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第七十六話 ジーナと怜と-2

僕:亘平こうへい猫のジーナを秘密で飼っている。

とき:僕の惚れてる女性。

「僕は……もしこのプロジェクトをうまくやり過ごせたら……。いまエウロパで技術者を募集しているらしい」


 怜は言った。


「ジーナはお日さまが大好きなのに……?」


 エウロパは木星の衛星で、いまは実験的なコロニーが作られていたが、居住する場所としてはかなり快適な方だった。ただ、地球や火星に比べれば日光がごくわずかしか届かなかった。

 ほんとうはどうするなんて、はっきりした考えはなかった。ただ、ジーナがうちに来てからずっと火星を離れることは考えていて、求人はずっと見ていたのだ。でもたぶん、それは夢物語に過ぎなかった。怜だってそう思ったはずだ。

 僕は、耳だけこちらをうかがっているジーナを見ながらこう言った。


「『センター』が何を考えているかわからない」


 怜は短くため息をついた。


「ジーナを『センター』にやるのは絶対に嫌なのね。けれど亘平が思うほど『センター』は甘くないわ。ジーナを隠し続けるのは至難の業」


「僕に何かあったら『開拓団』に……」


 そこで、僕は目を疑うような光景を目にした。ジーナの耳があり得ない方向に向いたので、僕は思わず腰を浮かせてテーブル越しにジーナをのぞき込んだ。そして気が付いたんだ。ジーナはいつの間にか怜の膝の上にいた!


「『開拓団に』……?」


 怜は何事もなかったかのようにジーナを撫でながら言った。


「ジーナ……え? ジーナ?」


 僕は何を言うつもりだったか完全に忘れてジーナと怜を交互に見た。


「自分から膝に来たわよ。猫がいちばん安心する存在って知ってる……?」


 怜はジーナの首をそっと探ると、指で翻訳機の留め金を外した。そして、翻訳機をテーブルの上に置いた。


「ジーナはこんなものなくったって、人間に気持ちを伝えることができるわ」


 そして僕を笑顔で見た。


「気持ちを伝えるのが下手なのは人間の方だと思わない?」


 深読みしてはいけない言葉だろうけど僕の心臓はズキっとした。怜は翻訳機を手に取ると、興味深そうに見ながらこう続けた。


「猫はね、自分に興味がない人間に安心するのよ。もっと言うなら、自分のことを無視してくれる人。敵ではないし、自分の甘えたいときだけ近づくことができる。意外とシャイなのよ、猫って……」


 だからジーナのすることをすべて無視していたのか! と僕はいまさら気が付いた。僕はあんぐりと口を開けて、どすんと自分の椅子に腰を下ろした。

 けれど急に怜の手品が疑わしくなって、何か仕掛けはないか怜を隅々まで観察した。僕があまりにしつこく疑いのまなざしを向けたので、怜は自分の手の内を白状した。


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