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第八十三話 消えたジーナ-1



 マーズボールの試合も終わり、『かわます亭』に集ったみんなもそれぞれお開きになろうかというころ、一人の十二、三の少年が『かわます亭』に飛び込んできた。

 こういうとき、大人たちは一様に緊張する。子供が使いにやられるというのは、ギャングがらみ以外で、何か急を要することが起きたときだ。


「グンシンのだんな、山風さんってだんなはいますか」


 少年は水をもらい、息を切らしながらそう言った。みんなが僕のほうへ振り返った。僕は少年に言った。


「何があった?」


「どうもこうも、東地区がギャングの襲撃だよ!」


 今度はそれを聞いた大人たちがざわめいた。


「ギャングの襲撃でガキをよこすってのはいったいどういうこったい」


 少年は水を飲んで一息つくと、こう言った。


「いや、襲撃はあっという間で、ものの十分もしないうちに終わったんでさ。でもやつら、団地に火をつけやがって」


「火だって?」


 僕は自分の顔から血の気が引くのを感じた。酔いは急激に醒めた。


「ギャングのやつら、開拓団全体を敵に回すつもりか!」


 男たちが怒りにかられて叫んだ。


「通路の放水銃も古くて効かないし、だんなの部屋も、並びのおれっちも火の海でさ」


 怜が僕の肩を叩いた。僕は呆然として手足に力が入らないありさまだったけど、


「亘平!」


という怜の一言で我に返った。僕が怜を見ると、怜もこちらに鋭く目配せした。ジーナの件だとすぐに分かった。呆然としている暇などない。一刻を争うのだ。

 僕が珠々さんの方を振り返ると、珠々さんも心配そうにこちらを見ていた。僕は鳴子さんたちに言った。


「珠々さんをよろしくお願いします。」


 それで、僕と怜は『かわます亭』を出ると、東地区までひと息に走った。団地が近づくと、せまい通路には人があふれており、黒い煙が鋼鉄のドームに立ち上っていた。

 通路の中ほどで、隣のおかみさんが服を顔に押し当てて泣いていた。放水銃はようやく作動したらしく、僕の部屋に向かって水が放たれていた。


「ひでえ煙だ」


 誰かが咳き込みながらそうつぶやいた。そこから先は換気が悪く、煙たかったので、僕たちは肘で口を押えて、煙を吸い込まないようにしながら進むしかなかった。ジーナが無事か、気が気じゃなかった。

 誰かが


「山風さんが帰ってきたぞ!」


と叫ぶと、放水銃の水が止まった。もう火はほとんど消えていた。

怜と僕はすすでほとんど真っ黒になった部屋にようやくたどり着くと、他の住人が止めるのも聞かずに中に入った。怜はマスク代わりにブラウスの袖を割いて僕にくれると、他の人間が入らない見張りをかって出てくれた。

 マスクのおかげで呼吸はできたけれど、目が痛かった。開拓団のアパートはほとんど鋼鉄でできている。こんなに真っ黒に燃えるはずがなかった。誰かが燃料を撒いたのだ。部屋の中は真っ黒で、耐熱ではない隔壁は溶けてゆがんでいた。

 部屋の中に、ジーナの気配はなかった。


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