ったと」

「おっしゃる通りです」


 断っておくがいかつい男たちの心がガラスのハート製だったわけでない。断じて。

 彼らだって立派な大人だ、そもそも泣き出すようなことは早々にない。あんな光景がしょっちゅうあってたまるか。


 単純にフィオナの言葉が辛辣過ぎるのだ。

 幼女のくせに人のプライドをへし折る技術だけはなかなかにレベルが高い。むしろ、幼女だからこそ言われた時のダメージが大きいのかも知れない。


 フィオナに睨まれるんですが、心の中でも透視出来るんですかね。

 なるほど、それなら相手に効果的な言葉を言えることに納得できる。


「暗に失礼なことを考えているようね、ルーク」

「いえいえ、そんなことあるわけないじゃないですか」


 握った拳が見えたので慌てて両手を振って否定する。

 子供の威力なんだから痛くも痒くもないと思ったら大間違い、むしろ加減なく全力の拳は大ダメージ必至なので未然に防ぐ必要がある。

 あ、でも好きな人にはご褒美ですかね?


「幼いわりにとても聡明な方だと考えていますよ。ほら、じゃなきゃ大の男があんなに集団で泣く地獄絵図なんて完成するわけがな――ぐはっ」


 フィオナから体をひねった高威力のパンチが飛んできて、座っていた椅子からボクは転げ落ちる。幼女の力おそるべし。

 それを見たレスターは驚きつつ、起き上がろうとするボクに手を貸してくれる。


「いや〜、軍人としては心強いね。こんな将来有望な子がいるなんて、おっと」


 褒められていないと判断したフィオナはレスターにも拳を振るうが、レスターは難なくそれを受け止めた。さすが軍人。


「これからはもう少し控えてくれると、面倒がなくてありがたいんだけど」

「あら、仕事内容を忘れなくていいじゃない」


 滅多に何か起こるような町でもないので、仕事といえば日々のパトロールくらいらしいけど、なんて言い草だ。


「事情は分かったし帰ってもいいけど、ルークにはしっかりフィオナ嬢のこと見ておいてもらわないと」

「いや、そもそもボクに任せるのが間違いだから」


 そう、間違いだ。

 フィオナはこの町の町長の娘で、彼女の面倒を見てくれているメイドさんたちががちゃんといるわけで――。

 その家の使用人でも、ずっとこの町に住んでいるわけでもなんでもないボクがフィオナの面倒を見ていること自体がおかしな話だと思うけどね。


「あれ、あそこの使用人じゃなかった?」

「根無し草ですよ」

「そうだったか」

「そうです」


 事情聴取は終わったので詰所を後にして、ボクは家に帰るために帰路につこうとして、フィオナに捕まった。


「このあたしを置いて帰ろうなんていい度胸だわ。下僕のくせに」


 服の裾をがっちりつかんだフィオナが尊大にいう。

 これが年頃の可愛い女の子で上目遣いなんかしてきたら、それはもう喜んで家まで送るのに。あくまでも紳士的に、そう紳士的に。


「家に連絡しておきますから、ゆっくり安全に帰って下さいね」

「ダメよ!お父さまに叱られるじゃない」

「騒ぎを起こした時点でもう叱られるのでは?」

「それなら、ルークも同罪じゃない。唯一そばにいたあんたが止められなかったんだから」

「理不尽っ‼︎」


 全く、フィオナの世話係でも下僕でもないってのに、どうして巻き込まれなきゃならないんだ。

 巻き込まれるなら、幼女より美女の方が良かったのにと思う。


 うん、さっさと彼女をお父さまが帰ってくる前にお母さまに渡して帰ろう。

 それが一番の安全策だ。


 歩きたくないとグダグダと文句を言い続けるフィオナを背中に背負い、ボクはフィオナのお屋敷を目指す。


「毎回ありがとうね、ルーク君。ほら、フィオナもお礼を言いなさい」

「あたしの下僕よ。それくらいやって当然じゃない」


 フィオナのお母さまエフィさんは穏やかに出迎えてくれて、ニコニコとしながら家まで送ってもらって礼一つ言わないフィオナにゲンコツを落とした。


 結果、涙目の可愛い幼女が誕生するわけだけど、彼女の中身を知っているだけに素直に可愛いとは思えない、思わない。

 むしろ、日々彼女から与えられるストレスが消える瞬間なのだ。いいぞ、もっとやれとは言わないけど。


「フィオナ、例えそうであったとしても何かをしてもらったなら感謝をするべきよ。傲慢な王様はどうなったかしら」


 笑みを絶やさないエフィさんは子供向けの絵本の結末をフィオナに尋ねる。


 傲慢、唯我独尊の王様は我儘放題。

 世界の全てを独り占めしようとして、沢山のものをなくしてしまうのだ。

 地域によって結末が違ってくるんだけど、この辺りでは傲慢な王様は独りぼっちの結末を迎える。


「……あり、がと」

「どういたしまして」


 聞こえるか聞こえないくらい声でフィオナが感謝の言葉を述べる。


 エフィさんがお茶でもと引き止めてくれるけど、フィオナのお父さまに会いたくないので用事があるのだと遠慮しておいた。

 そこまで厳しい方ではないんですけどね。


 翌日、フィオナが屋敷を抜け出してボクの元にくる前にお金を稼ごうと思い宿で朝食を食べてから町の外に出ようとするとレスターたち軍人が集まっている。

 軍人に混じってフィオナの父親が大剣を持って参加してた。あ、目があった。


「ルークじゃないか」

「おはようございます。朝早くからどうかしたんですか?」

「でかいゲートが開いちまったみたいでな、閉じに行くんだよ」


 ゲートとは魔物(モンスター)が出る扉のことだ。

 ゲートは珍しいものじゃなくて、各地に多く点在するありふれたものであって、大抵は放置していても問題はない。


 対処に困るほど強い魔物は少なく、村や町など人の暮らす場所を襲ってくることは滅多になくあっても駐在軍人がいれば問題はないほどで、冒険者なんかも魔物の数を減らしてくれるのでイレギュラーが起きない限りは割と安全なんだけど。


 ただ、大抵イレギュラーの大きなゲートとなるとそこから出てくる魔物の数は多く、稀に強い魔物がゲートに引っかかりながら出てくることもあるので危険なのは確かだ。


「手伝いましょうか」

「いや、お前は――」


 戦えるように見えないんでしょうね。幼女のパンチでダメージを喰らうぐらいだし。


 そもそも、忘れてるんだ――。


旅人(根無し草)の必須スキルですよ」


 ボクが旅人だってことを。

 戦えない人間が旅なんて出来ないということを。


「いや、それよりお前は好奇心負けた子供が外に出ないように確認しておいてくれ。抜け道知ってんだろ」


 うーん、戦力外通告か。

 でも、ま、ゲートを見ようとするのは子供の定石ってもんだし、こんな時に町の外に出るのは命知らずだし。

 うん、バカな真似は止めないと。


「分かりました。気をつけて」

「おう」


 ま、多分そーゆー子供はもうすでに町を飛び出てるんだよね。

 今さら抜け道を通行止めにしたって遅すぎるってくらいには。


 頼まれたからにはと町の子供たちから教わった抜け道を確認して回ると案の定、外に出た形跡がある。


 この辺りは高台があるわけじゃく平坦地で森に囲まれるからゲートを見るのは大変だろうな〜と他人事にしておきたい。

 かと言って、放っておくのも後味がわるい。


「行かなきゃダメかぁ」


 やりますよっと。

 ボクには少々小さすぎる穴を潜り抜けて、森の中にはいる。


 森の中は異様に静かで、ゲートの大きさがどれほどなのかが見なくてもよく分かった。

 これは危険だ。


「無事だといいけど、運が良ければ悲鳴くらいは聞こえるかな」


 そうであって欲しい。そうしたらすぐに助けに行けるから、生死不明なんて命知らずな冒険者とか根無し草の旅人だけで充分だ。


 手にナイフを持ったまま移動速度を上げて、とにかく走る。

 人の通った痕跡を見逃さないように細心の注意ををもって。


「――フィオナ⁉︎なんで、ここに」


 辛辣な言葉を吐く毒舌マシーンのフィオナだけど、この子は嬉々としてゲートを見に行くような子じゃない。

 むしろその危険性は町長の子供とよく知っている。だから、ここにいるとすれば――。


「ルーク?なんであんたがここにいるのよ、ゲートの方に行ってなかったの」

「あー、断られた。代わりにバカがいたら止めてこいって任を受けてきたんだけど」

「そう、ちょうどいいわ。ユノが先にいるわ」


 フィオナはボクがここにいる理由に納得はしてなさそうだけど、ちょうどいいと彼女が止めきれなかったユノを連れもどせと言う。


「ユノが?マズイことになったな」


 フィオナをここに置いて行くわけにいかないし、かと言って街に連れて帰ってたらユノの身も危ない。


 っていうか、今回の大きなゲートのことを考えると余裕はないはず。弱くても数が多けりゃこっちは消耗戦になるし、そうなってくると逃げるのも難しくなる。

 そもそも魔物によっては多分、全滅もありえる。


 どうするべき悩んでいると服の裾を掴んだ幼女が尊大に言い放った。


「ルーク!()()()()()あたしを家まで送りなさい‼︎」

「フィオナ……。こんな時でも偉そうだね」

「偉いのよ、実際に」


 そう言ってフィオナは踏ん反り返る。

 まったく、まずはフィオナを連れてユノを連れ戻さないと。


 フィオナを背負い森を駆けようとした時――。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ」


 悲鳴のような叫び声がが微かに聞こえた。


「早く行くわよ!」

「もちろん」


 地面を思い切り蹴って走り、声の聞こえた場所へ向かえば武器屋の息子ユノが魔物に襲われて逃げている。


 近接武器じゃ間に合わないから、投げナイフ!


 うーん、硬すぎてイマイチ。

 ま、想定済みだし、怯んでくれたら充分だ。


 銃をホルスターから素早く抜き取って魔物に向かって早撃ちして倒すと、背負ってるフィオナがボクの肩を揺すってくる。


「ちょっ、フィオナ。危ないって」

「危ない?どの口が言ってんのよ。あんた銃は下手くそじゃない、ユノに当たりでもしたらどうするのよ‼︎」

「下手なのは否定しないけど、マジックアイテムだから関係ないよ」


 普通の銃じゃ十中八九的に当てられないけども、マジックアイテムを使えば当てたいものにちゃんと当てられるんだ。


 え、さっきの投げナイフはどうなのかって?

 あれは撃つわけじゃないから大丈夫っていうか投げ道具はあれしか上手くないんだよね。


「なんでそんなもの持ってるのよ!」

「自衛の道具は必要でしょ」


 ボクはへたり込んでいるユノにかけ寄りながらフィオナに淡々と返し、フィオナにそうじゃないと頭突きされた。この石頭め。


 マジックアイテムは高価なものだからボクがそんなものもってることがフィオナは疑問なんだろうけど、旅人や冒険者なら稼ぎに稼いだ全財産はたいてでもマジックアイテムの一つや二つは持っておく。絶体絶命のピンチを切り抜けるための切り札として。

 だけどマジックアイテムは高すぎて最低ランクでも、中級レアモンスターの素材の買取価格くらいの値段はする。


「ユノ、怪我はない?」

「え?う、うん。けがはないけど……」


 無事ならいいユノが立ち上がるのに手を貸し、ユノの服についた汚れを払ってやっていると、ユノは信じられないといった風な視線をボクに向けてくる。

 頼りなさげに見えるのか戦えるようには見られてないらしい。


「お前、ルークだよな。フィオナの下僕の」

「フィオナの下僕になった覚えはないけど、そのルークで合ってるよ。根無し草のルーク」


 ロクでもない確認のされ方だけど、確かめる術がそれしかないから仕方ない。


「ユノ、怖い思いしたところ悪いけど、すぐ町に帰してあげられないんだ」

「は?なんで――」

「フィオナからの命令でね」


 ボクが来てもユノは一安心とはいかないようで、多少震えてはいるけど返しが出来るならまだ大丈夫だと判断して、ボクはまだまともに動けるフィオナを降ろしてユノを背負うと、フィオナの最高速度でゲートに向かって走り出した。


 魔物が多くなってきてけど軍人たちの姿は見えない。

 いや、ボクが見当違いな場所を走ってる可能性もある。ゲートの場所を知らずに魔物が多いところに向かってるだけだから。


「フィオナ。ゲートの場所とか聞いてない?」

「今さら?何考えて走ってたのよ」


 走って呼吸の乱れているフィオナは疲れすぎているのか暴力には訴えず、ボクを睨んで視線で訴える。


「ゲートを見に行こうとしてる子がいれば止めて欲しいって言われてただけだし、ゲートの場所なんて聞いてないよ。二人を探しに来たってだけ」

「私だって知らないわよ。場所なんて教えられるわけないんだから」


 走るのをやめて早歩きにかえて、目の前の魔物を倒しながら進んでいくけど、ゲートのありそうな雰囲気はない。

 魔物の数が増えていってるから合ってるとは思うけど。


 銃の弾に限りがあるので、ナイフ片手に魔物をなぎ倒していく。

 フィオナたちがいるから出来るなら遠距離で倒しておきたいけど、仕方がない。


 ナイフを振るって魔物の血を払った時、背負っているユノが震える声でボクを呼んだ。


「ル、ルーク……」

「どうしたの?」

「オレ、ゲートの場所知ってる。木漏れ日岩の近くだって」


 知っていたならさっさと言えと怒るフィオナを宥めて、ユノにお礼を言うとボクはまだまともに動けないだろうユノを背中から降ろした。


 木漏れ日岩まで距離は現在地から近い。

 そうなるとこれから魔物の数が多くなってくるはずだ。流石に誰かを背負ったまま戦えるほど余裕はなくなるはずだ。


 大幅なスピードダウンをして進んで、しばらくすると魔物と応戦しているような声が聞こえてきた。

 それにしても余裕のなさそうな感じにも思える。


 フィオナとユノに被害が及ばないようにして歩いて、木々の隙間からゲートの端がかすかに見えた。


「な、なんだよ、あれ」

「倒せるのかしら」


 大きな魔物がゲートに引っかかり上半身だけをゲートから出して暴れている。

 大猿と呼んで差し支えなさそうなそれは、攻撃されていることと、ゲートに引っかかり全身を出せないことに苛立っているみたいで、八つ当たり気味に暴れている。


「難しい、んじゃないかな」


 レスターたちの手に負えるレベルじゃないかな、あれは。

 少なくともああいった魔物を討伐するなら、手練れの冒険者がパーティーを組んでやるか、上位にいる軍人の小隊が挑むものだ。


 平和な小さな町を任されるようなレスターたちには荷が重すぎる。例え上半身しか出てきていない魔物でも。


「ルーク、あんたも戦いなさいよ」

「君らの保護の観点からこれ以上は近づけないよ」

「じゃあ、なんでゲートそば(ここまで)きたのよ」


 迫り来る魔物を一閃して、転がった魔物を持ち上げると魔物の群れに向かって投げる。

 魔物の数が数だけに、それでも十分な攻撃になる。狙いをつけなくてもとりあえずは当たる。


「安全のためかな。でしゃばるつもりはないけど、ゲート(中の)様子がわかった以上手を貸さないのもどうかと思うから」


 銃の弾を変えて範囲の狭いボムを撃ちだして、近くの魔物を殲滅して出来た余裕でゲート近くの様子を確認しながら、ポーチに入れてある他のマジックアイテムを取り出して組み立てていく。


 突っ込むことを辞めたらしいフィオナは呆れた顔でこっちを見ていて、ユノは腰につけた小さなポーチに入るはずのないものが次々に出てくることに驚いた顔で見つめている。


「さてと、準備オッケー。急いで離れよう」

「――わっ」

「――きゃっ」


 フィオナとユノを両脇に抱えるとボクは全速力で来た道を走りだし、されるがままのユノと違ってフィオナが騒ぐ。

 結構揺れてると思うんだけど、フィオナは舌を噛まずに良く喋れるなぁ。


「ちょっと、降ろしなさいルーク!自分で走れるわ」

「それじゃ遅いんだよ。とにかくあれから距離をとらないと」


 今組み立てたマジックアイテムから距離を出来るだけ距離を置いて、大きな音が響き出すと同時に横の茂みに飛び込んだ。

 思いの外乱暴な扱いになってしまったせいでフィオナが睨め付けてくるけど仕方ない。


「なんなのよ、あれは!」

「マジックアイテムだよ」

「それは分かってるわよ。聞きたいのは威力と効果よ」


 フィオナの視線はゲートのある場所からボクがさっきまで走っていた辺りに向けられる。木々は直線上になぎ倒されていて、あのマジックアイテムの威力の高さを物語っている。


「それよりゲートは?」

「え?えっと……」


 茂みから出て、見晴らしの良くなった道からゲートの方を見れば大猿が消えていて、レスターやフィオナのお父さまがゲートを閉じるための行動を起こしていた。

 数のいる魔物もそこまで強くないし、あとはレスターたちでも十分だろう。


「ゲートの中には送り返せたみたいだね。良かった。じゃあ、帰ろっか」

「説明が終わってないわよ、ルーク!」


 どうやら追及の手からは逃れなれないみたいだ。しょうがない。


「昔、知り合いから使い道がないからってもらったんだよ」

「ゴミを押し付けられてるじゃない」

「いや、ゴミじゃないから。役に立ってるし」


 まあ、作るだけ作って放置する人だったから、よく押し付けられてはいたんだけど過剰なんだよね。今みたいに。


「それより、早く戻ろう。いないことに気づかれる前に」

「そうね、怒られたくはないもの」

「バレたらゲンコツじゃ済まされねぇよな」


 2人の後ろを歩きながらいつでも対処出来るように警戒はして町に戻る。


「ねぇ、ルーク。あんた、どうして実力を隠してるのよ」


 町に帰る道中、フィオナがそんなことを言ってきた。


「そうだよ。ルークがメチャクチャ強いなんて初めて知ったぞ」


 ユノも驚いた風に言う。


 魔物の大群を1人で捌いていれば、そう映っても仕方ないかな。

 そもそも1人で戦う人間も少ないから。


「ボクはそんなに強くないよ。まぁ、弱そうとか頼りなさそうとは言われるけど」

「そういうことか。じゃ、魔物が弱かったってこと?」


 納得しかけるユノをよそに、フィオナは否定をしてくる。

 うん、まぁこの子は出会いが出会いだし。


「そんなわけないじゃない。ルークはビックベアを容易く倒してるのよ」


 ビッグベアはこの辺り最強の魔物で、強さは下の上と言ったところだ。

 こいつを討伐出来て、初めて冒険者は中級者を語れるといわれる。


 フィオナがビッグベアに襲われそうになってることろを助けたのが、フィオナとボクの出会いだ。


「根無し草は戦えなきゃ死ぬだけだから、それだけだよ」


 身を守る術を持たなければ、道中に魔物か盗賊たちに襲われて死ぬだけだ。

 護衛を雇うってのもありだけど、それで全てがどうにかなるわけじゃないから。一つくらいは戦うにしても逃げるにしても術は持っておくべきだ。


「そういうことにしておくわ」


 これ以上追求してもボクが答えないだろうとフィオナはボクのことを探るのをやめて、なにか言いたげにいるユノも何も言わず町に戻った。


 巨大なゲートが開いた時に興味本位から町を出たユノも、それを止めようとしていたとは言え町を出たフィオナも大人たちに怒られてもいいとは思うけど、それより遥かに怖い思いはしたはずだからボクは誰にも言わないでおく。

 2人の口から知られるぶんには、かばうことはしないつもりだ。


 陽が沈んだ頃、レスターたちゲート討伐隊が戻ってきて、あのマジックアイテムについて軽く騒ぎになってたけど、ボクとフィオナとユノは話に加わらないことで知らぬ存ぜぬを貫き通した。

 年配の軍人には怪しまれたけれど、マジックアイテムを買えるほど余裕あるように見えます?とはぐらかしておいた。


 翌朝、フィオナとユノに捕まったボクは船を2人と一緒に観に行くことになった。


 船大工たちが魂込めて作り上げたという新しい船は、近々この町と近くの大陸を繋ぐ船として活躍する予定らしい。

 町民の長年の夢であった船での交易のために造られたものだ。


「及第点ね」

「なんかショボくねぇか」


 踏ん反り返るフィオナが尊大に言い、ユノは期待外れとでもいうように言った。


 町が所有する帆船としてならボクの目にはかなり立派な船に見えるんだけど、子供たちにそういった感想はないようだ。

 うーん多分だけど、国が所有するようなマジックアイテムが組み込まれた船と同一視してるみたいだ。あれは風がなくても進むんだけど。


「町の規模を考えると十分すぎるくらい立派な船だよ」

「おお、兄ちゃんは分かってくれるか⁉︎」


 船大工たちはボクの言葉に喜んで、分かってるねぇと背中をバシバシを叩いてくる。屈強な男たちだから背中は痛む。


「いろんな場所を歩いてきましたから、大雑把にものの良し悪しは分かるつもりです」

「分かってくれる奴がいるってのは嬉しいもんだ」


 それから船の中を案内してもらって見終わる頃、昼を知らせる鐘が鳴った。


 ユノとフィオナは家に帰る気はないらしく、昼は近くの食堂に入ることになったのはいいけど、明らかにボクに払わせる気満々だよね。この子たちは。


「おや、フィオナ様に――まだいたのかい?」

「はい、なかなか路銀がたまらなくて」


 この町に来た当初は、宿の食堂が工事中で開いてなかったからよくここに食べに来てたんだよね。

 宿の食堂が家庭の味なら、この店は高級とまでは言わないけど店の味だ。


 宿の食堂より割高な食堂で食事を済ませ、フィオナとユノのおかげで空になった財布をしまいながらそっとため息をついたボクは、明日こそお金稼ぎに森に行こうと決意をする。


 最近はフィオナの起こす問題に巻き込まれてお金稼ぎできてなかったから本格的にまずい。


 いっそ夜中のうちに森に行こうかなんて思いながら、今日もボクはフィオナに振り回されていた。


お読みくださり、ありがとうございます。


少しでも面白いと感じてもらえたら嬉しいです。


他にも色々と書いているので、気が向いたら読んでみてください。

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