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第六十九話 肉球を触るまで出られない部屋-3

僕:山風やまかぜ亘平こうへい 火星の平凡なサラリーマン。『センター』に秘密で猫のジーナを飼っている。

オテロウ:『センター』から来た猫。

とき:僕の惚れている女性。『はじめの人々』

珠々(すず)さん:会社の資料室で出会った可愛い女性。『センター』付き部署のエリート。


『地球』。火星の『センター』とは別格のこの世界の中枢。人類を生んだ星でありながら、火星の人間にはほとんどその実態は隠されている。『地球』はほとんど『センター』と同義語だ。

 火星の人間ならみんな、『地球』に行きたいと思っている。それは強烈な思慕だ。けれど、それは人生にいちど許されるかどうかで、すべての日程も決められたコースで回るだけだ。それが、昨日までただの平社員だった僕が、渡航権を許されるだって……?


「オテロウさん、よくわかりませんが、なぜ僕が……」


 オテロウは目を細めた。ほとんど喉がなるほどの低い声がする。


「山風さん、『センター』は人間の『本質』を見るのです。それにはあなたがいままでいた場所も、やってきたことも関係ない。あなたはもう我々の家族です。『センター』は我々(猫)に対する忠誠心を数値化することができる。あなたは我々の家族としてふさわしい人間であり、我々はあなたを受け入れることを決めた。それがあなたの知りたいことですか?」


 僕はオテロウの目を見た。緑色の目は翡翠のように無機質で、つめたく僕を見つめ返していた。僕はたぶん、オテロウにとってなんでもない存在だろう。

 僕はなんとなく、この話を断ることはおそらくもうできず、この計画に参加することによってしか、この部屋を出ることすら叶わないのだな、と理解した。

 僕が消されるのは仕方ないとして、ジーナはどうなる? 怜とはもう会えないだろう。 そして、いまここで話を聞いてしまった珠々さんは?

 

「心根にみあった知恵と腕前があってこそ、本当の勇気ってもんだよ」


 鳴子さんの言葉が僕の頭にこだました。


「鳴子さん、ごめんよ。僕はたぶんいま必要な本当の勇気が足りない男かもしれない。でも他の道はもうないみたいなんだ」


僕は頭の中の鳴子さんにそう答えた。僕は腹を据えると、オテロウに言った。


「オテロウさん、光栄です。いつか僕の忠誠心が認められることを信じていました」


 オテロウはそれを聞いてはじめて満足そうに眼をつぶり、喉を鳴らしながら前足を僕の方に差し出した。僕はしばらく考えて、それが握手だと思いついて、自分も右手を差し出してそれを握った。

 それは柔らかい肉球だった。オテロウはすぐに前足をふりながら引っ込めた。僕ははじめてオテロウも猫なのだな、と感じた。


猫の肉球の香ばしさは異常。



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