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第六十七話 肉球を触るまで出られない部屋-1

 『センター』からやってきたオテロウは相変わらず大きく美しい猫だった。僕が『センター』部署に入っていったとき、オテロウは会議室のいちばん奥で、センター用モビールの上から僕を見下ろしていた。(センター用モビールというのは、猫の移動に使われるもので、だいたい立った人間と同じくらいの目線になるように作られているんだ)

 

 その灰色の毛並みはつやつやしていて、まるで水にぬれた鋼鉄の色だった。首もとには灰色の毛並みに映える、金色のバンドで翡翠色の飾り石のついた翻訳機が輝いていた。珠々さんはオテロウのとなりについていた。


 僕は珠々さんに笑顔で挨拶したけれど、珠々さんは僕と目が合うと、不思議とちょっと哀しそうな目をした。

 珠々さんのとなりのオテロウは、僕にむかってゆっくりと瞬きした。僕もゆっくり瞬きしてそれに返事をした。(猫同士の、敵意がないことを確かめる挨拶だけど、たぶんこの場合は『はじめまして』の意味だね)


 僕はオテロウの前で企画の説明をしているときも、それほど緊張することはなかった。ジーナで慣れているからかな……。他の役員たちはみんなカチコチになって緊張していた。

僕がまだこの企画は開拓団の需要がつかみ切れていないということを説明すると、オテロウは何かを考えるように目を細めた。


「山風さん、このプロジェクトは『センター』も注目しています。なぜなら、我々は近いうちに『犬』を3000万台生産しなくてはならない。そして、『開拓団』地域と、『火星世代』地域は統合されなくてはならない」


 オテロウは低い声でそう言った。


「つまり、『開拓団』地域の電力不足は解消されねばならない、ということですね、オテロウ」

珠々さんがそう続けると、オテロウはゆっくりとうなずいた。僕は内心、はじめて聞く計画に驚いていた。『開拓団』地域と『火星世代』地域の統合だって? いったい、火星の人々のしらないところで何が計画されているのだろう。


「『犬』製造のために、我々は、地球政府からイリジウムの増産を任されています。その副産物を有効利用することに『センター』はとても乗り気だ」


 オテロウはうっすらと目を開けながらそう言った。ジーナとはまるで違う話し方。僕はほんとうにオテロウとジーナは同じ猫だろうか、といぶかしんだ。僕は言った。


「それじゃあ、もうこの計画は進むということですか」


「採算の問題はあとの話です。『センター』が開拓団地域の併合を決めた以上、フェライトコアのみならず、電力問題を解決するプロジェクトは完遂されねばならない。そのための人材をあなたにつけましょう、山風さん」


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