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【旧版】深層世界のルールブック ~現実でTRPGは無理げーでは?  作者: のらふくろう
セッション1 『可視光外の秘密』

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15/55

11話 索敵

2022年1月31日:

すいません。投稿ミスで明日の分を投稿してしまいました。

【Cogito ergo sum】


 キーワードと共に視界から色が消えた。代わりにまるでARのように脳内のキャラクターシートが認識される。昨夜脳の中で見たマネキンには『名前』や『カバー』など【稼働中のスキル】が展開する情報が表示されている。


 いって見れば脳の機能地図ホムンクルスの異能版だ。違うのはマネキンが手に『ルールブック』を持っていること。ルールブックからキャラクター作成時に選択したスキルが並ぶ。


 これからやることはもう一つのターゲット、つまりこの会場に潜入しているはずの敵の発見だ。シンジケートに雇われた異能者モデルを見つけ出す。その為に最適の場所がここだ。


 【モデル】は【DPCディープフォトン・コア】を脳内に埋め込み異能的な力を発揮する。例えば【Deeplayer】を通じた秘密交信など、能力を使えばディープフォトン(DP)が発生する。それを感知してやろうというわけだ。


 それもなるべく遠くから敵に知られることなく。臆病というなら言え。シナリオ目的はあくまで情報収集だ。敵に見つかることなく敵の情報を得る、密偵として最上の仕事(ベスト・エフォート)だ。


 索敵に必要なスキルを選択して発動する。


【ニューロトリオン・ソナー】


 脳内のホムンクルスの目が微かに光った。ルルの説明では脳の中では神経細胞がニューロトリオンというボールでビリヤードをやっている、らしい。当然理解できない。分かるのは神経が生み出す不思議な粒子を、俺の意識が認識してコントロールすることでスキルが発動することだけ。


 リフティングするのにサッカーボールの分子構造を知る必要がない。


 このスキルは網膜のニューロトリオンで外界からのニューロトリオンを感知する。他の五感と違って網膜の神経細胞だけは中枢神経由来だからニューロトリオンが豊富らしい。相変わらずの専門用語フレーバーテキストだ。さっき別れた高峰沙耶香なら分かるのかもな。


 要するにニューロトリオンが見える機能だ。このスキルで【モデル】の【DPC】が発生するディープフォトン、低エネルギーのニューロトリオンだったか、を見つけ出すことが出来る。


 実は先ほどあの白スーツ、葛城にも使った。万が一にもあの男がモデルだったら大惨事だからだ。


 そんなスキルがあるなら生物学は無視して、会場を回りモデルを見つければよさそうだが、それが出来ない理由がある。


 問題になるのがスキルの制約だ。俺はレベル1、獲得できるのはレベル0と1のスキルだけ。一度に使えるスキルの合計もレベルまでだ。つまり、レベル0のスキルはいくつでも発動できるが、レベル1のスキルは一つしか使えない。


 レベル0はいわゆる共通スキル。今も発動中の【偽装IDカバー】【年齢操作エイジング】と言った黒崎亨キャラを成立させる基本。キャラクターシート付属の機能といってもいい。レベル0なので常時発動している。


 そして今発動した【ニューロトリオン・ソナー】はレベル0/1だ。


 【ニューロトリオン・ソナー】は二通りのモードがある。ニューロトリオン粒子を周囲に放ち、反射を検知する【アクティブモード】。受動的に検知するだけなのが【パッシブモード】だ。


 アクティブの方が強力で検出力も高い。だが、こっちはレベル1扱いで、しかも使えば相手に俺の存在を知られる。一方、パッシブは検出感度が小さい上にノイズに弱く使用者が移動しているとぶれて使い物にならない。だが、レベル0で俺の脳内で完結するため、使っていることがバレない。


 つまり使うのはパッシブ一択だ。


 スタンド席の前の方に座る人間の一人を凝視する、頭部にぼんやりとした赤い光が見える。隣の人間にも同じような靄が認識される。視線を移動させて一階のボードの周囲を見る。途端に光がぼやける。視覚にリンクしているだけあってこの距離では使い物にならない。


 そこでもう一つのスキルを併用する。レベル1の【感覚強化センス・チューニング】だ。他の感覚を犠牲にして特定感覚を強化する。視覚に適応した場合、ぼやけた画像を複数枚重ねることで鮮明化するように、視力を上げてくれる。


 ボードの前に立つ発表者の一人の脳がぼんやり赤く光るのが見えた。


 【ニューロトリオン・ソナー】が情報を視覚イメージとして投影ならその視覚処理能力も上げる。いわば【スキルコンボ】によって遠距離から鮮明な観察ができるというわけだ。


 だが、ここまでしても見えるのは狭い範囲。レベル1のスキルは脳が生成する以上のニューロトリオンを消費するので、時間の制約もある。要するにMPが切れるのだ。


 だからこそ事前に演題を絞り込んだ。このスタンド席からMAPに表示した十二の演題とその周辺の人間を監視する。モデルと俺が同じ情報から絞り込んでいる以上、引っかかる可能性は高い。


 テックグラスにポスター会場の地図を表示する、さっき絞り込んだ十二個の演題番号をオーバーラップさせる。グラスに映ったMAPと視界を合わせると“監視地点”がどこにあるか一目瞭然だ。


 ホールにブザーの音がなり、発表が開始した。発表者がボード前に立ち、ボードに表示した研究内容を説明し始める。テックグラスを見ながら、事前に絞り込んだ演題番号に順々に向けていく。


 007番、045番、103番……。一巡したがそれらしい反応はない。いや、まだ始まったばかりだ。モデルが何らかのアクションを起こすまで、辛抱強くやるべきだ。


 …………


 今左の方で光ったか? いや、後ろの液晶表示の色と重なっただけか。スキルを使い始めてからまだ五分なのにとんでもなく集中力を削られる。もっと距離を詰めた方がいいか。でも、会場の中で棒立ちなんて目立つ。もし身近でモデルに見られたら、俺の脳のニューロトリオンが普通と違うと気づかれる可能性は皆無じゃない。


 下手したらターゲットよりも俺の方が高レイティングになりかねない。研究者の祭典に迷い込んだ実験動物なんてぞっとする。


 ニ十分以上たった。流石に不安が強くなってくる。研究の絞り込みが間違っていたのでは? もし、全く見当違いの候補を観察しているとしたら。


 その時、視界の端が光った。


 045の発表に近づく男の頭部に小さな緑の光が見える。周囲の人間のボヤっとした赤ではない。明らかに光が強く、点滅しているように見える。立ち止まって発表を見る男に焦点を合わせる。


 男は二十歳少し過ぎくらいの黒髪。何の変哲もないTシャツにジャケットを羽織り、ジーンズをはいている。しいて言えば金色のピアスが少し浮いているくらいか。だが、よく見ると行動のパターンが周囲と全く違うのが分かる。何よりジャケットの中、内ポケットのあたりにもう一つの小さな緑の光点がある。


 脳にDPCのマスターコア、そして何らかの装備スレーブコアを所持。間違いない、こいつがモデルだ。


 見つけたモデルがどの研究に注目しているかを追う。……特に注目しているのは045番、103番そして155番の三つ。俺が絞り込んだ十二個の中の三つと一致した。


 つまり、俺とあのモデルは同じ情報を元にターゲットを絞り込んだということ。そして向こうが三つまで絞れているのはハンドアウトにあった【追加情報キーワード】を持っていることが理由と考えられる。


 完全に条件が一致した。男のDPCの点滅パターンを記憶メモリーする。これでソナーが効率的にこいつを捕えると共に、RMに送るデータになる。


 テックグラス上のMAPに緑色の光点が表示された。送ったDPCのパターンからRMが『インヴィジブル・アイ』上に先ほどのモデルを特定したことを意味する。


 ソナーの集中を切った。視界に色が戻る。顔を伏せたままプラスチックの座席に向けて大きく息を吐く。こめかみに指をあてて脳が落ち着くのを待つ。


 一番の難関『モデルの特定』はクリアした。後はもう一つのターゲット、ニューロトリオンに関連した遺伝子を見つけるだけだ。そして、こちらの『ターゲット』も今のモデルの索敵のおかげで三つにまで絞られた。まさに一石二鳥だ。計画通り。


 正直一つでもズレたら破綻する危うい計画だったが、舞台、残り時間、そして俺の使えるリソースそのすべてを考慮して成功の未来シーンを描くとしたらこれ以外なかった。


 さあ最後の締めだ。このシナリオを探索パートで終了させるために、もう一仕事片付けよう。俺はモデルがホールから出るのを待って腰を上げ、下に向かった。

2022年1月31日:

次の投稿は明後日2/2です。

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― 新着の感想 ―
[一言] おお、遂に他の異能者も登場 どんな能力を持っているのかな? ワクワクする
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