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第七十一話 一人ぼっちの僕と怜

僕:亘平こうへい 火星の鉱物採掘会社に勤めている。平凡な社員がまったくのデタラメ企画がなぜか『センター』に注目され大抜擢。『センター』に秘密で猫のジーナを飼っている。

ジーナ:僕の飼っている猫。

はるかさん:『開拓団』のエンジニアでジーナをよくジャンクヤードで遊ばせてくれる。

とき:僕の惚れてる女性。『はじめの人たち』

 それから数日後にはもう僕の家は『開拓団』地域にあった。治安がどんどんわるくなっている頃だったので、僕が引っ越してきたことに鳴子さんも遥さんもあきれていた。

 新しい家は第四ポートからそう遠くない、けれど『かわます亭』からは反対側に離れた地域で、会社の工夫たちが住んでいる地域にあった。広くはないというか……単身者用の前の家よりはずいぶん狭くなった。それでも、ジーナが暮らした痕跡を消すためにほとんど家具を捨てていたから、がらんとしたものだったけれどね。

 

 引っ越しのあいだ、ジーナは遥さんの家にあずけていた。そして引っ越してからも前の家に比べれば狭いのでジーナが遥さんのところで過ごすことは格段に長くなった。だって、家具もなにもないところで留守番させるなんてちょっとかわいそうじゃないか。

 

 そして僕は自分の頭を全力で回転させなければならなかった。

 ジーナとの暮らしを守るためには、とにかくフェライトコアの計画は進んでいるように『見せる』必要があった。どのみちフェライトコアは『開拓団』にとっていい選択肢になるだろう。


 問題はおそらく……フェライトコアの開発だけでは僕は『足抜け』を許されないだろうということだ。ということは、開発はなるべくゆっくり、けれども『センター』を怒らせない程度ののろさで進めなくてはいけない。

 

 そして『センター』はたぶん僕に『開拓団』に関する情報を流すように要求してくるだろう。『開拓団』を併合するというのは、たぶん『センター』の支配を強めるためだ。何のために……? 

 僕は自分の回らない頭を呪いながら、何度も何度も自分に問いかけた。……いったい何のために……? 

 ともかく、僕に何かあったら、ジーナは『開拓団』にまかせるしかない。ジーナがいる以上は、『センター』の言うなりになるわけにはいかなかった。

 

 子供のころ、僕は『はじめの人たち』は火星に逃げた裏切り者であると教えられた。もしあのとき、友達に怜の言ったことを教えたらなんと言われたろう? 『センター』は嘘つきかもしれないと言ったら? 誰が、何のために地球温暖化でもうすでにめちゃくちゃだった地球に核戦争を起こしたのか?


 もしそんな話をしたら、僕は『火星世代』にはもう入れなくなったろう。いや、今だって。もし同級生たちにこんな話をしたら信じてもらえるだろうか……? もしかしたら、一人だけは信じてくれたかもしれない。あの『消えて』しまった同級生なら。

 僕は完全に孤独だった。これはもう、前みたいな精神的な意味じゃない。生存をかけた意味で味方がいなかった。完全なひとりだ。汗がにじんでくるような、じりじりするような孤立だった。


 でも僕は、もうひとり自分と同じように一人ぼっちの人間を知っていた。

 ……ときだ。彼女も焼けつくような孤独を背負っていた。僕はこの状況になってはじめてそれが理解できた。

 怜の瞳の光は、ずっとそれを見つめてきた強さだ。僕はたとえ殺されると知ったって怜に嘘はつけないだろう。


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