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第七十七話 ジーナと怜と-3

「……まあちょっとポケットにキャットニップボールは入ってるけど。遥さんって器用だね……翻訳機まで作れるなんて!」


 そういうと、お土産に持ってきたらしいキャットニップボールを後ろのポケットから取り出すとテーブルの上に転がした。キャットニップは『センター』から猫の配給がある家庭ぐらいしか購入することができない。いったい、どうやって手に入れたというのだろう……。 

 怜のやることなすことまるで手品だった。ジーナはゴロゴロ言いながら怜を見上げていた。この間まで怜が嫌いって言ってたじゃないか! でもその満足そうな顔に、僕は思わず気の抜けた笑いを浮かべてしまった。


 でも次の瞬間には、怜はきびしい顔をしていた。そしてジーナを優しくなでながらこう言った。


「ジーナの安全を考えるなら……。私たちのところへよこす手もあるわ……」


 僕はちょっと意味が分からず怜をしばらく見つめていた。


「『開拓団』ではなく、『はじめの人たち』に……?」


 僕がそういうと、ジーナがふっと目を開けて、僕の顔を見た。怜も僕を見つめていた。


「……僕は……」


「……ジーナの安全は約束する」


 僕はなんとなく、怜の考えていることが手に取るように分かった。


「もうジーナとも、怜とも会えないということだね」


 僕がそういうと、怜は僕の方を見ないで黙っていた。でもそれは、否定をしないという同意だった。怜の中に、あたりまえだけど僕ともう会わない選択肢があったことに僕は苦しくなった。

 だけどこれは、怜と僕だけの話ではなくて、ジーナのための重要な選択肢でもある。僕はつとめて冷静に考えようとした。


「ジーナがそれで幸せに暮らせるなら……。でも、ひとつだけ教えてほしい、怜。もし知っているならだけど、ジーナは『センター』の猫ではないよね。『はじめの人たち』がよく知っている猫なのかい……?」


 怜は僕の目をじっと見つめ、一回だけ瞬きをした。何も言葉は発しない。でも、それは知っているという意味だった。怜は言った。


「私はジーナがどうしてここにいるのかは知らない。でも、亘平、ジーナを『センター』にやってはダメ。『開拓団』にいてもいけない。だからよく考えて」


 その夜、僕はまったく眠れなかった。ジーナは翻訳機をはずしたまま、僕のお腹の上に寝ていた。


「ジーナ、いったいどう思う?」


 僕は開拓団のアパートの古い天井を見ながら言った。ジーナの扱い方ひとつ見ても、怜が猫を僕よりもよく知っているのは確かだった。


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