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第七十二話 ストリート・シーン-1

 遥さんはどうやら、僕のそんな精神状態を見抜いていた。それで僕にこう言ったんだ。


「亘平……あんた何をやらかしたんだか知らないが、いくらヘボやったって『火星世代』が『開拓団』地域に追いやられるなんて聞いたことがないよ……」


 遥さんはたぶん、僕が会社で大変なミスをやってここにきたと思っていたらしかった。僕は言った。


「僕はとにかくジーナと普通に暮らせればどこでもいいよ」


 遥さんは言った。


「ジーナは猫なんだよ、亘平。いくら家族でも、人間じゃないんだ。ジーナを『センター』に返す気はないのかい……?」


 僕は首を振った。ジーナは『センター』の猫たちとは明らかに違う。ジーナのような猫が他にいたという話も聞かない。遥さんだってそれは分っているはずだ。

 自分でも笑ってしまうけれど、そのころのいちばんの愉しみは誰も知らない土地で怜とジーナとの暮らしを夢想をすることだった。

 

 『開拓団』のコンパートメントは、古い鋼鉄都市の枠組みを残すもので、決して住み心地のいいものではなかった。計算外だったのは、『開拓団』が『火星世代』のように他人に無関心じゃないということだ。

 鳴子さんから言われていたのは、引っ越したら隣の人間には挨拶するように、ということだった。僕は引っ越した日に左右の部屋の人たちにあいさつした。左側は不愛想な青年が入居していて挨拶は簡単に済んだ。右側は中年の夫婦が入っていた。


「何もわざわざ『開拓団』地域に住まなくったって……ねえ、あんた」


 人の良さそうな夫婦のおかみさんがそういうと、旦那さんの方は僕を怪訝そうな目で上から下まで眺めまわした。


「あんたが新しい『火星世代』の監督さんかい? こっちは家に帰ってまで監視されてるみたいでやってらんねぇなあ」


 僕が監督ではありませんよ、ただの平社員です、というとますますじっと見てやがて首を振った。


「会社の考えることは俺らにゃさっぱりわからねえや。ともかく、ご近所さんなら言っとくがその『火星世代』の格好はできるだけやめたがいいぜ。ギャングの格好の獲物になるぜ若いの」


 コンパートメントは狭い通路でつながっていて、ドアから顔を出せばすぐに向かいに突き当たる、という具合だった。通気口は古くて、どこか空気が澱んでいた。通路はところどころ錆びかけていた。そして子供たちがその通路で遊び、どこからか誰かの『おかみさん』が顔を出して、また別の部屋の『おかみさん』に挨拶したりするのだ。


 たぶん、となりの人の良さそうな『おかみさん』が僕について何か言ったのだろう。そういう人たちの情報網で、僕はあっという間に注目の的になった。


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