第七話 僕にネコカインが支給されないわけ-終
僕は、ジーナと自分の家に帰った。その時にはジーナは少し元気になって、ミイミイ鳴き始めていたよ。
自動タクシーにその音を録音されないかひやひやしていたから、家までの道はひどく長く感じた。
家にたどり着くと、今度はジーナのための買い物に大急ぎで出た。
医者の指示通り、ペットショップでイタチ用のご飯を仕入れ、小さめの衣類かごを買った。それに「シリカゲル」というのを入れれば、ジーナのトイレになるんだそうだ。
僕はそのイタチのごはんをお湯でふやかすと、医者からもらった栄養剤のカプセルを少し混ぜた。
それを皿に少し入れてジーナの前に持って行ったけれど、ジーナは少し舐めただけで興味を失ってしまった。
後から知ったんだけど、子猫は鼻が利かないとごはんを食べないんだそうだね。
ジーナは目はパッチリしていたけど、鼻はまだ良くなかったんだろう。結局、その日はまったく食欲がないようだった。
翌日、僕は会社を休んだ。だって、ごはんも食べないジーナをほっておけないじゃないか。
僕はまたあの占い師を頼った。僕が顔を見せると、とたんに占い師は表情を曇らせた。
僕はまた厄介ごとを持ち込んで申し訳なく思ったけれど、そういうことじゃなかった。
『シャデルナ』の女主人は、ジーナのことを心配していたんだ。僕が現れて、ジーナに何かあったんじゃないかと思ったらしい。
僕がジーナがごはんを食べないことを伝えると、女主人は僕の家の住所を聞いて、今日の夜まで待つように言った。
今回も彼女が受け取ったのはたったの3マーズだった。
……その夜、何が家に届いたと思う?
それはもうぼろぼろの紙の本さ。
表紙には『かわいいこねこの育て方』って書かれていた。500年も前にすたれた紙の本を、どうやって彼女が手に入れたのかは想像もできなかった。
だけど、それが長いあいだ使われてきたというのは、そのボロボロさからわかった。
僕はその本に書かれていたとおり、ふやかしたご飯を温めて、少しミルクを混ぜてスプーンでジーナの鼻先に持って行った。ジーナはそれでも食べようとしなかったので、少しだけ鼻の上にのせてやった。
ジーナは嫌がるように顔をしかめると、小さな舌で鼻をぺろりと舐めた。
それで、ジーナはそれがご飯だとようやくわかったんだ。
ジーナはちょっとスプーンに興味を持って、その日は二さじぐらい食べたかな。
そして、翌日はお皿の中に顔を突っ込んっでいたよ。顔じゅう、ご飯だらけにしてね。
そしてその翌日、僕は『子猫』を『ジーナ』と名付けた。
なぜジーナかって?
あらためて説明すると恥ずかしいな……。3020年には、みんな知っている童話があるんだよ。
「こねこのジーナ」って話がね。
人間のことばを初めて話すようになった猫の話さ。
まあ、とりあえず、それが僕とジーナが家族になったいきさつさ。
そして、僕は予想もできないことに巻き込まれていった。
いま、僕はセンターから逃げ回っている。それが僕がネコカインを支給されないわけさ。
ごめん、紙の本がたまらなく好き。