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第六十八話 肉球を触るまで出られない部屋-2

 その一言で、役員の雰囲気が変わった。珠々さんも驚いた表情で、僕とオテロウを見つめていた。


「山風さん、ここからは私とあなたとで話しましょう。センターの考えはプロジェクトにかかわる人間以外には明かせません」


 珠々さんはそれを聞くと、筆頭役員に歩み寄って何ごとかを耳打ちした。筆頭役員はうなずくと、他の役員たちを見回し、退出を促した。そして彼自身も部屋をあとにした。

珠々さんはみんなが出たのを見計らって、オテロウにこう言った。


「わたくしは同席してもよろしいでしょうか」


 それは毅然とした声で、同席したいという意思表明だった。オテロウはかすかにうなずいて言った。


「もちろん君はいてくれてかまわないよ」


 けれど僕のこころはそれどころじゃなかった。オテロウの言う計画のことが気になってしょうがなかったのだ。僕は自分の体がこわばるのを感じた。はじめて経験する、本能的な緊張だ。僕は言った。


「開拓団を併合するというと……」


 オテロウは言った。


「『センター』は火星のリソースをすべて一元管理したいと考えています。火星は確かに鉱物は豊富にとれるが、そのほかの資源が豊富なわけではありません。山風さん、あなたは開拓団地域によく行かれるからご存知でしょう。常に……形あるものは崩れようとします、常にです」


 僕はオテロウの言おうとしていることを理解しようとしたが、よくわからなかった。オテロウはまるで数千年前の地球文明の遺物のようだった。すっとのびた背筋に長くそろえられた前足。神秘的な緑色の目は常に半分閉じられ、僕たちを睥睨へいげいしていた。

 生まれながらの哲学者といった風貌からは、やはり子猫時代はどうしても想像ができなかった。

 僕がどうやらじろじろオテロウを見ていたのか、オテロウはふと僕の方に目を見開いた。


「あなたはどうやら好奇心の強い人だ、山風さん」


 オテロウは僕を見ながらそう言った。緑色の目に翻訳機の翡翠色の飾りがよく似合っていた。ジーナはの金色の目はあんなに表情が豊かなのに、オテロウの目からは何の感情も読み取れなかった。


「オテロウ……さん、開拓団地域はまだ火星世代とは全く別の暮らしをしています。それに、自主独立の気風がある」


 僕がそういうと、オテロウは僕を見つめて言った。


「そうです、だからこそこのプロジェクトに意味がある。山風さん、あなたはこのプロジェクトで、『地球』への渡航権利も与えられます。わかりますね」


 珠々さんの顔が青くなっていた。『センター』にかかわるものにはそれなりの権利が生まれる。そして、そこに生まれるのは権利だけではない。僕は、怜に突き付けられた刃の冷たさと同じものを、いまオテロウから突き付けられていた。


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