第八話 火星開拓団の話-1
いまの僕の状況を君にわかってもらうためには、火星の歴史の話からはじめなきゃならない。
ええと……君はいつの人なんだっけ……そうだ、21世紀だ。
21世紀……そう、そうだ。アメリカという国がまだあったね?
前後、100年ほど地球を支配していた国だ。
アメリカがどうなったかって……?
アメリカはもうないよ。アメリカどころか、地球上のすべての国がもう無くなっている。そして、もう戦争がなくなってから300年は経つ。
何が起きたかって?……ネコカインがすべての人間にいきわたったのさ。
センターのいう、『平和の象徴』がね。
僕たちは、宇宙猫同盟によって【人類の醜悪】というのを教育されている。
猫たちが人類を支配するようになるまで、人間たちは戦争をやめることができなかった。けれど、ネコカインを摂取するようになってから、人間は猫のために尽くすことだけを考えるようになった。
人間は争うことを忘れ、猫のために勤勉にはたらき、寸暇を惜しんで猫と寝るようになった。
最後の戦争は月の自治を求める戦争だったけれど、結局はネコカインを受け入れて自治派はセンターに降参した。
人間は猫によって戦争から救われた。
これがセンターによって人間に最初に教え込まれることさ。
そう……で、火星の話だ。
火星も月ほどではないけれど、センターとはいろいろと問題があった。
21世紀にはたしかもう、探査船は出ているんだよね? 有人ではなかったと思うけれど、とにかくそれが人類が火星に住むための最初の一歩だった。
ところで、マーズローバー(NASAの火星無人探査機)はまだ火星のミュージアムに飾ってあるよ。火星の子はみんなそこに見学に行くんだ。
23世紀には、はじめて大規模な開拓団が火星に到着する。
実はその前にも開拓団を乗せた船が火星に向かったんだけどね……。
まあ、その話はしないようにしよう。ちょっとだけ関係があるとすれば、最初の船には犬たちがたくさん乗せられていた。
しかしそれは火星には到着しなかった。
そして、23世紀の最初の開拓団の船には、猫がたくさん乗っていた。
開拓団はどんな人たちだったかって……?
犯罪者? 弾圧された人々……?
いいや、まったく違うよ。その正反対だ。
ちなみに数千年のときを経て、火星ではなく白鳥座21番星が「犬の惑星」になった。
ちなみにアメリカの地球支配は第二次世界大戦の武器貸与法の荒稼ぎぐらいから100年ぐらいと換算してね