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第六十六話 猫は生まれてどこどこいくの

僕:亘平こうへい 火星の平凡なサラリーマン。 『センター』に秘密で猫を飼っている。

ジーナ:僕の飼っている猫。でもちょっぴり『センター』の猫と違う。


***



 僕はその日、家に帰ると、ジーナを思いきり抱きしめた。ジーナはさいきん、抱きあげられるときに自分から背伸びするようになったんだよ。

 以前、ジーナはサバトラのふとっちょさんだと言ったろ? ジーナがそれを聞いたら怒るからちょっと付け加えると、ジーナは体重的にはそれほど太ってはいない。ただ、毛が長いからそれはそれは真ん丸に見える。

 しかも、手足が『センター』の猫に比べるとちょっと短いと思うね……。だから、ジーナが一生懸命、そのみじかい足をのばして背伸びをすると、それはそれは可愛いんだ。

 僕は抱きあげて、そのままモフモフのお腹に顔を突っ込んで、天然のネコカインを吸う。ああ、家に帰ってきたと思う。まあ、それは配給のネコカインが薄かろうと僕が気づかないはずだよね。ジーナから補給しているんだから。

 僕が夢の中で泣いてから、ジーナはよく僕の顔をなめてくれるようになった。僕はあの夢の声をもういちど聞きたいと思うのだけれど、それは怜の声に似ているようでもあり、別の人のようでもあった。

……それと、ジーナは気に食わないことがあると手を僕の口の中に突っ込んでくるんだけれど、あれは何なんだろうね……。

 

 そうだ、僕のジーナはもう七才になろうとしていた。僕の大切な家族は、もし『センター』の子猫だったなら、もう別れなければならない年齢だった。

 僕はよくあの『消えてしまった』友達を思い出すようになっていた。いまなら、彼と家族の気持ちが痛いほどわかる。ジーナと別れなくちゃいけなくなったら。

 

 だけど、僕の大切なジーナは『センター』の猫とは明らかに違う。彼らと違って、毛がとても長い。それに、地上の日の光を直に浴びても平気だ。そして、ちょっと言葉がつたない。けれど、そんな言葉よりずっと豊かな『心のことば』をもっている。そのくるくると変わる金色の目だね。


「ジーナ、おまえ、本当はどこから来たんだい? どうして僕のところへやって来たんだい」


 僕は眠るまえ、ジーナによくそう語りかけた。ジーナは金色の目で僕をのぞき込み、何も言わずにただゴロゴロと喉を鳴らしていた。

 僕はジーナを守りたかった。僕のところは何故やってきたのかなんか関係ない。僕にとってジーナはかけがえのない家族だったんだ。もしかしたら、母の話をしようとすらしない、ほんとうの父親よりもね。


 翌日は僕は会社の『センター』部署にあのどうしようもない企画の説明をしなくちゃいけない日だった。


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