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2話 幽霊の正体はいとこでした

「――な、ないッッッ!? 母さんの聖剣がどこにもない……ッッッ! な、なんでぇ? さっきまでそこに置いてあったはずなのにぃ……」


 自分の部屋に舞い戻った俺だったが、そこに聖剣はなく、涙を流すハメになった。

 そして、そんな情けない顔のまま、俺は部屋の中を探し回っている……!


 しかし、聖剣はいつも決まった場所に保管するようにしているから、別の場所に置いてしまった――なんてことは絶対にない。


 だというのに、ない……! どこにも、ない!

 ベッドの下にも、クローゼットの中にもないぃぃぃいいいいいぃぃぃぃぃ――ッッッ!


「……隠しやがったな、あの幽霊ッッッ……!」


 部屋をくまなく探した後、俺はその結論に至った。

 特に何の根拠もないが、それ以外にありえないと思ったのだ。


 余裕ぶって、人の家で料理を作ることができていたのは、身の安全を確保していたからに違いない……!

 頭悪そうな声してるくせに、策士か……?

 俺が眠っている間に、俺を無力化するとは……、なんてズル賢い!


「見破られていたということか……。聖剣がなければ何もできない雑魚だってことを、あの一瞬で!」


 もはや、感心すら抱きそうになっていたとき、その幽霊はひょこっと顔を出してきた。


「もう! 夜ご飯できたよって言ったでしょ……?」


「うん、ありがとう――とはならないだろ……! なに人の家で飯作ってんだよ! お前は俺の彼女か……!」


「え、そんな……、彼女だなんて……やめてよ」


「照れるなよ! つーか、数時間前に断られたばかりだろ……」


 また上半身だけでモジモジとしている幽霊を見て、俺は呆れついでにツッコミを入れてしまった。

 ……ただ告白を断られただけでなく、存在が消されそうになったというのに。


 見た目清楚なくせして、案外性格は図太いらしい。

 俺には無理だよ。自分を殺そうとした(殺した)相手の家で料理を作って、それを振る舞うことなんて……。


 まあ、俺は料理が下手――それ以前に親しい奴がいないから、そのような機会があるわけないんだけど。チクショウ!


「あ、そういや、お前。俺の聖剣をどこに隠した、返せ!」


「うん、返すよ……」


 あれ……? 案外あっさりと返してくれるんだな。

 てっきり抵抗するものかと思っていたのだが、そうでもなかったらしい。


 まあ、それなら最初から隠すなよ、と愚痴りたかったが、返してくれるなら許してやろう。

 そう思いながら、聖剣の隠し場所まで案内してもらおうと待機していたら、幽霊は自分の胸をまさぐり始めて――体内から聖剣を取り出したのだった……! 


 キモッッッ!


「はい! ごめんね、少し預かってた」


「いや、え……? 何がどうなって……というか、鞘は? 鞘はどこにいった……?」


「えと、その、それは……私が鞘になっちゃったっ!」


 てへっ! とでも言いたげなウザ可愛い表情で驚愕の一言をぶつけてきた幽霊に対し、俺は顔を引き攣らせた。


 つまるところ、ドン引きである……!


「いくら死んでいるからって、そんなことを言うなんて……あたおかなの? 理性吹っ飛んじゃってる? 病院行く? 頭のお医者さん紹介してあげよっか?」


「? どういうこと……? あたおか……? 私、そのあたおかなの……?」


「だって、そうだろ……? 自分を鞘だって、ちょっと恥ずかしくも、嬉しい――そんな表情で言ってくるのは、普通に頭がおかしいと思うが?」


「え、あっ、そういうこと……!? あたおかって。頭おかしいってことだったの? やめてよ、そういうこと言うの……。コンプレックスなの……」


 と、あからさまに落ち込む様子の幽霊。


 俺は思ったことを口にしただけなのだが、傷つけてしまったようだ、とはならない。

 だって、そもそも幽霊が自分のことを鞘だって言い出したのが原因だ。


 それに、体内から聖剣を取り出す……って、もうただの幽霊でないことは確かだった。


「お前は一体、何者なんだ……?」


 俺は幽霊に正体を問うた。

 答え次第では、則――聖剣で断ち切る覚悟だ。


「私? 私はあなたのいとこ」


「……へ?」


「だから、私はあなたのお母さんの姉のお腹から生まれた、正真正銘のいとこだよ」


「いとこ? 俺と、お前が? え……? ということは、まさか……」


「うん。あなたの想像通り、私は世界に光をもたらす聖剣の勇者――その人だよ」


 幽霊はそれなりにある胸を大きく張って、俺の考えを肯定してきた。が、どうにもおかしい。


 もし、彼女が本当に勇者なのだとしたら――


「なんで、お前は幽霊なんかになっている……? 勇者は死んでも教会で蘇生されるはずだろ……?」


 ――蘇生。


 勇者に選ばれた者だけが受けられる神の恩恵。

 しかし、神は地上に干渉することができないので、聖職者の施しを受ける必要があった。

 つまり、蘇生されていない時点で、彼女は教会の人間に見放されたということになる。


「…………」


 俺は幽霊の行動に注視しながら、距離を取った。

 そして、聖剣を強く握り、攻撃の態勢に入る。

 勇者なのに蘇生されないということは、彼女自身に何らかの問題があった可能性が捨てきれないからだ。


「お前は人類の敵か、味方か――、どっちだ」


「私は……敵じゃないよ。それに、教会の人たちも敵じゃない。誰も、悪くないんだよ……」


「は……? どちらも悪くない? じゃあ、お前はなんで蘇生されてない……?」


 その問いに対し、幽霊は悲しげな表情を浮かべる。

 そして、意味ありげだった。


「まさか、お前はもう、諦めたってのか……? 人間として生きることを……」


「うん。だから、少し気になったあなたに告白をしたの。私、最後に一度でもいいから恋愛してみたくて……、それだけが心残りだったから。でも、まさか告白したのがいとこだったなんて、本当に偶然。私、さっき知ったからね、そのこと……。結局、失敗しちゃったけど……気にしないで? 一生成仏できなくても、あなたに文句は言わないから……」


「いや、ちょっと待て! 俺とお前が親戚だと知ったのはさっき……!? どうやって、その関係性を知った……!」


「あー、それはね……あなたのお母さん――マリアおばさんに教えてもらったの」


「な、なんでここで母さんの名前が出てくる……」


 もう、ワケがわからない。


 幽霊の言うことが正しいのなら、血縁関係があることを知ったのは、俺が告白を断った後のことらしい。


 そして、それを教えたのは母さんという話だ。

 しかし、それは現実的にありえない。死後の世界で話をしたとでもいうのか……?


「簡単な話だよ。あなたが持ってた聖剣に、マリアおばさんの記憶、意志が存在していたの。亡くなってからも、すべて見ていたみたいだよ?」


「聖剣の中で、母さんは生きてたってのか……?」


「う~ん、生きているというわけじゃないけど、それに近いのかな……?」


「母さんは……、俺について、何か言ってたか?」


 それが、とてつもなく気になった。理由は特にないけれど、ただ単純に気になったのだ。


「怒ってたよ、とても」


「そっか……」


 母さんらしい答えだった。だが、もうこれで疑いようはない。


 母さんは俺を見ていてくれていた……!


「どうしたの? もしかして、泣いてる……?」


「泣いてねぇよ。ただ、嬉しかっただけだ……」


「マザコン」


「やめろ! 俺は母さんが好きなだけだ!」


 全く、失礼極まりない奴だな。そこら辺の区別はしっかりしてほしい。いらぬ誤解を招いてしまうこともあるからな。


「……で、お前は今後どうするんだ? 勝手に聖剣に宿ってしまったみたいだが……?」


「う~ん、私としては……元の体に戻って、あなたと付き合いたいかな」


「まだ言ってんのかよ。俺としては、聖剣から出て行ってくれたらいいんだが……、できないんだろ?」


「うん、多分……? 上手く説明ができないけど、私の魂が聖剣そのものに憑依してしまったから。無理矢理引き剥がすようなことはできないと思う」


「……厄介なことをしてくれたな。だが、お前が聖剣から出て行ってくれないと、俺の手元に母さんの形見が戻ってこない。本当はもう関わりたくないが、お前が元の体に戻れるよう協力してやる」


「え、いいの……! ありがとう……! お礼に付き合ってあげる!」


 ぐっと顔を近づけて、興奮気味に言ってくる幽霊。顔が近すぎて、何も見えない。

 俺は顔を引き離して、思い出したかのように口を開いた。


「そういや、お前の名前聞いてなかったな。俺の名前はもう知ってんだろ?」


「知ってるけど……、あなたから直接聞きたいな?」


「はぁ? めんどくさ……! ……はぁ、俺はアーク、アーク・コルニアス。で、お前の名前は?」


「私はアイリス。アイリス・フィールっていうの。これからよろしくね、アーク」


「いきなり呼び捨てかよ。これはどちらが上なのか、ハッキリさせないといけないらしいなぁ……!」


 こうして、俺とアイリスは協力関係となった。

 この後、アイリスはハッとした表情で台所に急いで向かったが、ときすでに遅し。

 夕飯はすっかり冷め切っていた。


 ドンマイ!

お読みいただきありがとうございます!

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