251 フィーネは
風呂場の前を通ると、何やら怒鳴り声が聞こえてきた。
何事かと覗いてみると、どうやら喧嘩中(?)みたいだった。
「何時まで入っているんだよ! さっさと代われよ!」
「俺だって今入ったばかりなんだよ!」
「こっちだってようやく入れたんだぞ? 少しくらい待ってくれても良いじゃねーか。」
「誰だ! 俺のケツを触ったヤツは!」
「し、知らないぞ!」
「お前は結構前にも見た気がするぞ。ずっと入ってるんじゃねーのか?」
「ギクッ、な、何のことかな?」
「良いから代われ!」
どうやら狭い風呂での奪い合いが発生しているみたいだった。だったら鍵を掛ければいいのにね。
それにしても、混雑の紛れて不穏な行動をしている輩も居るみたいだが……うん。絶対にここの風呂には入らないようにしよう。万が一入るとしても、鍵だけは絶対にかけようと思う。
女子風呂? 女子風呂は何故か入口に予約の紙が貼ってあった。どうやら入る順番を決めているらしい。男性もこうすればいいのにね。
俺はそんなことを思いつつ、その場を後にするのだった。
雑魚寝の大部屋までやってきた。昨日と違ってずいぶんと人が多い。
それにしても、こうやって実際に人が入っているのを見ると、思ってた以上に狭かったかもしれない。
この混雑状況で、風呂に入れない人も多いからか、結構臭いもしたりする。正直言って、俺はここに泊まるのはちょっと遠慮したい。
それでもやっぱり階段で寝るよりはマシなのだろうと思う。
「……折角、高い金額を払って貰っていることだし、もう少し快適にしてやろうかな。」
風呂とは言わないが、シャワー室なら作ってやっても良いかもしれない。体を洗うだけだから、長時間浴び続ける人も居ないだろうしな。
後でフィーネと相談することにしよう。
2階は全て部屋になっているから確認のしようも無いが、とりあえず行ってみることにした。
通路には誰も居なかったので、狩りに出かけているのか、または風呂に行っているのか、もしくは部屋でゆっくりしているのだろう。
2人部屋の前までやってくると、部屋の中から何やらなまめかしい声が聞こえた来た。
「これが欲しいんだろ?」
「あぁ~! そこ、そこが良いの! だから早く頂戴!!」
「何処に欲しいのか言ってみろよ。」
「そんな恥ずかしいこと言えない!」
「じゃあ、こいつはお預けだな。」
「意地悪しないで……」
「しゃあねぇな、ほらよ!」
「あぁ……」
おい! ウチはラ〇ホじゃねーんだぞ! 何をおっぱじめているんだ!!
とは言っても踏み込むわけにも行かないし、今後のためにも後で相談することにしよう。
とりあえず見回りの続きをすることにしたのだが……
「あ、兄貴。俺、もう!」
「ダメだぞ。もうすこし辛抱してくれ。はぁはぁ……」
「あ、兄貴いいぃぃぃ~~~!!」
「・・・・」
聞いちゃダメだ。俺は知らない。何も聞いてない!!
俺はその場を離れ、速攻で逃げるのだった。
・・・・
バタン!
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「ん? シュウか。そんなに慌てて、どうしたんだい?」
「フィーネ、大変だ!」
「その様子からすると何か有ったんだね。説明してもらえるかな?」
「あー、その、えっとだな……」
フィーネに説明しなくてはならないと思ってはいるのだが、どう説明すれば良いだろうか。
「冒険者が危険だ!!」
「何を今更言っているんだが。冒険者にそういった輩が多いのは当然だろうが。」
「いや、そうなんだけど、そうじゃないんだ。」
「? 意味が分からないのだが。」
多分俺が思っているのとフィーネが想像しているのには差異があると思う。
「えっとだな。2人部屋の前を通ったら、中で……」
「あぁ、そういうことか。そっか、君はまだ子供だったね。失念していたよ。
大丈夫だ。大人になるとそう言う行為は普通にあるから問題無い。」
何気にフィーネの言葉が俺の心にクリティカルヒットを噛ましたんだけど? そうですか、普通ですか……
「じゃなくて、宿でそう言うことしても良いのかよ!」
「まぁ、仕方ないことだと思う。人は死を身近に感じると子孫を残すように体が反応するからね。当然の結果さ。」
「……野郎2人でもか?」
ガタッ!
「何だと! それは何処の部屋だ!!」
突然フィーネが大声を出して立ち上がった。
「えっと、2人部屋の4部屋目だったかな?」
「分かった! ちょっと行ってくる!!」
「お、おい!」
フィーネは俺が止める間もなく部屋を出て行ったのだが、そんな行為中のところに行って大丈夫なのか?
「仕方が無い。追いかけるか。」
フィーネに危険な目には会わせられないしな。俺はフィーネを追いかけて扉を出るのだった。
例の部屋の前までやってきたのだが、フィーネは、部屋の中には入らずに扉に耳を当てていた。
「居た! 良かった、まだ突入前だったか。」
どうやら中の様子を確認してからの突入だったのだろう。
「フィーネ。」
「シィーー!!」
俺が声を掛けると、人差し指を口に当てて『静かに』のジェスチャーをした。
「わ、悪い。」
「ん。」
俺は謝った。……のだが、よくよく見ると、フィーネの顔は赤く、少々興奮しているみたいだった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「腐ってやがる。早すぎたんだ……」
どうやらフィーネは腐女子と呼ばれている、そっち系のお方だったらしい。
お願いします。ショタだけは、そっち系の趣味だけは持っていません様に!!(心の叫び)
俺はフィーネの邪魔をしない様に、この場をそっと後にするのだった……
・・・・
従業員の部屋で待っていると、満足した顔をしたフィーネが帰ってきた。
「いやぁ、楽しませてもらったよ。」
「そうでっか。」
「どうしたんだい?」
「イエ、ナンデモゴザイマセン……」
「そうか。」
「「・・・・」」
何となく何を話して良いのか分からなくなり沈黙が流れる。
「何か聞きたいことがありそうなのだが?」
「いや、人の趣味をとやかく言うつもりは無いよ。」
「別に隠しているつもりは無いのだが、そうだね。何となく君は理解してそうだから話すが、多分君の想像通りだと思う。」
「ちなみにショタ系の趣味は持っているのか?」
「ショタ? ショタとは何だ?」
「あーそっか。ショタでは通じないのか。」
確かショタコンの意味が正〇郎コンプレックの略だったっけ。そりゃあ人の名前じゃ通じないわな。
「幼い男の子が好きな人のことだよ。」
「・・・・」
「お、おい、ま、まさか!?」
「ふふふっ。」
「お、俺、ちょっと旅に出てくるわ。当分帰らないとと思うが、後は宜しく頼む。」
俺は踵を返すと、部屋を出るために立ち上がった。
「冗談だよ。君の言うショタと言う者では無いから安心すると良い。」
「本当か? 嘘だったら許さないからな!」
「本当だとも。子供はもちろんのこと、貴族様みたいなナヨっとした男もあまり興味は無いからね。
どちらかと言うと、男らしい筋肉持ちの人が好みだ。そういった点でも冒険者は最高だね。」
「そ、そうか。」
フィーネの態度からすると、きっとその通りなのだろう。自分が対象でないことにホッとしつつも、何故か残念と思ってしまうのは何でなのだろうな。
「まぁ、君の強さを知ってからは、少し考えを改めても良いかなと思い始めているのだが……」
「止めてくれ!」
「冗談だよ。そう言う訳だから、僕のお眼鏡にかないたければ、もう少し筋肉を付けると良い。そうしたら考慮してあげよう。」
「遠慮しておく。」
「残念だよ。」
何処までが本気かは分からないが、現時点では興味の対象じゃないとだけ分かれば、今のところは良いだろう。
「で、2人部屋のことで相談したいんだが、アレ、良いのか?」
「2人部屋を作った時点で、そう言うことを想定していたんじゃないのか?」
「全くそんなことは考えていなかったぞ。単に俺達みたいに2人でパーティ組んでいる人が居ると思ったから作っただけだ。」
レリウスとサムもそうだったが、アランさんとエレンさんも2人パーティだったしな。
「そうなのか。だが普通の宿も2人部屋だとそんな感じだし、諦めるしかないと思うぞ。」
「マジか……」
「おそらくレナさんも、その辺は理解はしているだろうね。」
「フィーネがそれで良いなら良いけどね。」
とりあえず2人部屋についてはこれで良いや。




