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第七十八話 予感-1

 ジーナのいなかったころ。怜と出会わなかったころ。

 僕はただ何も考えず、あの第五ポートのコンドミニアムで、たった独りで同じように天井を見上げていた。だけど、自分が独りだとも気が付かなかった。まるで卵の殻から出たことがない小鳥の雛のように。

 僕はジーナの背中を撫でた。


「僕は何があってもジーナを守るよ」


 ジーナは小さくゴロゴロ言いはじめて、その丸っこい前足でぎゅっと僕の服をつかんだ。そしてジーナは頭を動かして僕の手を探すと、手のひらに頭を突っ込んで寝てしまった。

 僕はなるべくその手を動かさないようにして、いつまでも天井を見上げていた。


***


「引っ越し先には慣れましたか?」


 珠々さんは僕に『開拓団』地域の労働者名簿を持ってきて言った。珠々さんはオテロウに言われて僕の仕事を手伝ってくれていたけれど、とても有能だった。

 こちらが欲しそうなデータはあらかじめ用意しているし、この件で余計な詮索を入れてくる人間も、うまく角が立たないようにあしらってくれていた。


「まあ……慣れましたよ」


 僕がそういうと、珠々さんは僕の顔をじっと見てこう言った。


「山風さん、眠れてます? さいきん顔色が悪いみたい。ネコカインの増量を頼んだら……」


「いや、大丈夫です。ここのところ、家でもデータをまとめていたので、たぶんそのせいだと」


 珠々さんはちょっと非難めいた、心配げなまなざしをこちらに向けた。けれど、それ以上は何も言わなかった。

 正直言うと、あの怜との会話から、僕はよく眠れていなかった。午後にはオテロウとの会議が入っていたけれど、実際の企画はほとんど進んでいなかった。

 フェライトコアの需要に関しては珠々さんがかなりの点で予測データを集めてくれていたけれど、では実際にどの種類のフェライトがどれだけ必要かはまだ分からなかった。

 それによって微量金属の必要量も違ってくるし、コストも違ってきた。だから、生産部門の現場の人間としっかり話し合わなくてはならなかった。

 

 『開拓団』の従業員名簿を検索すると、担当者の名前は池田一重と書かれていた。僕よりかなり年上で、おそらく現場の人間に信頼されている人物なのだろう、そこの部署は人員の変化が他の部署に比べればほとんどなかった。

 

 午後から僕はオテロウに会わなくてはならなかったけれど、しばらくその部署に入れてもらうよう頼んでみるつもりだった。だけどこれは仕事のためというより、オテロウとの会議をなるべく少なくするためだった。長く喋ればボロが出る。

 ジーナの安全のためにとにかくオテロウとの接点をできる限り少なくしたかったのだ。


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