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第八十二話 楽しいひととき-2

 珠々さんは怜をじっと上から下までうるんだ瞳で見つめた。顔がほんのり赤く、ちょっと酔いが回ってきたようで、僕は少し心配になった。


「私は世間知らずかしれませんけど、怜さんのようなきれいな方だって危険な場所を出歩いたりしたらいけませんわ。私が恋人なら心配します」


 怜はそれを聞いたとたんにすこぶる上機嫌になって、両手を広げた。何をするつもりかと思ったら、珠々さんをハグして投げキスまでしている。


「ね、聞いた、聞いた? 珠々さんってわかってる……!」


 そして笑いながら僕を片目でにらむと、憎たらし気にこう付け加えた。


「亘平にはもったいないわ。ね、珠々さん他になんか飲みたいものある?」


 それを聞いて、珠々さんは怜に向きなおり、グラスをテーブルに乱暴に置いた。


「怜さん!」


 これには思わず怜も少し驚いた様子で、たじたじで返事を返した。


「はい」


「怜さん。亘平さんには(もうすでに珠々さんは酔いが回って僕を亘平さんと呼び始めていた)、好きな人がいます」


「はい」


 鳴子さんは眼を見開き、僕は慌てふためき、仁さんは気配をけして一人でグラスを傾けていた。


「つまり、わたくしと、亘平さんは、お付き合いは、しておりません」


 珠々さんがろれつの回らない口調でそう言ったので、僕はほっと胸をなでおろした。鳴子さんが僕の袖を引っ張って耳打ちした。


「さっきまでけろっとしていたのに、急激に酔う体質かい……。こりゃ、安全とは別にお目付け役が必要だね、このお嬢さんは……」


 それを聞いていた仁さんがグラスをちびちび傾けながらこう言った。


「恋敵が目の前じゃあね……。酒でも飲まないとやってられないこともあるさ」


 鳴子さんはそれを聞いて仁さんをまじまじと見て、僕をみて、そして黙った。鳴子さんは何を思ったのか珠々さん以外の全員に酒を継ぎ足して回って、みんないつもより飲むことになった。

 やがて遥さんも到着したけれど、そのころにはみんなかなり酔いが回っていた。遥さんは僕たちをあきれたように見回した。


「え、どうしたんだい。鳴子に仁に、このお嬢さんはこのあいだ見たね、それから怜までずいぶん出来上がっちまって……」


 マーズボールの試合がはじまって、周囲も盛り上がっていた。開拓団の常連が


「今日はおれ、この別嬪さんのために『火星世代』チームを応援するよ」


と珠々さんに近づこうとして仁さんや怜に怒られたり、珠々さんが怜と一緒に鳴子さんに占いを頼んで、お互いの結果を耳打ちして子供のように喜んでいたり。


 その日はほんとうに夢のように楽しかった。

 あの知らせが『かわます亭』に飛び込んでくるまでは。


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