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第七十話 こねこのオテロウ

「プロジェクト始動ですわね」


 珠々さんが少し青ざめた顔で、それでも笑顔を作ってそう言った。僕も笑顔を作ってそれに頷いた。オテロウはまた冷たい表情に戻り、


「何か質問はありますか」


と聞いた。僕はしばらく言うか言うまいか迷った後、どうしても聞きたくなってこう言った。(オテロウの子猫時代のことがどうしても気になったのだ)


「……オテロウさんは、地球のお生まれですか」


「火星ですよ。そうは見えませんか?」


 オテロウは少し僕の方を見た。


「いえ……それじゃ、ドームにいたことがあるんですね。うらやましい」


「昔のことです。しばらく地球にいたこともある」


 地球……。オテロウはいったい何歳なのだろう、と僕は思った。『センター』の猫は人間と同じぐらいの寿命があると聞いたからだ。もしかしたら僕よりも年上なのかもしれない。


「どんなご家族でしたか……?」


 僕がそういうと、オテロウの目が鋭く光った。


「家族……? 我々(猫)のことですか……?」


 僕はオテロウの冷たい雰囲気に言いよどんだ。一緒に暮らした人間は家族とは言わないのだろうか? 『センター』ではそうなのかもしれない。


「いえ、オテロウさんと暮らした人たちのことです……」


 オテロウの尻尾が何度か鞭打つようにモビールの上を行き来した。


「面白い質問だ。とてもいい人たちでしたよ。私はそこで人間というものを学んだ。彼らはとても愛情深く私を育てました。あまりに昔だからよくは覚えていないが。……なぜそんなことを?」


 僕はわざと鈍感なふりをしてさらに踏み込んだ。


「その……さびしくありませんでしたか? 『センター』に行くときには」


 オテロウの尻尾が大きく波打って、ただいちど、モビールの上をぴしりと音をたてて打った。


「何も知らない子猫の時分でね。『センター』での正式の教育を受ける前の猫は猫と呼べるかどうか? ……ともかく昔のことでよく覚えてはいない。山風さんの疑問の答えにはならないが」


 僕はここが引きどきだと判断してこう言った。


「いえ、僕は本当に平凡な家庭で育ったので……。今回、オテロウさんのような『センター』のVIPとはじめて話すことができました。くだらない質問をしてすみません……」


「私はごく普通の『センター』の猫ですよ。いうなれば、『センター』にVIP以外はいないのです」


 ぴんと張り詰めた雰囲気に、珠々(すず)さんがすかさず助け舟を出してくれた。


「山風さんは、『ドームの夢』がおありになるんだそうですよ。山風さんはそこでオテロウさんのような方を育てるには、とお思いになったのですわ」


 オテロウは冷たい目で僕と珠々さんを見てこう言った。


「山風さんはドームで子猫と暮らさなくても、もうじゅうぶん忠誠度スコアは高い。いぜん我々(猫)と暮らされていたことは……?」


 僕は内心びくびくしながら笑ってこう答えた。


「実はドームで暮らしている同級生のところによく遊びに行きました。そのときから僕には『ドームの夢』があるんですよ」


 オテロウも皮肉な笑い声を返した。猫が笑うなんて! と僕は思ったけれど、表情は変えないように努力した。


「もちろん『センター』はお望みならドームに永住権を与えることもできますが、山風さん? 我々の子供たちを配給されたいなら、それも手配しましょう」


 僕はほんの一瞬、ほんの一瞬だけドームでジーナと暮らす夢を見たけれど、次の瞬間にはその危険すぎる夢を打ち消すように首を振った。


「いえ、いまはむしろ開拓団地域のほうに居を構えたいと思います。そちらの方がなにかとプロジェクトにも便利ですから」


 オテロウは平たい声でこう答えた。


「必要なものは手配させましょう。冠城かぶらぎさん、しばらく彼の方について手伝ってあげてください」


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