前日譚3 波乱までの数分前
(バカしたアアアアアア!!!!)
私は心の中で叫びながら通学路を駆ける。
男子寮で朝食をとり、少し時間ができたから自分の部屋に戻って休んでいた。
それが災いしたのだろう,,,,昨日夜遅くまでやっていた幹部会議のせいだろうか?
少しベットに横になっていたら寝てしまった。
ホームルームの時間は8時半,,,,そして俺が起きた時間は10時ちょっと過ぎ。
もう二時間目の授業が始まってる時間だ。
怪人だって食事や睡眠は必要だ。いらないタイプの怪人もいるが私は必要なタイプだ。
(クソ!!これだから幹部会議なんかに参加したくないんだ!!モーガン様も私にもっと優遇してもらいたいところだ!)
心の中で文句を言いながら通学路を走る。今の私は人間のふりをしている。
サポート科の高校二年生,,,,鏡 龍一として侵入しているのだ。
怪人の力を使えば数秒で学校に着けるが,,,,万が一その姿を見られた怪しまれる。
侵入捜査は自然体で怪しまれない事が重要だ。
ただでさえ敵の本拠地に潜り込んでいるのだ,,,,小さなミスが命取りになる。
(なんで男子寮だけ学校から離れているんだ?片道二キロはあるぞ?)
この学校は寮生学校なのだが,,,,女子寮が学校の隣にあるのに対して男子寮は歩いてかなりの距離の場所にある。
実質女子校のような場所だからってこの仕打ちはないだろう。
そんな事を考えていると通っている学校の姿が見えてきた。
綺麗なレンガ作りの大きな学校だ。
「,,,,ふう,,着いたぞ。」
校門の前で一息つきながら独り言を言う。
校門はもう閉まっている,,,,校則で遅刻した者はインターホンを押して開けて貰わないといけない。
私は渋々インターホンを押して反応を待つ,,,,そうだ忘れる所だった。
「僕は鏡 龍一だ,,,,」
自分に言い聞かせる。これから仕事が始まるのだ。
集中しなければな,,,そんな事をしていると。
『,,,,,,そんなの知ってるわよ。遅刻とはいい度胸してるわね?』
インターホンから聞いた事のある女性の声が聞こえる。
どうやら呟きが聞かれていたようだ,,,,少しびっくりしたが問題はない。
「すいませんミソラ先生!寝坊してしまって,,,,校門を開けてもらえますか?」
私は申し訳なさそうな顔をしながら言った。
よりによってコイツが応えてくるとは,,,,コイツは私の担任教師のミソラ先生で別名魔法熟女だ。
魔法少女の仕事としての寿命は短い,,,,どんなに強い魔法少女でも22歳くらいになると魔力が弱まっていき引退する。
だがまれに全く魔力が弱まらないイレギュラーもいる,,,,それがミソラ先生だ。
今年で29歳なのに未だに全盛期並みの魔力を扱える。
この学校で教師をやりながら現役の魔法少女(?)でもある。人間からしたらパワフル,,,,怪人からしたら厄介な奴がコイツだ。
,,,,,,,,私としてはまだ若いと思うのだが他の生徒はオバサン扱いしている。
『今何か失礼な事考えてないかしら?』
ミソラ先生のイラついた声で考えていた意識を戻す。
「そんなわけないじゃないですか!やだなぁもう!,,,,あの開けてくれませんか?」
一向に校門が開く気配がない。早く入りたいのにこのババアは校門を開けてくれない。
『,,,いいわ,,,,初めての遅刻だから反省文10枚で許してあげる。次の授業は私の怪人学よ。早く準備しなさい。』
プチィという音と共にガラガラと校門が開く。
ミソラ先生は何故か私に対して当たりが強い。
男子生徒が気に食わなのだろう,,,,だかっらて反省文10枚はパワハラだろ。
アイツは冗談を言わない。本気で書かせる気なのだろう。
(クソが,,,,抹殺指令が下りたら真っ先に殺してやる。)
物騒な事を考えながら私は校舎に入って行った。
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
校舎内は騒がしかった。
ちょうど二時間目と三時間目の間にある休憩時間だった。
廊下で話している生徒や教室で休んでいる生徒達で校舎内は活気が溢れていた。
そのほとんどが女子生徒だ。
それも当たり前だ,,,ここは魔法少女育成の専門学校。
この世界に生きる女の子なら一度は魔法少女になることを夢見るものだ。
この学校はそんな夢を追いかける少女達の登竜門なのだからな。
サポート科ですら男子が入学するには条件がとても厳しい。
私のクラスは二年一組だ,,,,一年過ごした学校の構造は完璧に理解している。
慣れた足取りで教室に向かう。
「遅刻しました~~」
私はそう言いながら自分のクラスに入る。クラス全員の目が私に向く。
このクラスはこの学校で特に優秀な生徒が集められている特別優待クラス,,,,だからクラスの人数は15人と少ない。魔法少女科所属が12人,,,,サポート科が私を含めて3人だ。
本来は魔法少女科とサポート科の生徒は別々のクラスだが、サポート科に属する生徒の中でも戦力や能力が桁違いな者のみがこのクラスに入るのを許される。
「鏡くんじゃん!!今日どうしたの、遅刻なんて初めてじゃない?」
私が席に座って支度をしていると元気のいい声が女子の声がする。
彼女は鈴鹿 輝,,,,このクラスの生徒で魔法少女の一人だ。
金髪ショートボブの小柄で話しかけやすい印象の可愛い少女だ。
こんな見た目をしているがこのクラスでは最上級の強さを誇る要注意人物だ。
すでに魔法少女として活動しており何人もの怪人《仲間》を消されている。
私とはスズカは友達という関係を保っている,,,,遅刻してきた私を心配しているのだろう。
「昨日夜更かししちゃってね,,,,僕も驚いてるよ。」
私は恥ずかしそうな顔をしながら言う。
「アンタが夜更かしねェ,,,,なにしてたんよ?」
私の後ろからまた別の声が聞こえる。
こいつは河上 純白,,,,クラスで一番の問題児だ。
高身長で目つきが悪く、口も悪く、成績も悪く、人当たりも悪い。
ギャルみたいな服装は清楚なイメージがあるこの学校とは正反対だ。
手入れしてなさそうな白いロングヘアを触りながら純白が言う。
前に一度話してからよく絡んでくる,,,,あまり得意なタイプではないがこれも仕事だ。
「,,,,友達と電話していたらつ「は?困るんだけど?アンタがいないとウチ等迷惑するわけ、そんな下らない事で遅刻しないでくれる?」
私の言葉を遮り純白がイラつきながら言う。
これはこいつなりの心配だ,,,,要するに「アンタが来なくて心配してたんだよ。」ということだ。
「悪いね、心配してくれてありがとう。明日は早く学校にいくよ!」
「フン!,,,,分かればいいのよ!」
そう言いながら純白は自分の席に戻っていく。
慣れたものだ,,,,この学校は曲者がかなり多い,,,,いやほぼ全員曲者だ。
アイツのように素直になれないだけならまだいい方だ。
「マシロちゃん!!,,,,もう,,素直じゃないんだから,,,,お願いだから鏡くんはあの子を見捨てないでよ?」
スズカが心配そうに私に言う。
スズカは誰にでも優しく、一人でいる人を見捨てられないお人好しだ。
「あぁ、大丈夫だよ見捨てる何てことしないさ!」
私がそう言うとスズカは安心したように笑うと自分の席に戻っていく。
心の中で嗤う。私はスズカのような人間が嫌いだ,,,,人を疑わず、ただただ誰かのために行動する。そんな愚かな事を実践している奴だ。
だから私の正体に気が付けない,,,,きっと気が付くのは最後の最後だろう。
「,,,,,,,,,,,,」
顔には出さずに心で嗤っていると、隣の席から激しい視線を感じた。
「,,,,どうしたの桜川さん?」
私が困ったようにそう言うと隣の少女は何も言わずに無表情のまま私にノートを渡す。
「,,,,,,,,」
私が遅刻した教科のノートだ。
ノートに紙切れが挟まっている。
【ノート写していいよ】,,,,との事だ。
この人は曲者の中でもかなりの大物である桜川 花蓮。
私と同じサポート科の生徒で、去年から同じクラスの女生徒だ。
成績優秀で、サポート科でありながら魔法少女顔負けの魔力量や判断力を買われてこのクラスに入った。
彼女は決して話さない,,,,どんな状況であろうと一切声をださない。
事実、私は彼女の声を一度も聞いた事がない。
話すときはいつも一方的な筆談だ。
いつも本を読んでいる,,,,美人なのに勿体ない。
三つ編みのおさげに丸ぶち眼鏡,,,,どこもいじくっていない制服,,,,いたって目立たない格好をしていても、その美人な顔は隠せていない。
こんなに詳しいのは別に彼女に興味がある訳ではない。
ただ一年間と半年の間、同じクラスで過ごして思った感想だ。
「ありがとう!それと借りてた本返すよ、面白いねこのラノベ!」
私は感謝を伝えて彼女から借りた本を返す。
私の目的は怪人の脅威になる者の排除だ,,,,その脅威には彼女も含まれる。
カレンと友達になるには苦労したが今は順調だ,,,,意外と本は面白い事を知ったのは予想外の幸運だ。
「,,,,,,,,」
カレンは軽く微笑みながら本を受け取る,,,,何か話そうとした時だった。
教室の扉が開く。
「ごめんなさいね。少し遅れたわ,,,,どこかのバカのために反省用紙コピーしてたら遅くなったわ。」
ミソラ先生が教室に入ってくる,,,,手には大量の反省用紙がある。
「喜んで受け取りなさい。これで許してあげるのですから,,,,さあ授業を始めましょう!」
私の机に用紙を置いて教卓の後ろに立ちそう言う。
(くたばればいいのに,,,,)
心の中で文句をいいながら私は授業に集中し始めた。