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第六十話 怜かく語りき-2

 ときはつづけた。


「私たちは実験台だった! 私たちに与えられたのは、片道の燃料だけだった!」


 僕はたじろいだ。自分の額に汗がにじむのが分かった。


「……君たちはエリートだったんだろう? 自分の意思で地球を捨てたんじゃないか!」


 怜は燃え上がるような目で僕をにらんだ。


「ええ、選ばれたのはエリート中のエリートだったわ」


 怜は怒りを押し殺した声で話し続けた。


「みんな二十歳にも満たない子供たちを、エリートと呼びたいならね。温暖化する地球のために、地球に残された人たちのために、火星までの飛行データを送り続けるのが目的だった。

 地球からの移住を成功させるために必要だったのは最低でも100人を運べる巨大船だったわ。でも、地球がそれだけの船を飛ばしたことは一度もなかった。

 私たちは自分たちが帰れないのは知っていた。でも、引き返すわけにはいかなかった。地球も極限状態の中で、移住実験のための太陽帆船を作った。期待された成果を出せず、もし失敗すれば、自分も、地球の家族も無事ではなかったから」


僕はあまりにも予想しなかった話に言葉を失った。怜はさらに言った。


「三回の打ち上げのうち、一回目の船は火星にたどり着いたけれどすぐに餓死した。二回目は途中で任務を放棄したので監視役によって自爆した。

 三回目、私たちは幸運にも最短でたどり着いて、小さなコロニーを作り、応援物資の到着を待っていた。何年……何十年もね! けれど、地球は私たちを見捨てたわ。

 ……見捨てられたのは私たちの方よ!」


「じゃあ、いったい誰が地球を……」


怜の頬をあふれ出した怒りの涙が伝っていた。そして怜はそれをぬぐおうともせずに言った。


「わからない、亘平。なぜ私たちが見捨てられたのか。誰が、なんのために人々を殺し、そして、なんのために私たちに罪をかぶせたのか!」


 僕はその横顔を見ながら、怜はこころから美しいひとだと思った。僕の胸にわきあがったのは、あのいまわしい話がこの真実の涙によってふりはらわれたことへの、清々しいよろこびだった。

 このひとは嘘をつくことはない、という確信だった。

 

 僕がぼうっとして怜を見ていたので、怜は乱暴に腕で涙をぬぐうと、僕に不審な目を向けた。僕はあわててこう言った。


「やっぱり、話してよかったよ……。怜さん……。胸がすっかり軽くなった。しばらく疑心暗鬼だったからね……」


「呼び捨てでいいわよ」


と言いながら怜は視線を地平線に戻した。


「私が『はじめの人たち』だということは言わないでくれる? なぜ『開拓団』に出入りしているか、それは言えないけれど、私の個人の用事があるからだわ」


篤姫は言った。『片方聞いて沙汰するな』

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