004 冒険者ギルド
何か周りがガヤガヤしていてうるさいな。酒やら汗やらの匂いも混ざって変な匂いもしてるし。
俺が目を開くと、いつの間にか食堂から移動したみたいで、場所が変わっていたみたいだ。
その場所は、広い部屋にカウンターが有り、何人かの女性が冒険者らしき恰好をした人達と話をしている。
向こうでは色々な紙が貼られた掲示板みたいな場所が有り、それを見ている冒険者が居て、あっちのスペースには幾つかテーブルが並んでおり、お酒やおつまみを食べている人たちがいた。
多分だけど此処って門でも言ってた冒険者ギルドって所なのでは無かろうか?
「あ、シュウ君起きた?」
「あうあ(起きたぞ)。」
「もうすぐシュウ君の預かってくれる人の所に行くからね。」
そうだよな。残念だけどこれ以上は迷惑は掛けられない。此処まで連れてきてくれただけでも有難い話だし、仕方ないよね。
「あうえ(分かった)。」
俺がエレンと会話をしていると、周りがざわつき始めた。
「お、おい、エレンちゃんが赤ん坊を抱いてるぞ、ま、まさか!?」
「くそっ! 俺たちのエレンちゃんを、アランの野郎め!」
「一発殴らないと気が収まらねー! おい、行くぞ!」
「「おう!」」
そんな物騒な会話が聞こえてきて、3人の男達がこちらへとやってきた。
「おい! アラン! てめぇ~!!」
「何を勘違いしてるのか分らんが、この赤ん坊は俺たちの子じゃ無いぞ? 森で拾ったんだ。」
「そんな白々しい嘘を良くも!」
リーダーらしき男が怒り狂っているが、周りに居た男達は違ったみたいだ。
「そーいや、エレンちゃんのお腹が大きいってのは見たこと無かったよな。」
「ああ、昨日も一昨日もずっと同じだったよな。と言うことは本当のことか?」
「「すまん! 勘違いだったみたいだ。」」
「おいお前ら、どうしたんだよ!」
「どうしたは貴方よ! 何で私が子供を産んだ話になったのよ! でもいつかは……ごにょごにょ……」
エレンがそういって顔を赤くした。
「くっ……なんかムカついてきた。アラン、やっぱり一発殴らせろ!」
「お断りだ。それに此処では喧嘩はご法度だぞ。」
「うぐっ……」
アランは男達の脇を通り過ぎてカウンターへと進んで行った。
「そういうことだから、またね~」
エレンもアランの後にに続いた。まぁ、お前らは全く脈も無さそうだし、別の所で頑張れ。
男たちはガックリと項垂れて、トボトボと元の場所へと戻っていった。
カウンターへと到着したアランを見て受付している女性が声を掛けてきた。
「次の方どうぞ~って、アランとエレンじゃない。依頼が完了するにはまだ早すぎ……あら? その子はどうしたの?」
「森で拾った。」
「拾ったって犬や猫じゃあるまいし……まあいいわ。予想は付くけど、その子のことで来たのよね?」
「ああ、報告と今後についての相談しに来たんだ。」
「了解。じゃあ最初から話して貰える?」
「わかった。」
アランが俺と出会ってからのことを事細かく説明をした。
「なるほどね、それでアランはその子をどうするの? 引き取って育てるとか?」
「いや、冒険者を続けるのであれば無理だろう。ギルドの方で対応して貰うことは可能か?」
「可能と言えば可能ね。でも、結局は孤児院に預けることになると思うけど、それで良いかしら?」
「ああ、それで頼む。」
「分かったわ。一度その子を預からせて貰うわね。
それで、この子の名前はシュウ君で良いのかな?」
「いや、それはエレンが勝手に言ってるだけで本名は知らない。」
「そう、なら鑑定にかけちゃいましょうか。」
受付の女性がそう言うと、門の入り口で触った水晶玉を取り出した。
あれ? これだと犯罪歴しか分からないんじゃなかったのか? とりあえず様子を見るとするか。
「ん? 冒険者に登録させるのか?」
「その方が早いでしょ? 身分証明替わりにもなるしね。
まぁ、この子が冒険者になるかどうかは本人に任せれば良いんじゃない?」
「それもそうか。じゃあ頼む。」
「了解~、じゃあシュウ君(仮)、此処にお手々を乗せてね~」
受付の女性がそう言って、俺の手を取ると、水晶へと押し当てた。
やっぱり門と同じで青く光った。
「犯罪歴は当然無いわね。後はカードを発行してと……」
受付の女性が何やら装置を操作していると、木で出来たカードが飛び出してきた。
「はい、これが貴方のカードね。」
「どれ……まぁ普通だな。」
「どれどれ見せて~ あれ? 名前がシュウ君になってる。もしかして本当に当たってた!?」
「そうかもしれないが、エレンが本当に名付け親になった可能性も有る。」
「それって、シュウ君が名前も付けずに捨てられたってこと!?」
「その可能性も有るってことだ。実際は不明だな。」
アランがそう説明すると、エレンが口を閉じて何かを考えている。
「ねぇアラン。この子私達で育てられないかな?」
「先ほども言ったが冒険者を続けるのなら無理だ。それとも冒険者を辞めるのか?」
「うっ……そうだよね。シュウ君ゴメンね。」
「あぅあ!(気にすんな!)」
俺はエレンのほっぺたをペチペチと叩いた。
「ゴメンね……」
エレンがホロリと涙を流した。何だか悪いことをしてしまったな。仕方が無いことだが。
「それでは一応規則なので理解出来て無いと思うけど説明しますね。
冒険者は、依頼を受ける。又は倒した魔物を納品することで評価が貰えます。ある程度の評価が貯まると試験が受けられて、それに合格することでランクが上がります。
最初はGランクから始まり、最高でSランクまで上げることが出来ます。ただし、依頼の失敗が続くとそのランクの条件に満たないと判断され降格する場合も有るので気を付けて下さい。後は長期間の依頼を受けない場合も下がる場合が有ります。シュウ君は最低のクラスですので、これ以上は下がらないので受けなくても大丈夫です。」
「あぃ(はい)。」
「返事した!? た、たまたまかな?」
やべぇ、思わず素で返事しっちまったぜ。次からは気を付けよう。
「……コホン。えっと続けますね。
ギルド員同士の喧嘩はご法度です。これもランクが下がる原因となります。もし戦う場合は審判を付けた決闘と言う形であれば可能ですのでその時は申請して下さい。
それ以外での殺人、窃盗等の犯罪を起こした場合は、無条件でカードが赤く染まりギルドからの脱退となりますので気を付けて下さい。」
なるほど、だからアラン達が門でカードを見せるだけで検査も無く通れたのか。便利なカードだな。
「何か質問は有りますか?」
とりあえず依頼を受ければランクが上がって、犯罪だけは起こすなってことね。了解です。
他に聞きたいことが無いとは言えなくも無いが、話せないからな。変に返事をするとアレなので黙っておくことにする。
「質問って、シュウ君話せないでしょ?」
「一応聞くことが規則なんですよ。じゃあ無いと言うことで説明は終わりです。
本日は冒険者ギルドへの登録ありがとうございました。私、イザベルが対応させて頂きました。
またのご利用をお待ちしております。」
「ホント、イザベルは真面目なんだから。そこまで畏まって無くても良いんじゃない?」
エレンがそんなことを言うと、イザベルがチラリと隣を見た。なるほど、こんな赤ちゃんだろうと、客(?)に対して下手に対応すると後で怒られるって訳か。
それを見てエレンも気が付いたみたいで溜息を付いた。
「じゃあ、シュウ君またね。その内会いに行くから元気でね。」
エレンが涙目で俺をイザベルへと手渡した。
そしてアランと一緒に冒険者ギルドを出て行くのだった。