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第六十五話 銃撃-4

 この事件で気の毒だったのは『かわます亭』のマスターで、


「それにしても荒っぽくきたなァ。まさかポート(駅)の近くまで襲われるとは。どうするこの店の窓ガラスを! ずいぶん迫力ある風穴が開いたなァ。いくらかかるだろ」


と肩を落とした。客の一人が


「俺がうまく模様にしてやろうか、こうカッコよく、弾のあとを鉛線でくっつけてさ」


となぐさめると、マスターは眉を吊り上げて半分泣きながらこう言った。


「そんなことしたら毎日思い出すだろうが! 腹立ってしょうがねえよ、俺は!」


 それで仕方なく、常連たちの方がマスターをなだめるために酒をつぐありさまだった。それを見ながら鳴子さんは誰に言うともなしに


「昨日は西地区がやられたって、ケガ人も出て仁がすっ飛んでったよ。……ネコカインの質が年々悪くなってるのが原因だね。集めても集めても足りないのさ。必要な人間は増えていくのにね」


とテーブルを拭きながら話した。


「ネコカインの質……?」


 僕はおうむ返しに聞いた。僕はとりあえず床にこぼれた酒や破片をモップのようなもので一か所に集めていた。鳴子さんは掃除の手を止めるな、とでも言いたげに僕のモップを指さして言った。


「ネコカインがたっぷりもらえる人間には気が付かないだろうさ、『火星世代』。『開拓団』はもともと配給なんか足りちゃいないから、ギャングなんかが横行するんだろ! もっとも『センター』は『猫』が絡まなければ無関心だからそれはありがたいけどね」


「配給が足りないってことは、じゃあどこで『開拓団』のみんなは『帳尻』を合わせてるんだい、鳴子さん……」


 僕はそう言いかけて口をつぐんだ。

 『火星世代』にとっては、ネコカインは会社にたのめばすぐに支給されるものだった。いつでもコンディションシートに「少し落ち込んでいる」と書けばいいだけの話だ。もしかしたら、それを横流しすることだってできるかもしれない。

 ……けれど、そんなことをやった人のことはついぞ聞いたことがなかった。つまり、そんなことをやったことがある人間の話が出ないのはたぶん『センター』への反逆になるからだ。僕は、子猫を『センター』に渡さずにきれいに『消えて』しまった同級生のことを思い出して思わず唾をのみ込んだ。


 鳴子さんは僕をちらりと横目で見ると、首を振って言った。


「そいつはギャングにでもなってみなきゃわからないね、亘平。私も占い師だから顧客にゃいろんな人間がいる。だけどね、ネコカインのルートだけは命が惜しけりゃ知ろうとしないこったね。まさに『好奇心は猫をも殺す』さ」


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