1話 さよなら幽霊、また来た幽霊
初めての長編です。よろしくお願いします。
「――あなたのことが好きです。私と、付き合ってください」
何坪あるかわからない屋敷の広い庭で、日課の聖剣素振りをする俺に、恥じらいを持って愛の告白をしてきたのは黒髪ロングの清楚な美少女だった。
しかしそれに対し、俺――アーク・コルニアスは彼女いない歴=年齢の十七歳。
勿論、言うまでもなく陰キャである。
顔、身長ともに平凡で、決して嫌われる要素はないのだが、全くと言っていいほどにモテない。
そんな俺に告白してくれるような女性が世界にまだ残っていたとは、感激だな。
存外、人生まだまだ捨てたものじゃないなと思い始めた矢先のこと――、俺は信じたくもない現実を突き付けられることになった……。
何とこの女性――まさかの亡者、つまりは――幽霊だったのである。
「答えを聞かせてもらってもいい、かな? 私、本当にあなたのことが好き……! 何でもしてあげたいぐらいに、大好きなの……。だから、お願い……私と付き合って?」
「嫌だが」
頬を赤く染めて、上半身だけでモジモジとしている幽霊に、俺はキッパリと断ってあげた。
そもそも、幽霊が人間である俺に告白ってどういうこと?
幽霊は幽霊らしく、幽霊と恋愛してくれ。
それがこの世の摂理である。知らんけど。
「えっ、どうして? 私って、ほら……可愛いでしょ!? 可愛い……よね? 断る理由がないし、好物件だよ……! お料理も得意だし……!」
「いや、それ以前にお前――死んでんじゃん。その時点で、俺の恋愛対象からは外れてるんだよ」
というか、自分のことを可愛いとか言っておいて、ちょっと不安になるなよ。
後、本当に可愛いとしても、一々声に出すな。自意識過剰だと思われるぞ。
それに、俺は顔で付き合いたい人を選ぶわけではない。
――健康的な太ももで決めるのだ!
何を隠そう、俺は太ももフェチで、誰にも最高の太ももを譲るつもりはない!
……だと言うのにこの幽霊ときたら、当たり前のことであるのだが、あろうことか太ももが存在しない。
胴体から下が、煙のようなもやになっていて、非常に残念なことになっている。
だが、顔が可愛くて、胸もそこそこある、そして色白。素材としては完璧だ。
もし、そこにむっちりとした太ももがあれば文句無しだったというのに……!
ああっ、神様! なぜ、俺に苦しみを与えるような罰をお与えするのでしょう……。
「もうちょっと早く来てくれたら、土下座してでも彼女になってもらったってのに、酷い……!」
「じゃ、じゃあ……! 私が生き返ることができたら、付き合ってくれるの……?」
「生き返ることができたら、そりゃあなぁ……。でも、お前はここで終わり。悪いな――」
そう彼女に最期を伝えて――、俺は聖剣で彼女の心臓部を貫いた。
流石に生身の人間ではないから、流血することはないが、痛みはしっかりと感じるようで、顔を苦痛そうに歪めている。
「どう、して……? 私、あなたと一緒に生きたかっただけなのに…………」
「悪い。これが、俺の仕事なんだ……。それに、俺は幽霊が大嫌いだ」
悲痛そうな表情で、必死に訴えかけてくる彼女に対し、俺は言葉の追い打ちをかけた。
何も彼女のせいではない。が、流石に見過ごすことはできない。
幽霊やアンデッドの類を浄化する役割を担っている神官であるからではなく、単純に――幽霊への憎悪からだ。
奴らは俺から母さんを奪い――、親父までも変えてしまった……ッッッ!
だから、いつか悪霊に変貌してしまう幽霊は、成仏させなければならない。
そうしなければ、俺の母さんのような被害者を生んでしまう……。
しかし、それで――、少女の告白を無下にしたことが許されるわけではない。
故に、次の人生では――、
「幸せになってくれ……!」
俺は一気に聖剣を引き抜いた。
ぽっかりと開いてしまった傷口から、幽霊を幽霊たらしめているエネルギーが止めどなく溢れ出し、彼女の存在は希薄になっていく。
そして……、遂には消滅してしまうのだった。
「……もう、今日は休もう。何も、する気は起きない……」
神官であっても、人であった存在を亡き者にするのは、相当に気が滅入ってしまう。
どれだけ人型の幽霊――それも、女の幽霊を憎んでいようとも……な。
「……やって、しまった…………」
俺は自室の片隅に置かれているベッドの上で目を覚ました。
あれから、少し休むつもりでベッドに横になったのだが、羽毛布団が気持ち良すぎたのか、すっかり寝入ってしまったようだ。
窓から外を見てみれば、寝る前まではこの世を照らしていた太陽の見る影はない。
外はもう、月明かりが頼りなく照らしているだけで、闇が支配していた。
「はあ……今から、夜ご飯作るのはしんどいな……。どこかに食べに行くか……」
母親は幽霊に呪い殺され、親父は王都の教会勤め。
誰も俺に料理を作ってくれはしない。
本当は金銭的なことを考えて、外食を控えるべきなのだが、今は何もしたくなかった。
特に刃物を扱うことは極力避けたい……、そんな気持ちだ。
刃物――聖剣で幽霊を刺したときの感触が、今も両腕に残っていて、あの幽霊の苦しそうな表情を思い出したくなかった。
「…………」
俺はゆっくりと、ベッドから体を起こし、部屋から出る。
――次の瞬間、料理のいい匂いがどこからか漂ってきた。
窓は開けていないはずだから、まさか台所からか……?
「一体、誰だ? 親父が帰ってきたのか……?」
そう口にはしたものの、それはありえない。
母さんが亡くなってからというもの、ずっと家を留守にするようなクソ親父、今さら帰ってくるはずがなかった。
しかし、親父以外に屋敷に入ってこられるような存在に思い至らない。
ということは、本当に親父だというのか?
……いや、ないな。
親父に家事をするという概念はまずなかったはずだ。
すべて母さんに任せっきりで、協力すらしていなかった。
子どもだった俺ですら手伝ってたのにな。
「……確認するほかないか」
二階の隅にある俺の部屋から足音を立てずに、ゆっくりと一階の台所に向かう。
そして、正体を確認するべく、その部屋を覗いた瞬間に――俺は声を張り上げていた。
「――何でお前がここにいるッッッ! 復讐でもしに来たってのか……! かかってこい、返り討ちにしてやる……ッッッッッ!」
そう啖呵を切り――、俺はその存在から背を向けていた。
「ちょ、ちょっと……!? どこに行っちゃうの? もう夜ご飯できたよ?」
何やら後ろの方で言っているが、余裕ぶっていられるのは今だけだ。
今回も、前回みたいに終わらせてやる……!
だから、待っとけ!
俺が聖剣を持ってくるまで、そこで大人しくしてろよな……!
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